第51話 死の影
「マホーン!マホーン!」
独特の鳴き声をあげて、風を吹かせ、羽を降らせる。
俺は自分とクジャクの間に風を発生させて羽の軌道を狂わせ、暴風の勢いを殺す。
その間に皆は転移石を目指し、ハルと盛田さんが上手く盾の位置を調整しながら交代しつつ転移石へと移動している。
「ギッギッギッ」
攻撃が思うように効かない事に苛立つように、クジャクは短く鳴いた。
その足元をすり抜けて岩壁の角を曲がり、クジャクを誘導する。クジャクはいとも簡単に、俺を追って転移石の方から俺のいる方へと体の向きを変えた。
体力が付いたとはいえ、人並みだ。元インドア派は、元の体力値が低いのだ。
風で羽の直撃を逸らし、俺は合図を今か今かと待つ。
「シュウ!」
待ちに待った声がしたので、俺は派手にクジャクの鼻先に火を叩きつけ、足に火炎放射のように火を噴きつけた。
「マホオオン!!マホオオン!!」
鳴きながらクジャクはどうと倒れた。足がこんがりと焼けていてはあの体重を支え切れないという予想はあたったらしい。
俺は急いでそこを飛び出すと、クジャクの背中側を通って岩壁の角を曲がった。
転移石の所に、イオ、チサ、ハルが辿り着いていた。あとは魔力を流すか魔石を使うかだけらしい。
俺は地面に刺さる羽や転がる岩を避け、乗り越え、転移石を目指した。
が、イオ達の顔が引きつる。
「え?」
俺はその視線を追って振り返ろうとしたが、バランスを崩して倒れ込んだ。その後から、腕がやけに熱くなり、何事かと腕を見たら、右腕が無かった。やや先に見覚えのある右腕が転がり、血糊の付いた羽が地面に突き立っていた。
脳が思考を拒む。
誰かが叫んでいる。
体をどうにか起こし、座り込んだ姿勢で背後を見ると、クジャクが羽を広げて心なしか得意気にしているように見えた。
これまでで一番の、強い恐怖と絶望を感じた。
そして暴風が吹き荒れ、上も下もわからないくらいにかき回されて、転がされる。
「マホオオオン!」
クジャクが心なしか嬉しそうに鳴いた。
イオは腕が折れたまま転がって、起き上がれないようだ。チサは額を切ったのか血を流し、ハルは壁に打ち付けられたらしく座り込んだ格好で失神しているらしい。細川さんは一条さんをかばうようにしながら2人で転がり、佐伯さんと盛田さんは倒れて呻いていた。
あれほど「早く近くに」と急いでいたハル達に手を伸ばせば届く距離にまで近づけたのに揃って死にそうになっているなんて、とんだ皮肉だ。
俺はゆっくりと体を起こし、クジャクを見た。
あれほどこんがりと焼けていた足は、すっかりと回復されている。
俺は、じっくりと魔式をつむいだ。
「痛いだろうが。羽をむしって扇子にしてやろうか」
緑色の光が体を包み、むず痒いような感覚が生じるのをがまんする。
光が消え、俺は右腕を曲げ伸ばしし、指を握ったり伸ばしたりしてみた。違和感はない。
「へえ。本当だ」
呟いて、クジャクを見据える。
背後から、呻き声に続いて、ハルの声がする。
「今のって──いや、それよりどうするつもりだよ?」
「さあて。どうしてやるかな」
「か、回復が凄いんでしょ?風も強いし、攻撃なんて通るの?」
イオが言うのに、
「通すんだよ」
と言い、槍を構え、魔式をつむいで撃つ。
「マホーン!」
暴風がクジャクの周囲を吹き荒れたが、俺がしたのは、クジャクの周囲の空気をいじり、酸素と水素を結合させて水にする事だった。水球が周囲に無数に浮かぶ。
しかしその分酸素は消え、クジャクは開きかけていた羽をバタバタと動かして身をよじる。
次にその水球でクジャクの顔の周囲を覆う。
「追加だ」
水を追加で放って、クジャクの顔を水で覆う。
「え。シュウ?これって、クジャク、溺れてるのかしらあ?」
チサが訊く。
「ははは!周囲の分子を分解してから結合させて水にして、酸素を消した。その時点で酸欠だ。それからその水で顔を覆ったから、溺れてる。
空気を求めて思い切り吸い込んだのが水だもんなあ。がっかりだろうな」
クジャクはもがき、身をよじり、倒れて痙攣し始めた。
「うそ。怖い」
「シュウに魔術なんておもちゃを与えたの誰だよ。神様?」
「大丈夫よお、たぶん。シュウはヒトにはしないからあ。たぶん」
「たぶんって何だよチサ」
「怖いわよ、余計に」
背後でハル達が言い合うのを聞いているうちに、クジャクは動かなくなった。
「羽がきれいだし、使えるかも」
俺はまずクジャクを消えないうちにバッグに入れ、皆のケガを治癒して回ったが、ここで一気に体が重くなり、頭が痛くなった。
「ああ?何だこれ。頭が痛くて、体が重くて怠いぞ」
言った途端、帝の皆が騒がしくなった。イオやチサ、ハルは、予測していたらしく、散らばる羽を回収している。
「何やったんだ、今!?」
「説明……しないとダメだろうなあ」
俺達は曖昧な笑みを浮かべた。
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