第26話 予想外の出来事
隣のマンションは探索者用のマンションになり、2DKでバス、トイレ、鍵付きのロッカー付きの探索者向けの部屋になった。そこにイオとチサも入居しているが、あっという間に入居希望者で満室になったらしい。
ハルは以前のアパートに住み、ロッカーは置けないので俺のところに一緒に置いていたが、問題が発生した。
「なんじゃこりゃ!?」
俺達はハルからの慌てた様子の電話を受けてハルのアパートへ駆けつけたが、それを見てあんぐりと口を開けた。
元々古い建物ではあったし、階段などにもサビが浮き、サッシも歪んでいた。建て替えを大家も考え始めてはいたらしい。
それでも、それは驚きの光景だった。
裏側の壁が完全に剥がれ、崩れ落ち、天井も半分が落ちて無くなっている。おかげで部屋の中は丸見えだ。
「見た事あるぞ、こういうの」
俺がボソリと言うと、チサとイオが呆然としながら頷いた。
「あれよね、舞台の芝居のセット」
「ああ、そうよねえ。コントとかでも見た事あるわあ」
「家って、こんな風に壊れるのね」
するとハルが、
「壊れないよ!普通は壊れないから!」
と泣きそうな声で反論した。
「ああ、ごめんごめん。つい」
「しかし見事なもんだな」
「ええ。このままセットとして使えそうだわあ」
住人はそこかしこで同じように呆然としていたり、どこかに電話をしたり、家財道具を取りに入ろうとして警察官に止められたりしていた。
大家は放心状態でアパートを見上げているし、野次馬が集まって、写真撮影を行っていた。
チラリとネットを見れば、もうこれがアップされていて、「コントみたい」「冗談みたいで笑える」などというコメントでにぎわっていた。
「次の更新の時は、建て替えるから契約しないとは聞いてたけど、まだ8ヶ月先だったんだよ」
ハルは声を震わせた。
「家賃が高い所は無理だし、まだ見つかってないよ」
そう続け、がっくりと肩を落とした。
「イオの所、空きは?」
「ないそうよ」
俺達は揃って嘆息した。
「でも、ケガとかしないでよかったじゃないか」
チサも明るい声をあげた。
「そうよお、ハル。ほら、ええっと、補償とかあるんじゃないのかしらあ?」
「そうそう。不動産屋さんも、敷金とか無しで次を紹介してくれるとか。
無いなら交渉したらいいのよ、ね?」
イオも励ますように言って肩を叩くが、ハルの顔は晴れないままだ。運が悪く、ハルの部屋は天井が落ちて2階の床も抜けて上の部屋のものが降り注ぎ、家財のほとんどがダメになっているようだった。着替えも布団も何もかもを一新しなければならず、かなりの出費が予想される。
俺は頭を掻いた。
「まあ、ハル。うちに来るか?親は海外に転勤になってるから、部屋もあるし」
ハルは顔をあげて俺を見た。
「でも……」
「探索で収入はあったけど、全部を使い果たすわけにはいかないし」
それにイオとチサが先に手を打った。
「それがいいわよ」
「そうよお。今すぐどこかに入居なんて事も出来ないんだしねえ」
それでハルも、その気になったらしい。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ、シュウ」
俺達は笑いあい、どうにか無事だったものと貴重品などを持ち出そうと、警察官に歩み寄った。
テレビのニュースでもアパート崩壊は取り上げられ、『ダンジョン初の武器を手に入れたチームのメンバーの1人も住んでいた』と付け足されたので扱いが大きくなり、どうにかアパートから無事な物を探し出そうとする俺達の姿も流れていた。
それで、俺もそいつの注意を引いてしまった。
ハルの数少ない無事な荷物を運び、必要なものを買いそろえ、4人でウチのリビングで一息ついていた時に、その客はやって来た。
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