第52話 革新
帝のメンバーは、黙って大きく息を吐いた。
ここまで、霊とゾンビの所はハルのペンライトをかざして散歩のように通り過ぎ、ハルのナビで獲物を容易に見付け、危ない攻撃はハルのバリアで防いだ。そしてチサが弱点を告げると、イオは常人の域を軽く超えた動きで敵に躍りかかり、俺は何種類もの魔術を効率よく撃ちこんでいく。そうして仕留めた魔物は、ボディバッグに入れれば、質量も重量も関係なく、手ぶらであるかのようだ。
「聞いた事無いぞ、俺は」
佐伯さんはガリガリと頭を掻いた。
「辛うじて最近になってそういうバッグが出たと聞いたけど、そんなに容量は多くないって話だしな」
盛田さんが言うと、一条さんも頷く。
「ええ。それに、入れた時の状態を保つなんて、それこそフィクションみたいだわ」
細川さんは無口で、言葉は無かった。
俺達は居心地悪そうに顔を見合わせていた。
俺達の秘密を知った彼らに問い詰められ、俺達は見られたものは仕方がないと話したのだ。すると当然の如く目の前でやって見せろと言われたので、帝のメンバーを見学者にして、こうして潜っているのだった。
「皆多かれ少なかれしてると思ってたし……なあ?」
「そうねえ。それに、できるものはできるんだし、別にいいかなあってねえ」
ハルとチサが言い、俺とイオはうんうんと頷く。
「待ってくれ。えっと、どういう事だ?何で?どういう仕組みだ?」
佐伯さんは、眉を寄せて考え込みながら訊く。
「僕はわかりませんよ?たまたまできちゃったんですから。オレンジ姫の奇蹟なんです」
ハルの言い分に、彼らは妙な顔をした。
それに一応言っておく。
「その傘やペンライトを俺達が使っても、同じ効果は得られませんでしたよ。それはあくまでもハルにとってトリガーとして紐づけられた物である、という話です」
俺は補足しておく。
「私もたまたまだわあ?どうしてかわからないけど、ここが弱点だなあって」
チサはそう言って首を傾けた。
「それなら私も、原理なんてわからないわ。魔力なんてサッパリわからないし、何かが体を巡るなんて言われてもねえ。でも、そう考えたら力が体を巡ったのよね」
イオはそう言って明るく笑う。
「そもそも魔力が見えたって何?」
俺に細川さんが訊き、全員が俺を見た。
「そう言われても、見えるんですよ。魔術を構成する法則とか。それで、それを真似てみる事で魔術が使えて、構成を変えると、規模とかが変わる事も分かったので、まあ、便利に使ってます」
俺は言いながら、ワクワクとして来た。
「もうバレたし、普通に使おうかな。
ああ。でもダンジョン内でしか魔術は使えないから、空を飛ぶのは無理かあ」
残念だと溜め息をついていると、彼らも溜め息をついた。
「魔力を感知する事は、高位の探索者の中にはうっすらできる者もいる。でも、見える者は聞いた事がない。
でも、その魔式をなぞることが可能なら、ヒトが魔術を使う事は不可能ではなくなるのかもしれない。
ここに、第一号がいる事だしな」
佐伯さんが言って、それに一条さん達が期待するような目をした。
俺達は目を泳がせる。
佐伯さんはギラギラとした目を俺達に向けた。
「君達がいれば、あそこを攻略できるかもしれないな」
俺はそれを聞いて、危険な臭いを感じ取った。
ハルも同じらしく、ソワソワと落ち着きなく皆の顔を見回した。
しかしイオとチサは、目をキラキラと輝かせた。
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