第38話 世界最初のダンジョンで

 世界初のダンジョンが、一番先まで攻略が進んでいる。

 しかし、40階の壁が破れそうになかった。

 ダンジョンを所有しているその国は、世界から高名な探索者を集めたドリームチームを作り、威信をかけて攻略をすすめようと考えた。39階までは上手く行っていたのだが、40階が問題だったのだ。

「何なんだよ、あれ!?」

 どんなに強い攻撃でも怯えなかったメンバーが怯えた声を出す。

「何が起こってるんだ?」

 ケガをしてもポーションを飲んですぐに奮起してきたメンバーが逃げ腰になって言う。

「どうやったら勝てるのよ」

 魔術という理不尽な攻撃を受けても、隙を探し、対抗策を考えて来たメンバーが絶望を顔に貼り付かせて言う。

 これまでも、進むにつれて攻撃は強くなってきた。それには、逃げるか、しっかりと受け止められる盾や防具を用意する事でどうにかできた。それにヒトでも、魔力で体を覆ってバリアのようにすることができるし、体に巡らせて動きをよくしたりできる事がわかっている。

 体が硬くて攻撃の通りにくい魔物もいた。それには、ダンジョン由来の武器を使用する事で対処できた。

 魔術を使う魔物もいる。それには、火に強い素材のインナーや、防刃性能のある防具などを準備しておくことでダメージを減少できた。

 魔術で攻撃を防ごうとする魔物もいた。それには更に強い攻撃を浴びせる事でどうにかできた。

 しかし、これはどうすればいいのだろう。

 その辺に漂っているのが魔素で、それを生物が取り込んだ物を魔力と呼ぶ。そして魔術とは、その魔力を任意に外へ放出したもの、またはその現象を言う。

 この40階にいるこの魔物は、魔術を使う。

 しかし普通ではなかった。相手の魔力に干渉してくるのだ。

 何せこれまでヒトが魔術を使用したことはない。なので研究が追い付いていないが、少なくともこれまで、魔素や相手の魔力を使った魔術はなかった。魔素とは魔力、魔術の元である。そして魔術とは、自分の魔力を使って行うものだ。そう、解釈して来た。

 なのにこの40階のボスは、他人の魔力に干渉してきた。

 バリアのようにまとった魔力が火になって燃え上がった。

 なのでポーションでケガを治そうとしたら、そのポーションを飲んだ者は苦しんで絶命した。

 体を強化して逃げようとしたら、その体は中から何かに斬られた様にバラバラになって死んだ。

 ヒトなどか弱いものだ。しかしそれでも、強力な攻撃を受ければへこみ、飛ばされるような盾を構え、のたのたと走って対象に走り寄り、或いは攻撃から逃げ、弱々しい攻撃を浴びせるしかできない。

「撤退だ……!」

 苦渋の選択を下すが、それも容易ではない。

 命からがら、幸運な者だけがそのエリアから帰還する事ができたが、その数は最初の半分以下だった。

 そして、どの国のどのチームも未だ攻略に至ってはいないが、不安をあおるからという理由で、結果も伏せられたままだった。


 命からがら戻った1人、佐伯研吾は、久しぶりに日本に戻っていた。

 思い出せば、悔しい思いもあるが、同じくらい、絶望も感じている。

 このままでは踏み出せないと、気分転換にも日本のダンジョンに潜って見ようと思い立ち、一番そこから近いところに行く事にした。

「へえ。日本初のあそこか」

 恋人でチームメイトでもある井上明美は、そのチーム内で唯一招聘され、期待を背負って出かけて行った佐伯が、どうにか無事に戻って来た事は喜んだが、すっかり自信を無くしてしまったかのような様子を心配していた。

 なので、自信回復になるかと勧めたダンジョンアタックに佐伯がその気になって、ホッとした。

「そうよ。日本で出現したのも初めてだし、日本で武器、ポーションが出たのも初めてよ」

「ああ、桃太郎、だったか。

 よし。行ってみるか」

「じゃあ、皆にも声をかけるわね」

 チームのメンバーに嬉々として声をかけると、皆も心配しており、即、潜ることが決まった。


 俺達は湿地帯のフロアに進んでいた。

 このダンジョンでは俺達は最深部攻略チームのひとつと位置付けられており、周囲にほかのチームはいない。

 なので俺は誰の目も気にせずに観察ができていた。

「シュウ、危ない!」

 俺の後ろ首を掴んでイオが乱暴に引き戻す。

 その直後、俺のいた所にスパークが走った。

「見えたぞ!電撃!」

「シュウ!いい加減、観察よりも身の安全を優先しろって!」

 呆れたようにハルが言うが、イオはニヤリと笑った。

「じゃあ、もう仕留めてもいいのね」

 それにチサもにっこりとする。

「うな丼食べ放題ねえ」

 俺達のスタンスは相変わらずだった。





 

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