第16話 万代の、ある提案

 生憎僕も崎もLINEはやらないので、その後の会話はメールで、ということになった。


 以前、一応アドレス交換だけはしておいてが、それっきりでほとんどこれが初めてのメールでのやり取りかもしれない。


 校内で二人きりの所を他の生徒――中でも出雲には――決して見られたくないと懇願されたので仕方なくメールでのやりとりで乗り切ることにした。


『明日も弁当か?』


『そうだけど何か?』


『悪いんだが今度一度僕の分も一緒に弁当を作ってきてくれないか。君と同じやつでいい』


『なんでまた?』


『まあ、それはまた改めて詳しく話すから。翆葉祭の舞台本番までもう間がない。舞台の稽古の追い込みで、明日は本番前の最後の稽古(ゲネプロ)があるんだ。出雲もバスケ部の練習を抜け出して、稽古に参加する予定になってるはず。舞台本番までゆっくり話す機会もそうなさそうだ。お互い何か用がある時はメールで連絡を取り合おう。それと、放課後にでも一度演劇部の舞台稽古を見に来ないか?』


 とさり気なく崎に声を掛けておいた。

 

 案の定、放課後の講堂には崎の姿があった。


 僕は講堂の客席から、榊先生と神主先輩らと舞台で演じられる稽古を眺めていた。

  

 もちろん、顧問の榊先生も同席している。

 

 今日は、本番さながら、当日の進行に則って通しで行われる。いわば最終チェックと言えた。


「あれ? 宮……か?」


 舞台稽古の最中、僕は講堂の二階席に崎の姿を発見した。


 講堂をぐるりとコの字状に巡る二階席には、木製の簡易ベンチが四段設けられている。


 二階席の下は、舞台道具置き場や、衣装室、出演者の控室等に当てられているスペースだ。


 崎はその二階席最前列に座って舞台の様子を眺めていた。


 彼女の目的は明白だ。舞台上の出雲を見つけること。


 舞台を見渡しながらソワソワした仕草から、もしかして出雲を探しに校庭内を探し回った末、ここまで来たのかもしれない。


 しかし、残念ながらお目当ての出雲の姿を舞台や講堂の中に見つける事ができず、がっかりした様子で講堂を後にした。


 見つかる訳もないか?


 肝心の出雲はというと……。


 美魔女ゾンビ配下の、その他大勢の雑魚ゾンビの出演者に交じって埋没していた上、本番用と違わぬ派手なゾンビメイクで舞台の端っこで出番を待っていたのだから……。


 さすがの崎をして、彼を見つけることができなかったようで、少しばかり不憫な気がした。


 ただ、さすがにここで彼女を帰してしまうのも僕の本意ではない。


 出雲と崎との中を取り持つといった手前、このままでは彼女に申し訳ない気がする。


 僕は、部員らに断りをいれて、舞台を後にすると駆け足で崎を追いかけた。


 しかし、すでに崎の姿はどこにもなく、仕方なくメールで『明日の、舞台本番終了後に講堂に来てくれ。そこで僕から出雲に君のことを紹介するから待っているように』と伝達しておくことにした。


 早速、崎からは『楽しみ♡』とだけ、らしくない絵文字とともに返信が来た。


「なんだ、変に気を使いすぎていたようだな』


 

 そして、翆葉祭での舞台も盛況のうちに無事終了。


 僕は、出雲を伴って、崎の待っている講堂への渡り廊下に向かった。


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