第48話 今後の課題と夏休み
しかしそれとは別に、俺達はよそと違い過ぎるという事にも気付いた。ハルのバリアと気配察知と浄化、チサの弱点看破、俺の魔術は、便利だ。しかし便利に使って来たせいで、体力や筋力や身のこなしという基本的な事ができていない。
どうやってあれを倒したのかと聞かれ、その事に気付いたのだ。
なので翌日から、体力づくり、武器を使っての練習を日課に取り入れた。
ダンジョンでは、そうそう簡単に魔術も使わずに対応するようにもしている。
「こんなに大変だとは思わなかった」
「魔術で相当これまで楽して来てたな」
それが俺達の感想だった。
その甲斐もあってか、普通の探索者並みには体力も付いたし、槍やスコップでも魔物に対処できるようになった。
試しに魔術なしで1階からここまで潜り直してみたが、どうにか以前の階まで来る事ができた。
「これでようやく、階と力が釣り合ったってところかしら」
「どうしてもの時は仕方がないけど、がんばってみましょうねえ」
俺達はボスを倒した後に部屋を出るまでの暫定安全地帯となる場所で休憩しながら喋っていた。
5階までは各階毎にボスがいたが、6階からは10階、15階と、5階毎にボスがいる仕掛けらしい。そして転移石も5階毎、ボス部屋を出た先にあった。
「よし、行くか」
そう言って俺達は腰を上げ、先に進む事にした。
階段をそろそろと油断しないようにして降りて行く。
「何だ、ここ?」
ハルが素っ頓狂な声をあげる。
背の高さを越える草の壁が、視界を遮った。しかし一部だけは草の丈が短く、そこから奥を覗き込んでみると、草の壁と通路状の所が見える。
これは、見た事がある。
「迷路?」
「巨大迷路だわ」
俺とイオの声が重なった。
「遊園地とかで流行った時があったわねえ」
チサが何かを思い出すように言う。
「待って、待ってよ。もし中で迷ったら?そのまま中で行き倒れ?」
ハルは青い顔だ。
「何とかなるわよお」
チサがニコニコとして言い、押し切られるようにして俺達は迷路に足を踏み入れた。
草の壁はさわさわと音を立てて軽く揺れ、光は差し込んで来るが、やはり視界が確保できないせいか、通路も幅70センチほどしかないせいか、圧迫感がある。
いっそ燃やしてしまいたいという衝動にも駆られるが、火事や火傷、もしほかの探索者がいたら焼死してしまうという危険があり、火気厳禁は徹底するよりほかはない。
しかしイライラや不安を覚えていたのは俺だけではなかったらしい。ハルはへっぴり腰でしきりに辺りをキョロキョロと窺い、イオは時々現れては頭上から急降下してこちらを狙って来るカラス程度の大きさの鳥を物凄い目付きで睨みつけながらバッサバッサと切り、チサは足元に時折ちょろちょろと現れるネズミのようなものを力一杯殴り殺していた。
「もう、パアッと燃やしてしまいたい!」
イオが嘆息して言う。気持ちはわかる。
迷路というのも厄介なのに、正解の道を探しながら不意に出て来る魔物の相手もしなくてはいけない。
いつもならハルのアンテナに引っかかりそうなものだが、この草が妨害電波じみたものでも出しているのか、気配が読めないらしい。
魔物の襲撃も散発的で、黙々と迷路のクリアだけを目指すような時が続くと、草の壁や、それを通して差し込んで来る光、さわさわという草の揺れる音などが、子供の頃の夏休みに戻ったかのような感覚に陥らせ、集中力が途切れそうになる。
危ない危ないと気を引き締め直し、行き止まりの壁の前から回れ右をした時、草の壁を割ってそれが踊り出て来た。
俺達は一瞬、棒立ちになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます