ガールフレンドじゃ無いけれど……

第10話 黒髪ロング? or ショートヘア?

 翌日、学校での演劇部に駆り出されての稽古が終わり、生徒玄関で下駄箱から通学用のスニーカーを出そうとしたところに突然、崎が(九州の宮崎市、宮崎県と紛らわしいから今後宮のことは崎で統一することにする)現れた。


「ねえ、ちょっと話があるんだけどいい?」


(本人は意識しているのかどうか未確認だが)


 やや上目遣いで僕の顔をキリリとにらみつけるようにして言った。


 本人もおそらくその辺のことは自覚しているのではないかと僕はにらんでいるのだが……痺れるくらいにカ・ワ・イ・イ。


 特に気にも留めてなかったが、徐々に彼女の容姿が自分の好みにジャストだと思えてきた。


 まん丸の両目は、綺麗な二重瞼と長い睫毛が揃った最早最強レベル。


 上目遣いの時に見せる三白眼気味の白目がめちゃ白くて美しい。


 顔の中心には、小ぶりでキュートな鼻が彼女のコケティッシュな魅力を倍化させているし、やや厚めの唇は、僕の唇と合わさった時にどんな感触がするのだろうかと、想像を逞しくさせる様な豊麗で興味をそそる形をしている。


 そんな彼女の容姿に見とれるあまり思わず口が滑ってしまった。


「君、よく見ると結構カワイイな」


「な、なに、さりげなく告ってるのよ!! 今の話は聞かなかったことにするから、ノーカン! ノーカウントだからね!」


「あああ、そう取った? イヤイヤそんなつもりは120%無いのだが、失敬、失敬」


「もしかして、自分のことカッコいいとでも思っているの? 自惚れるんじゃないわよ。多少背が高いからって、髪の毛にちょっと天使のようなウエーブが掛かっているからて……」


(天パ気味なのは認めるが……。いや、結構彼女の僕に対する評価高くね?)


「成績が上位十人以内に入っているからって」


(本人も知らんのだが……)


「中学の時に他校の女子生徒に告白されたことがあるからって」


(それは個人的にはちょっと黒歴史なので触れないでおいて……)」


 僕にはもう、彼女に隠す秘密を持ち合わせていないのかもしれない……。


 話がややこしくなる前に適当にいなして、話題を変えれば良かったのだろうか。いつもの悪い癖で、つい前から気になったことを口に出してしまった。


「可愛いのは本当だ。けど、その髪型はいかがなものか……、いや、僕は意外と似合っていると思うが、少し幼いというか……、率直に言ってしまうと『やぼったい?』……っていうのか『イケてない?』とでも言おうか……」


 僕は、何気なく崎のオデコを覆う髪の毛を払おうと、スーッと彼女の額付近に手を差し伸べようとした。すると、すかさず崎は首をカクッと傾げ頭を後ろに引き、僕の差し伸べた手を払いのけるような仕草で、声を張り上げて言った。


「何しようとしてるのよ、あんた!!」


「えっ、その前髪邪魔くさくないかなと思って。両目に髪の先端が触れているじゃないか?」


「そんなの勝手でしょ! 勝手に人の髪の毛を触ろうなんて信じられない!」


「それは悪かった、謝るよ。まあ、その髪型も僕個人的には嫌いじゃないが、出雲の好みかどうかは保証できないな」


 それに対しての崎の反論は意外なものだった。


「えっつ!? 出雲君はショートヘアの女の子が好きだって人づてに聞いているんだけど……」

 人づてって、絶対に嘘だな。


どうせ例のスマホであれこれ、検索という名の詮索をしたに違いない。


『索敵魔法?』……だったけ。それは封印すると約束したはずだが、遵守されているかは大いに疑問だ。それに、出雲がショートヘア好きだなんて本人はおろか、友人達からも聞いたことがない。


「それは変だな、出雲本人に確認したのか? してないよな、多分」


「そ、そんなことできればとっくに聞いているわよ、直接!……」


 そして、髪の毛の先端を指の先でクルクル巻きながら、崎は髪型談義を続けた。


「高校に入学する前まではロングだったんだけど、意を決して自分で切っちゃった」


「えっ、ロングの髪の毛を自分でカット?」 


 それでか。崎の髪形に抱いていた違和感の正体が判明した。


 少しもったいない気もするが、崎の出雲への強い想いの裏打ちだと考えれば納得できる。


「もしかして髪が長かった頃の写真なんて物は……?」


「持ってないわ!」 


 即答だあぁぁ!


 しかし、黒髪ロングの崎のヘアスタイルも見てみたかったな……。少し残念な気もするが、今のやぼったい感じのヘアスタイルも、これはこれでイイのである。


「で、話が横道にそれたが、僕に話ってなんだ?」


「これから、あんたん家に行きたいのだけど構わないかしら?」


「唐突すぎやしないか? 僕が承諾するかどうかなんてこと、全然考慮してないだろう君って子は?」


「良く分かってるわね、さすがはズル賢い万代君」


「ズルは余計だ!」


「あら、自分が賢いとでも思っているの? ずいぶん自惚れ屋さんのようね」


 普段見慣れた、怒った小憎らしい表情や、凄んで僕を睨みつける顔ばかりを見ているせいか、崎の肩肘張らず飾りっ気のない、こんな素の表情が彼女本来なのかもしれない。


 しかし、小憎らしいほど人をからかうことも忘れない、律儀で崎のあっけらかんとした言い草、嫌いじゃない。


「自宅マンションは学校から歩いても行けるから、マンションまでは歩こう。僕は自転車引きながら行くから後についてきてくれ」


「わかった」


 崎は、道すがら当たりの景色や街並みを興味深げに眺めながら、しおらしく僕の後ろをついてきた。


 なんか、こういったシチュエーションって普通の高校生カップルっぽくていい、すごくいい。……でも、カップルじゃないんだけどね。


 ただ倫理的にどうこう言える立場じゃない事くらい重々承知の上だが、分別をわきまえた高校生の身で、同級生の女の子を自宅に招き入れるということは……どうなのだろう?


どう言い訳したところで……そういうことだよな。


女の子を自宅に上げるという時点で、そういう関係じゃないのか? と疑われても申し開きができないのではなかろうか。


別にいかがわしい云々は別にしても、周りから見れば普通に交際している男女にしか見えないのは確定的だろうし、それ相応の覚悟ってもんが必要だよな。


そのへんのこと少し甘く見ていた自分の鈍感さというか、認識の足りなさを思い知らされた。


 そんなこと、あんなことを心の中で葛藤している内、あっという間に二人は僕の暮らす自宅マンションに到着だ。

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