第11話 ガールフレンドと勘違いされ
僕の家は学校から自転車で五分程のところにある十階建ての、そこそこ、グレードの高いマンションの九階にある。
最上階の十階はペントハウスになっていて、九階ベランダの上には上階部のベランダが無い分、空を多少広く感じる事ができる。
父親は一応一部上場企業の中間管理職、母親は元看護師で現在は看護関連の専門学校の非常勤講師として、週二日学生に教えている。
たまに、高校野球の試合がある時に救護の仕事を依頼され(多少の手当ては貰っているようだが)ほぼボランティアで駆り出され事もあるようだ。
この母親が過去に二股をかけていたとは俄かに信じられないくらい。家庭では良き母、良き妻を実践しているように見えるんだが……。
「あ、ここが僕の家……ってかマンション」
「へ――、結構高そうなとこに住んでいるのね。生意気だわ」
崎は、マンションを見上げながら早速生来の皮肉屋らしく嫌味を言って僕の機嫌を損なうことは忘れない。
「君に、生意気呼ばれされるいわれは無いと思うのだが……」
マンションのエントランスに入ると、設置されている二基あるエレベーターのひとつが、ちょうど上層階から一階に降りてくるところだった。
僕と崎の二人は並んでエレベーター脇で待っていた。
同じマンションの住人とはほとんど交流がない。なので、エレベーターが一階に到着すると扉が開いて、スーッと誰か住人が出てきたようだったが、顔を合わせることも無くやり過ごした。
不思議なもので、別に特段後ろめたい事は無いはずなのだが、なぜか気恥ずかしさというか、照れ隠しからくる感情なのか、無意識に視線を合わせないようにしてしまう。
僕と崎は、誰もいないエレベーター内に乗り込んで、そそくさと九階のボタンを押した。
母はその日、専門学校で非常勤講師としての授業がない日で在宅のはずだ。
僕らが玄関ドアの前で一旦立ち止まって、普段から持ち歩いている家の鍵を使って玄関に入る。
母は家で掃除や片付けをしていたらしく、ちょうど母がリビングに通じる廊下のモップ掛けをしている時に僕ら二人と初めて顔を合わせた。
母ははじめ、息子がめずらしく幼馴染の捧蕾以外の女の子を家に連れてきたのでびっくりしていたが、学園祭の劇で相手役を務める子だとの、取ってつけたような説明に納得したようだ。
しかしその日、僕が何より驚いたのは、崎が学校での立ち振舞とは全くの別人格を発動したことにあった。
「普段から、伊勢くんには公私に渡って良くしてもらっております。本日は台本の読み合わせでお邪魔させていただきますが、小一時間ほどで済ませますので、どうかお構いなく」
だれ、この子!?
あの小憎らしく小生意気な女王様はどこに行った……?
どこの深窓のご令嬢かと見紛う態度に唖然だ。
素直で模範的な女子高生を演じ切ることができる得意技(スキル)を持っているとは……。
心の中で舌を出しているのはほぼ間違いない。そんな崎の受けこたえに呆れる他なかった。
だが、わが母も母で、崎の値踏みをするようにすかさず軽いジャブを繰り出してきた。
「あら、万代が蕾(つぼみ)ちゃん以外の女の子を家に連れてくるなんて珍しい事もあるのね」
それを聞いた、崎の顔が引きつったのを僕は見逃さなかった。
母と崎の間に、パチパチと火花が散ったように思えたのは気のせいだろうか?
「つぼみ……?」
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