第22話 ゲート開放日
講習会へ通い、家へ帰ってからは動植物の記録を取ってから魔術の研究と練習をするのが日課になった。
ダンジョンに入る人の事を、皆各々「冒険者」「探索者」「ダイバー」などと呼んでいたが、日本では「探索者」と呼ばれる事に決定した。
なんでも、冒険者というのは何の事かわかりにくいと難色を示す有識者も多く、ダイバーだと潜水士と一緒になるからわかりにくいという意見が出、先がわからない穴を探索するのだからという事で探索者になったという。
その探索者になるには、講習会に通ってカリキュラムに沿って座学と実技の教習を受け、テストに合格すれば免許を取得できるというシステムだ。自動車運転免許に似ている。
座学は、法律やルールに関する事、ダンジョンや魔物についてわかっている事──例えば、死んだ魔物は消えるとか──や、買取部位についてなどを習うし、実技は、体力作りのためのトレーニングと何種類かの武器に分かれての簡単な練習が行われた。
実技も、よほど運動音痴でなければ大丈夫くらいのもので、あとは何があっても自己責任だ。
魔術については、「高位の探索者は魔力を体に張って攻撃を防ぐ事もできるそうだが、取り敢えずは避けるか丈夫な防具で身を守るように」と言われた。
俺達は、魔術について、もちろん何も言わなかった。
学生も社会人もいたが、俺達は問題なくそれらをクリアし、2か月の講習を終えて、晴れて日本プロ探索者第一期生となったのである。
「早いもんだなあ」
俺は我が家の前に立って、ゲート付近を見ていた。
穴はしっかりと整備して階段とスロープの入り口になり、門のあった所には壁が作られ、そこから庭の内側の穴には鉄板で蓋をしてある。そして整備したその穴の前に通路が作られており、隣のダンジョン協会の建物に続いている。
もう、「穴」とは呼べない立派さだ。
免許を貰う前から毎日のように地下室へ入り、魔術の研究と練習を続けて来たが、大っぴらに入るのは今日が初めてだ。
「緊張するね」
ハルが言うが、チサはいつも通りににこにこしているし、イオも元気にストレッチをしている。
今日はゲート解放の第一日目で、探索者は全員潜らんとして開放を待っていたし、マスコミもその時を待ち構えて集まっていた。
探索者免許の発行を前に、政府は武器や防具の販売も始めた。そこには軍や自衛隊や警察が使用しているような防具や衣服もあり、受講者たちはほとんどの者がそこで購入した。
だから、似たような服装、武器の者がいる。
他の皆が大抵ゲームかアニメのコスプレじみて見えるのに、俺達だけが、やや系統を異にしていた。
俺達は基本、衣服は変わらない。ただそこに、プロテクターが付いただけだ。
そして武器は、俺とイオは短い槍、チサはこん棒と牛刀、ハルはシャベルとペンライトだった。しかも各々、新品ではない。そして、ブリキの箱を括りつけた台車を引いている。
持ち込んだ物などが一定の距離を置くと消えるのはわかっていた。しかし、生物が近くにいれば消えないというのも実験でわかっていたので、この台車の支柱に箱を付けて土とミミズを入れ、そばを離れても大丈夫なようにしている。
周囲の視線がチラチラと向けられる中、ダンジョン大臣の挨拶を聞き、地元の神社の神主の祈祷を受け、時計の針が10時になると同時にゲートが開く。
電車の改札口のような所を通り抜ける時に、身につけた探索者免許証に反応して青いランプが点く。デモンストレーションで免許証を持たずに協会員が通ろうとして見せたら、赤いランプが点くと同時にゲートが閉じた。
ゲートの先にある通路を通って、階段とスロープになったダンジョン入り口に吸い込まれるように入って行く。
「おお……!」
などと歓声を上げたり、記念写真を撮り合う探索者達もいるが、わからなくもない。
俺も、やはり正式に真正面から入るのは初めてで、新鮮な感じがする。
「よし、がんばろうぜ」
言うと、ハルは、
「うん。安全第一でね」
と言い、チサは
「中に鉄芯を仕込んだのよお」
とこん棒を撫で、イオは、
「何匹でもかかって来なさい」
と嬉しそうに舌なめずりをした。
俺とハルは、
「うちの女子は怖い」
と小声で呟いて手を取り合った。
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