もう後戻りできないぞ
第44話 最後の砦となったブリーフ
「それでは、万代の部屋での再戦と行きましょうか?」
――は? この子はまた何かトンデモ発言を繰り出してきた。
やはり僕は全裸に成らざるを得ない展開に追い詰められる訳ね。
そういう運命の元に生まれた訳ね。
「あなたの部屋で頓挫した流れの続きを行いましょう。私の部屋でなら大丈夫よ。お母さんのことなら気にすることはないわ。一度部屋に閉じこもったら、たいてい三時間は籠もったまま出てこないから」
「いや、そういう問題じゃなくってなあ……」
崎は腕組みをして僕を睨みつける。
反論は受け付けないって意思表示をしているんだろう。
「よく考えたら、私だけ恥ずかいい思いをして、万代は自分の知りえる出雲くんの情報を小出しにするだけで、圧倒的に私のほうが割を食っているじゃない」
えっと、それは双方合意のもとだったはずでは……?
腕組みをした両腕の上に乗った、たぷたぷとした乳房が窮屈そうに“ムニュ”、と歪んでおとなしくしていない。
「本当に大丈夫か? 今のうちならまだ取り消しできるぞ」
「なにグダグダ言っているの! 心の準備ならとっくに出来てるわよ。男の子の股間にぶら下がってる汚物なんて、小六までお父さんとお風呂一緒だったから見飽きてるほどよ。私の中では男性生殖器に対しての免疫がなら十分できてると思ってもらって結構よ。心置きなく脱いで頂戴。私が狼狽するとか心配無用だから。さあ、さあ!」
い、今……“おぶつ”って言った?
「お父さんが、私の前でその……お、チ……ンをぶらぶらさせて、耳にタコが出来るほど聞かされたものだわ。『男ってもんはだな。皆が皆、こんな化け物みたいにグロテスクな凶器をぶら下げて、いつでも崎を狙おうと待ち構えているんだぞ。パパのは崎を襲うことは無いけど街を歩いてる男どもは、いつ崎に襲い掛かってくるかも知れない。崎は、他の女お子より人一倍可愛いから、他の子よりもっと怖くて恐ろしい目に遭うかもしれないんだぞ。パパは崎の事を愛しているから、心配で……心配で……(ぐすっ)、お願いだからパパに気苦労だけは掛けないでおくれ』ってね」
崎のお父さんって、本当に世界を駆けまわるエリート・エンジニアなのだろうか?
「お風呂に入る度『パパ以外の知らない男には決して近づかないようにする事。知らない男に話しかけられても、話に応じたりせずにすぐに逃げ出す事!』の二つを約束させられたものだわ……」
崎の少しうんざりした表情が、何をか言わんやだ。
「そんなこんなで、お風呂に入る度にお父さんの説教に付き合わされるもんだから、いい加減うんざりして、つい『今日からもう、お父さんとは一緒にお風呂に入らない』って言ったら、お父さん急に落ち込んじゃって……」
んん……崎のお父さんが不憫でならない。
「『ガオーッ! ガオーッ!』って××××を左右にゆすって『怖いんだぞー! 恐ろしいんだぞー!』って凄まれても全然怖くないし、単なる呪文のようで聞き飽きたわ。ほんと、いい加減にしてほしいって感じ。そういう訳だから、今更あなたの粗チンを見たくらいで醜態をさらすほどヤワじゃ無いし、ましてや卒倒するなんて私に限って露ほども無いから、心置きなくどうぞ」
んんっ、えっと……それ信じていいの? 本当かいな?
泥棒猫から彼女を遠ざけるための、父親による身を呈した渾身の家庭内性教育だったとしたら……。
残念ながらお父さん……。
結果は見事な空振りに終わったと言わざるを得ないようです。
「まさか、あなたに見られた行為……オナニーをここで見せなさいとまでは、さすがに言わないわよ。そこで万代にも私が味わった恥辱と相応の報いを負ってもらいたいだけ。あなたが股間にぶら下げてる粗末な持ち物を私に見せることで、手打ちにしてあげるって言ってんの。女の子がここまで譲歩してるのよ。男なら観念しなさい。これ以上は譲れないわよ、さあどうするの? 脱ぐの? 脱がないの? どっち?」
彼女の決意は固そうだ。
「そこまで言うんなら……」
ここまで来たらもう後戻りはできない。
僕も意を決した。
確か以前全裸って言ってたから、今度も全裸希望なんだろう。
僕は手際よく着ていた夏用の制服の白の開襟シャツを脱いだ。
長袖のシャツはネクタイ着用が基本だが。半袖の開襟シャツの時は基本ネクタイをしない。
そすると、崎が、
「ああ、やっぱり今日も素肌に直接シャツなのね」
数日前の僕の自宅マンションでの記憶をあらためて思い出したようだった。
僕は意を決し、躊躇なく制服のズボンを足首までおろした。
グレーのやや小さめなサイズのブリーフ(男は黙ってブリーフ!)を一枚穿いただけの、なんとも情けない姿で崎の真ん前で姿勢を正して堂々と佇立した。
もしかして、前回の同様に気が変わってご開チンの免除に預かるかもと、淡い期待を抱いたのも虚しく、崎の眼光は一層鋭く片時も僕の股間から目を離さずにいる。
ようやく、僕も観念した。
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