第4話 真夜中の地底散歩
「で、これからどうしよう」
穴を見上げる。斜面が急で、地上まで上れる気がしない。
助けを呼ぶ事も考えたが、スマホが使えなかった。地上はそこに見えているのに、電波が届かないのだ。ダンジョンの内外でやりとりはできないとは聞いていたが、本当にそうらしい。
声を限りに叫ぶ事も考えたが、この辺りは住宅街と墓地と自動車学校があり、午後10時を過ぎると人通りがほとんどなくなる。
「朝になれば、新聞配達の人とかが穴に気付いてくれるんじゃないかな」
「それで警察とかに通報してくれればいいけど……個人の敷地内だし、放っておかれたらどうしよう」
ハルは暗い顔でそう悲観的に呟いた。
「まあ、明るくなったら、面白がって子供が覗き込むくらいはするでしょ」
イオはそう言うと、通路状になった先を目を眇めるようにして見た。
「じゃあ、朝までこの先に行ってみる?なんせ、日本初のダンジョンじゃなあい」
チサも楽しそうに笑う。
「それもそうだな。ダンジョンとか魔物とか、興味深いよ。仕事で多少は一般人よりも海外のダンジョンの情報は入って来てたけど、入ってみたいとは考えてた。
まあ、こんな遭難みたいな形になるとは思ってなかったけど」
俺も、カバンを持ち直してそう言う。
「ええー!危ないよ!先に進むとどんどん危なくなっていくんだよね!?ここで待った方がよくない!?」
ハルはそう言うが、3対1だ。
「朝方ここに戻ればいいだろ」
俺はカバン、イオは素手、チサは折り畳み傘、ハルはビール入りのコンビニ袋という武器とも言えない武器で、奥に向けて歩き出した。
歩きながら、俺はふと訊いた。
「日本の場合、出て来た魔石の所有権とか、どういう扱いになるんだろう。それに、家の玄関先にできたなんて邪魔だよな、家へ出入りするのに」
それに皆、考え込む。
「海外のダンジョンは、公共の場所に出たものと、個人宅にでたものがあったわよねえ?」
チサが言うのに、ハルが頷いた。
「そうだったなあ。確かアメリカとドイツは個人宅にできたんだったよね。それで、ドイツは調査中で政府が買い取ると言ったけど値段でもめてて、アメリカはその個人のものって事になったんだったよね。調査に軍が入って行ってるけど。イギリスとかは一般開放してて民間人も入ってるから、日本からも行ってるらしいね。で、日本ではもしダンジョンが出た場合はどうするかって国会で野党が突っ込んでたよね」
イオはそれで、思い出しながら言う。
「そうそう。確か、個人資産の扱いになるんだったわよね。ただし、調査とかの協力をお願いするっていう」
「どっちつかずだよなあ」
俺は溜め息をついた。
まだ会社にいる頃なら、会社に報告していただろう。しかし今は、そんな義理は無い。会社には渡してやらん。
魔石は、海外から買い取ったものを政府から委託された大学の研究室で調査しているだけが、日本の研究の現状の全てだ。ダンジョンが出現した国がまずはそれらを独占して研究するので、ダンジョンのない日本など、友好国にお願いするしかないのだ。
国としては国有化したいだろうが、個人の権利とかを声高に叫ぶ政党がそうはさせじと反対していた。
そこで出たのが「協力」だ。命令はしないが、お願いはする。それが政府の出した答えだ。
「魔素とやらもあるかもしれないけど、魔素の検知も測定も、今は方法がわからないからな。まずはそれを何とかしないと、たぶんダンジョン関連の研究は進まないだろうな。
俺が好きにしていいなら、まずはその辺をなんとかできないか、フフッ、やってみようか」
「いや、あんたが興味のままにいじりまわしたいだけでしょ。あんたの考え、駄々洩れだから」
イオが溜め息をつきながら言い、チサはクスクスと笑い、ハルは魔石を拾い集めながら、
「小説なんかでは、魔物が中から出て来たりって事もあるそうだけど。大丈夫か、シュウ?」
と心配そうに訊く。
俺は考えたが、わかるわけもない。
「家の真ん前だものねえ」
「中から凶暴なヤツが出て来たら、真っ先に狙われるのがシュウの家だわね」
チサとイオがそう言い、俺は困って頭を掻いた。
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