第25話 それも牛

 涎を垂らしながら真っすぐに頭を低くして突っ込んで来たのは、差し詰め闘牛の牛だった。

「燃えろ!!」

 避けながら火を叩きつけると、それは火だるまになったが、首の一振りで火が消えた。

「何したの、この牛!?」

 Uターンしてこちらを睨みつけながら足で地面を掻く牛に、ハルが叫び声をあげた。

「消火ぁ?」

 チサが首を傾げた。

「何か、俺をロックオンしてないか?」

 俺は牛と睨めっこしながら言う。視線を外した瞬間にとびかかって来そうだ。

「一応火を点けられたからじゃないの?」

 イオが言った瞬間、牛が突進して来た。

「どうするんだよ、これ!」

 言いながら、横に避けざまに氷を突き立てる。

「お、刺さったぞ!」

「じゃあ、これも刺さるわね」

 イオが槍を構え直し、俺も槍を構える。どう見てもイオの方が様になっているが。

「来た!」

 再び牛は俺を目掛けて突進して来る。目が先程よりも、怒っているように見える。

 俺はひょいと避けて、氷を突き立てる。そして通り過ぎた後も、追加しておく。

 牛は壁際でUターンし、俺を睨んだ。大きな氷の杭のようなものを体に5本突き立てているが、体を壁にこすりつけ、氷を何本か落とした。

 それでも傷口はそのままなので、流血している。

「グモオオオオ!!」

 そして声を上げると、突進して来た。足取りが少しよろめく感じで、スピードが遅くなっている気がする。

 俺は横に避け、もう1本氷を突き立てる。

 その牛の先にはイオがいる。

 牛はそのままイオの方へ向かい、イオは落ち着いて槍を牛の首に突き立てて横に避けた。

 牛はそのままよたよたと歩いたが、Uターンしたところで限界が来たらしい。足を折るようにして倒れ込み、しばらくもがいていたが、そのまま動かなくなった。

「死んだの?」

 ハルが恐る恐る訊くのに、チサが牛をじっと見て応えた。

「死んだわ。硬いかどうか、一度解体してみましょうよお」

 それで俺達は牛をカートに乗せたのだが、かなり重くて苦労した。どうにか乗せたが、疲れた上に、カートもいっぱいだ。

「帰るか」

 俺が言うと、皆も頷いた。

「そうね」

「無理は禁物だよ」

「シャトーブリアンよお」

 獲物が満載のカートは重かったが、足取りは軽かった。


 地下室へ台車を引き入れて解体する事も考えたが、違法に産出物を取り込んでいるという疑惑を抱かれないために、素直にそのまま買い取り受付へ持ち込む事にしていた。

 大きな鹿や牛が入っていたので、「帰って来るところ」をカメラに収めようと待ち構えていた報道陣には迫力のあるいい絵になったと喜ばれたし、剣とポーションが出たのは、いい宣伝になったと協会が喜んだ。

 魔石は国に売ることが決まっているが、武器や防具やポーションなどの魔石以外のものは、「出た」という報告をすれば、売る、売らないは自由だ。最初はこれも国の産出物となる予定だったが、個人が命がけで挑んだ証の戦利品までなんでも国のものとするのはどうかという意見が多く、こういう形に決まった。

 肉と剣とポーションだけを売らない事にして、剣はイオの要望通りに打ち直してもらえるように専門の職人に依頼することにしたが、日本のダンジョンで出た武器第一号として注目される事になった。

 それで一気に、探索者免許を取得しようとする人が増えたらしい。

 そんな上々の滑り出しだったのだが、好事魔多し。問題はこんな時に発生するらしい。



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