第43話 すれ違い
「なに、これ。幸せぇ」
七色イノシシを噛み締め、俺達は思わずそう呟いた。
チサは、カツと味噌煮を作ってくれた。明日はしぐれ煮と唐揚げ、明後日はステーキにしようと皆で決めた。
「柔らかいし、特有の臭いも無い」
「クセがいい感じに旨味に変わってるんだな」
「あっさりと塩コショウで焼くステーキが楽しみになって来たわねえ」
「寄生虫が絶対にいなければタタキで食べたいところよね。ああ」
「絶対に美味しいな」
俺達は言いながら、七色イノシシを堪能した。
珍しい上に、力は強いし、魔力防御もするのでなかなか仕留めにくいし、市場に出回らない肉だ。それをお腹いっぱい食べられるのは、探索者の特権だ。
探索者になって良かったと実感するのは、こういう時だ。
楽しく話をしながら食べ、お茶を飲む。
「七色イノシシがまた出たらいいのにねえ」
「俺はヒドラポーションが欲しい。いろいろ実験用に」
それで俺達は、七色イノシシをまた探してみるのと、ヒドラのポーションを狙ってみる事に決めた。
俺は食後、地下室で実験をしていた。
作った岩壁の向こうからは、扉を開ける音、探索者の話し声、剣戟の音、豚の死ぬ時の声などが、何度も繰り返されて聞こえて来る。
俺は静かにして、ここに地下室がある事はなるべくバレないようにと務めていた。
今しているのは、ヒドラを安全な状態にとどめておくためのものだ。冷凍状態で置いておきたいが、キッチンの冷凍庫に入れるのはどうかと言われ、確かにダンジョン外に生きたまま持ち出すのはいけないと、この地下室に保管することにした。
そこで、ダンジョン内なら無限にある魔素を利用してできないかと、試作品に取り掛かっていた。魔素を集める式を書き、そのままの状態を保つ式を書く。
それで一応はできたのだが、どこに置くか。
そう思って地下室内を見回す。
持ち込んだヒヤシンスもスミレも青じそも、何ら変わりはない。まあ、青じその味はまだ試していないが。
金魚も変わりないし、モルモットにも変化はない。
球根や実や種、動物の内臓のどこかに魔石でもできて来るのかと思ったが今の所はそういうこともないし、成長速度におかしな点も無い。まあ、もっと時間をかければわからないのかも知れないが。
プランターに植えた魔植物のサツマイモの苗は順調に育ち、網で逃げないように押さえつけている。
蔓を振るおうとするのも同じなら、どうにか逃げ出そうと網の下でもがく事も芋が走り回るのも同じらしい。なので、ダンジョン内で栽培ができるという事がわかった。
では、魔物というのはなんだろう。これだけ地球の物と似ているのはなぜだろう。
考えていると、新しい探索者チームが入室してきたらしい。
「狭いな、このボス部屋」
「部屋というより廊下だぜ」
「日本は住宅が小さいから?それにダンジョンも合わせたの?」
俺は彼らの声を聞きながら、申し訳ない事をしたかな、と少しだけ思った。
「最初のボスはオークか」
「任せていいか、佐伯」
「ああ」
「ブヒャッ」
何かを切る重い音がして、倒れる音が続く。
「何か、おかしいなあ。この岩壁の向こうに隠し部屋でもあったりしてなあ」
俺はギョッとした。隠し部屋はある。あるが、侵入禁止だ。来るな。
念を送っていると、
「こんな入ってすぐよ?」
「それもそうだな。考えすぎか」
「行くか」
声がして、彼らは階段を下りて行ったのが気配でわかった。
俺は詰めていた息を吐き、
「危ない、危ない」
と呟いて、作業に戻った。
金魚の水槽のそばに式を書き込んだ箱を置き、中に冷凍庫から出して来た氷を置く。そのまま待って、融けなければ成功だ。同時に熱湯を入れたコップを置き、こちらは冷めなければ成功だ。
俺は結果をワクワクして待ちながら、金魚にエサをやった。
今しがた通ったのがチーム帝のメンバーだったとは、全く気付いていなかった。
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