第5話 そこまで踏み込むのは止そうよ
「出雲君の身辺を洗っていると、どういう訳だかあなたが……彼の私生活や学校での出来事やイベントその他、諸々なことに関わっているのが癪で、癪で、癪で我慢ならないの。ついでに調べてみると、興味深い事実が分かってきたのよ。あなたの家庭の内情で興味を引く事柄が次から次へとね。多少は越権行為なのは承知の上。でもここまで来たらもう後戻りはできない。他の人のプライバシーに関してはある程度歯止めをかけているつもりよ。でも、あなたの事は別。あなたにプライバシーは無いから! 出雲君と親しくなる上での障壁だから! 目の上のたんこぶだから! 別口だから! 別腹だから! 異母兄弟だから!」
別腹? 異母兄弟? 意味わからん。
「多少の罪悪感はあったのも事実だけど、かなりの部分で真実をついていると思うの」
「えっ、それって、マジにガチな話なのか?」
「ええそうよ。ガチもガチ、ガチガチよ!」
ガチガチは違うな。
「聞きたくない、耳を塞ぎたくなる話もあると思うけど、耳の穴かっぽじって聞いていなさい」
「君の性格はほぼ掌握したよ。どうせ断ったところで言いたいことを全部吐き出さないと気が済まないんだろう。どうぞご勝手に。僕はしばらく黙って聞いているから」
「いつまでその冷静さを保っていられるのか見ものだわ。も~う、ありったけの秘密情報を今から公開するから覚悟して聞きなさい、このデバ亀エロ坊主!」
僕の嫌疑は当分晴れそうにないな……。
この後、彼女の口から思ってもみない発言がもたらされることになる。
それは僕にとっては俄かに信じ難い……かなり、というか途轍もないショッキングなメッセージに思えた。
彼女は唐突に、僕の知らない家族の過去の秘密や我が家に纏わる重大な出来事を、次々と語りだした。
真偽のほどはその後明らかになるのだが、それは後程。
「あなたのお母さんは、あなたのお父さんと知り合う前に付き合っていた彼氏がいたのよ。一時期はいわゆる二股をかけていたっていうのかしら? その彼氏が遠隔地に転勤になって二人の関係が疎遠になっていたの。そこにあなたのお父さんが、まあ悪く言えば『付け込んで』って言えばいいのかしら? そしてその後あなたの両親が結ばれたわけ」
と、聞き知り顔で自信に満ちた表情で言い切った。
僕はただただ、情けないが唖然としてその話を聞くしかなす術はなかった。
「話はまだ続くけど聞く心の準備はできている?」
「なんで、そんな他人の……しかも親の事まで知っているんだよ、赤の他人の君が?」
僕はまだ釈然としない気持ちもあってか、やや突っかかり気味に彼女に言い寄った。
「好きになった男の子の友達のことに少しだけ興味があったっていうだけ。それくらい、今の時代幾つかのツールを組み合わせれば簡単に手に入る時代なのよ。それが良いか悪いかは別にしてだけど……」
そして、彼女は僕の姉弟の話に移った。
「あなたには十歳年の離れたお姉さんがいるわよね?」
「ああ、千代のことか?」
僕には、ひと回り近く歳の離れた姉がいることは事実だ。今は、近県の看護学校を卒業して、東京の大きな大学病院で看護師として働いている、二十五歳独身、彼氏の有無は不明。
そんな姉とは歳が十も違うことから、小さい頃から一緒に遊んだ記憶はほとんどない。たまに姉の部屋に教科書を持ち込んで、勉強を教えてもらったことがあるくらい。一緒に遊びに行ったり、買い物に行ったりといった、当たり前の姉弟関係とは、若干ズレがあるかも知れない。
「実はあなたのお母さんは流産しているの、お姉さんを出産後しばらくしてからね。男の子だったらしいわ」
大胆なことを、サラッと言うなあ、この子。
これも今初めて聞く話だ。もちろん彼女が切々と語る話が真実だとしてなのだが……。
「その後に生まれたのがあなたって訳。だから本当はお姉さんとあなたの間には本来あなたのお兄さん、お姉さんにとっての弟に当たる兄弟がいたのよ。まあ、実際生まれてはいない訳だから少し違うかしら?」
僕と姉貴との間に十もの年の差があるのには、僕の前々から疑問に感じていた。そこにはそんな理由があったと言う彼女の説明もあながち作り話とも思えなかった。
知りたくもなかった……。
そんな僕の両親の馴れ初め、しかも結構重くてショッキングな出会いがあった末、しかも本来ならと言うべきか、生まれるべきだった兄がいたなんて……。
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