第50話 背後に忍び寄る魔獣
「お母さんなら、ほら、後ろにいるけど、何か?」
この子は一体何を言い出すのやら。はは……。
しかし、一瞬の間を置いて我に返った僕は、崎に再度問いかけた。
「えっ? 今なんて……?」
「あ~あ、バレちゃったかぁ。なんであっさりバラしちゃうのかなあ。せっかく面白いとこだったのにぃ」
その声の主は正しく先ほどまで、散々僕をいじくり回してくれた天敵の声だった。
「ひぃひ、ナヒナナナナナナ はっ……んれへ、えっ……ほっ、つっ! けへっ……い、はひひひ……へへていふかだそごへえ……べ、おしZZzz…ずず、、?!! べへれっっけけけjppq……きききKKみみみiiひいいいいぃぃぃ……。
ちなみに「なんでそれを早く教えてくれなかったんだよ、君ー!」と言っております。
呂律が回らないとは正にこのことを言うのだろう。
自分でも何を言っているのか分からない。
僕が情けない声を上げたとほぼ同時に、背中越しに聞こえた声は紛れもなく、その人の声だった。
先ほど散々僕を揶揄いまくってくれた憎き天敵の無双マミー、崎都その人だ。
僕の躰は、全身凍り付いたかのように固まって動けない状態になったのは既定路線で、想像を裏切らない。
「ふ~ん、やっぱり私の見立て通りだったみたいね。規格外の十分立派なモノをお持ちのようじゃないの、崎の彼氏くん?」
「そんな、大そうなモノは持ち合わせておりませんが……。しかも、彼氏ではござらん」
「あら、緊張すると時代劇口調になるのね、可愛い! でも、何も謙遜することないじゃない? 立派な持ち物拝見させていただきまして、目の保養になりましたわ」
「な、何をおっしゃられているのか僕には皆目検討も付きません」
「アレくらいに大きくてビンビンなら、夜の寝所で女を退屈にすることなんてなさそう。子供も1ダースくらいは作れそうで安心したわ。ねえ、崎ちゃん」
崎は、憮然とした表情を崩さずに僕の後ろにいる母親の方を睨み返している。
「伊勢……万代くんとおっしゃったわよね。あなたのお父様も大きくていらっしゃるの?」
「知りません。知りません。僕も父も庶民の出自ですので多分、そう多分普通でありんす」
もう、自分でも何を言っているのか、意味不明、言語不明瞭だ。
「僕は母親似ですから。母もサラリーマン家庭で育ち、看護専門学校を首席で卒業。父とは大恋愛の末に二年の交際を経て結婚。たっての希望通り一姫二太郎に恵まれ、理想的な家庭生活を送って今日に至っておりますです」
「うふん、かわいい」
天下無双マミーの甘い声が右肩のすぐ横から聴こえ、クラクラしそうな甘い匂いが僕の鼻孔に鋭く侵入してきた。
しかし僕はそれを確かめることもできずに直立不動の態勢のまま、振り向く余裕も勇気も持ち合わせていなかった。
ただその場に呆然と立ちすくのみ。
僕は、少し冷静さを取り戻して、かろうじて掠れたような声を縛りだして尋ねてみた。
「い、いい、いつからいら、いら、いら・し・て・た・ん・ですか?」
その問には崎が答えた。
「また、壊れかけのレディオ? 芸がなさすぎでしょ。まあ、それはいいとしてお母さんはずっと前から引き戸を少し開けて中の様子を伺っていたわ」
それって、覗きですよね……。
娘の貞操を奪われる危険を排除しようとするなら分からないでもないが、崎母の場合には当てはまりそうにない。
「私が水着に着替え終えたころからよ」
ああ、あの時は自分でも平常心を失っていたころで、周りに気を配る余裕が無かったのかもしれない。
すると、僕の背中に崎母の胸の当たる感触が……。
さらに押し付けてくる気配も……。
「ちなみに、私のバストサイズは正確にはGの65よ。崎はさらにその上の上ね、多分」
その上って何だろう?
そのまた上って……?
崎に目をやると、軽く頷くような仕草。
マジか!? 否定しないって事はそうなのか!?
いや、別に否定してほしいわけじゃなんだが、ABCの歌を唄う余裕もなく、もう僕の頭の中は、ぐっちゃぐちゃの、とーろとろ状態。
「私の母も――崎にとってはおばあちゃんも含め、女系三代続いてグラマーってことはやっぱり遺伝の影響が大きいのかしらね」
僕はというと正気を保つのもやっとの有様で、何とか声を絞り出した。
「で、でも、背後からで僕の……ア、アレの様子がよく分かりましたね?」
「あら、目の前に姿見があるじゃない? 気づかなかったのかしら?」
そう指摘され、部屋の窓脇に立てかけてある姿見を見つけると、そこには崎の母親――くどいようだが天下無双マミーの『したり顔』があった。
なぜ、今の今まで気づかなかった?
僕のバカあああああー!
「さおだけじゃなく、タ××マまでよ~く見えてよ」
「たまたまですかね……。あ、これ苦し紛れのジョークです、はあはあ、あっははは……」
「タマタマちゃんも、活発に動き回っていて元気な様子で結構、結構。精子をせっせと製造してる証拠ね」
それに崎が食いついてきた。
「ああ、それそれ。あれって……いわゆる××とか×××、キ××マってやつよね? お父さんのより立派だったわ」
もう、怖いものなしです崎姫!
「私が見てる間中、上下したり縮こまったり、伸びたりしてフシギ! あれって中の物体が動いているってこと……よね?」
「それじゃ、もう一回それを確認するため、ご開帳して貰いましょうか!?」
と言って、崎母は断りもなく僕のブリーフを下ろそうと指を掛けてきた。
「しません、しません。二度とごめんです!」
さすが僕とてそこまでのお人よしではないし、恥じらいもモラルも持ち合わせている。
「娘さんの前でそんな事止めてください!」
さすがにそこは力ずくで抵抗した。
「な~んてね。冗談よ、そこまでしたらあなたの親御さんに顔向けできないわ。そんな無分別な母親を持つ娘を嫁に貰ってくださるお婿さんのご両親がどこの世界にいるっていうのよ?」
娘を僕に嫁がせる前提ですか……??
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