第24話 ウシ

「一応、牛、かな」

 ハルが控えめに言うそばで、イオは憮然としていたし、チサは残念そうに嘆息した。

「でも、食用には向かないわね」

「ええ。抵抗あるわあ」

 そいつの顔は長く、頭に角が生えているし、牛乳パックに描いてある絵にそっくりな、牛だった。

 しかし首から下はヒトの男のものだった。

「二足歩行の動物って以上に、首から下がヒトに近いしな」

 俺も食欲はわかない。

 俺達が見る先で、そいつは俺達に目を据えたまま筋肉モリモリな体でボディビルのポージングを見せつけるようにしていた。おちょくっているとしか思えない。

「何か、俺に貧相だと言って来てる気がして来たぞ」

 被害妄想だろうが、やつの顔付きからはそうとしか思えない。

「何か腹が立つわね。何。筋肉自慢したいわけ?マッチョ信仰の男ってやつ?」

 イオがイライラと低い声で言う。

「シャトーブリアンだと思ってたのにぃ」

 チサはこん棒を握りしめて口許だけで笑う。

「ひっ!?」

 それを見たハルが引き攣った声をあげ、それを合図に俺達は飛び出した。

 まずは火を浴びせたが、やつは鎧のようにまとった魔力の層で跳ね返す。

 しかしその時にはイオが接近しており、首を狙って斬りかかっている。

 それは右腕に持つ剣で防がれたが、そいつのむこうずねにチサがこん棒を叩きつけた。

「ギュオオオオオオ!」

 痛そうだ。弁慶の泣き所は、こいつにも有効らしい。

 なので俺は、もう片方の足のむこうずねを槍で斬りつけた。

 それでたまらずそいつが転がると、イオは無防備に晒されたクビに刀を振り下ろす。

「ギュモオオオ!!モオオオオ!オオ……」

 ガンガンと全員で寄ってたかって攻撃し、そいつは無事に死んだ。

「死んだ?死んだふりじゃないよね?」

 ハルがツンツンとシャベルの先で突くのに、俺達は段々と心配になって来る。

「死んだだろ?」

 俺達は各々の武器の先で突いてみた。

 そうしている間に、そいつは体を崩すようにして、魔石とポーション、剣を残して消え去った。武器もポーションも、日本では初めて出る物だ。

「ポーションかあ。クビのもとだからな。因縁を感じるな」

 俺はその小さな香水のような小瓶を拾い上げた。

「こ、これが数千万するとかいう──!」

 ハルが飛び出しそうな目を向ける。

「これを飲めばすぐにケガが跡形もなく治るんだもんな。これを科学的に合成できればそりゃあいい薬だよ。それで、海外から数千万かかっても買い取って調べようとしたんだよ、会社は」

 あのバカが失敗してパアになったけどな。

「こっちもレアだけど、剣かあ」

 イオが剣を拾い上げて、やや残念そうに言う。

「重さとかはいいんだけど、長さと形がねえ」

 そしてそれをチサに回した。

「まあ。結構重いのねえ」

 鉄芯を仕込んだこん棒を振り回すチサだから、振り回せるとは思うが。

 そして、俺に回って来た。

「ヨーロッパの騎士とかが持ってそうな形だな」

 言って、ハルに回す。

「日本刀ならよかったのになあ」

 ハルは残念そうに言い、それをイオに回した。これで1周だ。

「打ち直してもらえばいいんじゃないか?」

「そうねえ。本当は日本刀が良かったのに、仕方なくそれを使ってるんだものねえ」

「そうだよ。それがいいよ」

 俺達が勧めると、イオは途端に嬉しそうにニマニマとしだした。

「え、でも、悪いわ」

 などと言いながらも、長さなどを考えている目付きだ。

「何か、高いネックレスとかを貰った女みたいだなあ。バイト先で見た事あるけど」

「それがネックレスでなく武器というところがイオだな」

「残念だわあ」

 コソコソと言うが、イオはそれにも気付かないくらいに剣を振り回して舞い上がっていた。

 つくづく残念美女だが、イオらしい。

 剣とポーションと魔石をカートに入れ、俺達は階段を下りた。

「次は牛が出る確率が高いわね」

「今度こそシャトーブリアンかしらあ」

「上カルビとか上ロースとかフィレも好きだな」

「ちょっと!緊張感を持てよ!もしかしたら水牛とか野牛かもしれないし!」

 ハルが不安いっぱいになって言い、いつもの雰囲気になりながら俺達は下の階に足を踏み入れた。

 が、一つ目の角を曲がったところで会敵した。

「ぎゃああああ!?」

「ハルが余計な事言ったからじゃないの!?」

「何でぼくのせい!?」

 俺達は思い切り叫んで逃げ場を探した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る