第30話 体験教室
刀匠は、40代のがっしりとした男性だった。
ダンジョンから出た剣を出し、この素材を使って日本刀に直してもらいたいと言うと、剣をしげしげと眺めてから請け負うと言ってくれた。そして、イオと長さや重さ、形を決めて行く。
それが済み、予約していた通りに、見学と体験をすることになった。
まずは工程の見学をする。
真っ赤な鉄の塊を挟みで挟んで押さえ、機械で叩いてのばす。最近は人が減った事もあり、どこも大抵、機械を使って作業しているそうだ。
それをまた真っ赤に熱して叩き、適当な長さにカットすると、また熱して叩く。
それを繰り返した後、グラインダーで磨いて刃先と持ち手を作り、裏づくりをして、持ち手の角を整えてから、印を彫る。
それに「とのこ」というものを塗ってから熱し、水の中に入れて急冷すると、研ぎをして、出来上がりになる。
ざっくり言うと、そういう手順だった。
「まあ。ナイフになったわあ」
チサが感嘆の声をあげた。
「いい刃物はこうして作って行くのね」
イオもしみじみと頷く。
「へえ。見に来て良かったなあ」
俺は今しがた見た作業を思い出しながら言う。
「手間がかかっているんだね、本当に」
ハルも感心したように言い、溜め息のような感嘆の声をあげた。
イオの刀も、こうした丁寧な作業でできあがっていくのだ。
「出来上がりが楽しみだな」
それにイオは、ニヘラと笑った。
「では、一旦休憩して、5分後に短刀制作体験を始めます」
案内してくれた弟子の人に言われ、俺達はやる気と期待をみなぎらせた。
今回作る短刀は、上手くできれば今後ダンジョンへも持って行こうと考えていた。なので、真剣味も上がる。
熱さにも飛び散る火花にも、最初は恐々な所もあったが、いつの間にか熱中していた。俺達は先生の指導を受けながら、黙々と作業する。
と、俺は気付いた。
この叩く作業で魔力を加えたら、より欠けにくくとか、切れ味が鋭くとか、硬度が高まるとか、するんじゃないだろうかと。
そこで俺は、何も言わずに実験してみた。ひたすら少しずつ、魔力を加えていく。
しかし、どうやっても魔力を出す事はできなかった。
(ダンジョンの外では、一切魔術が使えないという事か。魔力を注ぐだけで使えそうなものが使えないというのもこのせいか)
残念だが、実験としては失敗ではない。
あとは大人しく、普通に短刀作りをした。
やがて前後して4人共短刀が完成した。感無量だ。
「できたわあ。これからはこれで解体するわあ」
チサは嬉しそうに言うが、ニタニタしながら短刀をなでくりまわすのは見ていて怖い。危ない人みたいだ。
「きれいねえ。かなり手伝ってもらっちゃったけど、手作りなんて凄いわね。
ああ。お願いしてる刀も、本当に楽しみだわ」
イオも機嫌よく短刀を見ている。
「ケースも色違いだし、お揃いだね」
ハルは一番ビビっていたが、整形も研ぎも、一番丁寧かもしれない。
「ああ。早くダンジョンに入って試したいな」
俺はこっそりとしたその結果が気になって仕方がない。わくわくとして、顔が緩んで来る。
そんな俺達を見て、先生である鍛冶師達は、
「探索者の方は、やっぱり違いますね」
と若干引いていた。
そして俺達は、刀の方をお願いし、工房を後にした。
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