第53話 まだまだ続くよ

「しかし、唐突な質問だなあ。まさか、それで僕の男としての技量を測ろうって腹じゃないだろうな?」


「ま、そんな意味合いもあるわね」


 こちらとしては、未だに崎という女の子の心の内を測りかねているところだよ。


 深い、深―いその行き着く先には、光に満ちた明るい世界が待っているのか、それとも暗黒の底なし沼が、僕を引きずり込もうと手薬煉引いているのであろうか?


「起業するとか? ……は、僕ごときが出る幕はなさそうだ。人脈を作るとか? これも無いな。限られた交友関係の中でゆるい時間を過ごすのが性に合ってる僕には無理だ。となると、将来有望なベンチャーに投資するとか?」


 少なくとも資金を減らさないことに重きを置けば、いくつも手段はあると思うんだが……。


「少し飛躍するけど、君をアイドルに育てるってのはどうだ? 面白そうじゃないか! 幸い、うちの学校にもモデルや芸能人の予備軍がいるとの噂もあるようだし。そうは言っても、僕にはマネージャーくらいしかできないかも、だけど」


「アイドル? モデル? 『はあっ?』って感じよ。あなたには幻滅したわ。もう少しは賢いかと思ってたのに……まあ、その手の話を今後聞くことも無いだろうし安心して」


「でも、これでようやく晴れて対等な関係ってやつになれた訳だよな」


「まだ私は半裸の状態なんですけど……」


「そうでした」


 せめてその、見るからにやわらかそうな球体を指で“ツンツン”させてくれないか……などとは口が裂けても言えないのである。


 崎はおもむろに、今まで腰を下ろしていたベッドにうつ伏せに横たわった。


 頬杖を突く仕草で、長く肉付きのいい両脚を大きくバタバタさせる動作も愛くるしい。


 目の保養とはこのことを言うのだろう。


「あらっ? 万代がいやらしい目で私を視姦している」


 何を言い出すかと思えば、またそれですか……?


 まさか僕を誘っている?


「僕は躰の隅々まで君に観察され、見られてない部分はお尻の穴くらいしか思い当たらないんですが」


「おかげさまで、男性の人体の不思議に関しての見識を深めることができたことには感謝しているわ」


「それはどうも……」


「まだ、まだこっちがビハインドな状況は変わりないわ。教室での一件、忘れてないでしょ。忘れて下さいってお願いしても無理よね?」


 アドバンテージはむしろ、現状では君に握られてしまってるような気がするのだが……。


「ええ、ええ。忘れるように努力はしましたが、おっしゃるように無理だったようです。鮮烈に脳裏に記憶され、君との関係が深まる度に記憶がエロく上書きされて困っています」


「ほんと男って生まれつきいやらしく組成されているのね。欲心にまみれた、直情的な生き物よね。ほとほと感心するわ。ああ、出雲君は別にしてだから」


「同じだって。出雲だってひとりの男なんだし、ほかの男子とそう変わらないと思うがね」


「確かにそうかもね。揃いも揃ってオッパイが大好きで、脚がちょっときれいでスタイルが良ければ、あとは多少難ありでも目をつぶってくれるんだから。まあ、そのおかげで私にとってはあしらい易くて楽なんだけど」


 ここは男が引いておいたほうが良さそうだ。


 その方が後々面倒にならずに済むような気がする。


 僕は、これ以上この話題は引きずらないほうが得策だとの判断を下した。


 少し二人の会話に間が空いたところで、崎はゆるりとベッドから降りた。


 ずっとベッドの上でうつ伏せになった状態でいたから、胸が苦しくなったのだろうか? 


 畳の上に体育座りの姿勢で、畳んだ脚を両手で抱え、膝の上に「よっこらしょ」と言ってビキニをまとったオッパイをのせた。


 なに、この絵柄。

 見たこと無いわ、こんな夢みたいな光景!


「さっきは、大きくても不自由さは感じない、苦労は無いって言ったけど、やっぱ正直しんどいわね。肩は凝るし、姿勢は猫背気味に前屈みになるし、こういうカッコはホント楽でいいわ」


 目を閉じて幸せそうな崎の表情からは、彼女の偽らざる気持ちが伺い知れた。


 そして、そのままの姿勢でバタンと九十度横に倒れ込んだ。


 膝に乗った状態のオッパイはゴム毬のようにバウンドして、今度は畳を寝床にして上下に積み上げられた。

 

 『まるでこれは、まさしく正月のお飾り。鏡餅状態や~!』


 オッパイを包むビキニもやや乱れて、ズレ気味に……。


 少しはそのへん気にかけようよ。


 当の崎は、そんなことなど気にする気配も一切なく……。


「それより、例のお弁当大作戦以外にも出雲君との仲を深めてくれるアイディアの他にも、なにか作戦を練ってくれてるんでしょうね、万代先生?」


「ああ、それな。近いうちに考えておくよ、宮さん」


「ねえ、その『宮さん』って他人行儀過ぎない? 私はすでに『万代』って呼び捨てで呼んでるのに、あなたは『宮さん』とか『君』とかばかり」


「別にそんなのどうだっていいじゃないか。自然に委ねておけばその内、時が解決してくれるだろう」


「ダメ、なに達観したようなこと言って男らしくない。今決めて。即決して!」


「分かった、分かったから……」


 なんだ、このテンプレ展開。


 女の子って、ちょくちょく変なとこにこだわるよな。


 だが、流れ的には当然の展開か。


「まあ、順当なら『宮さん』かな? 『宮ちゃん』、『宮っち』は馴れ馴れしいし。別に呼び捨てで構わないんなら……、でも『崎』じゃあ出雲を差しおいて悪いし『崎ちゃん』もやっぱり違う感じ。『崎さん』は別に年上てって訳じゃないし『ミヤミヤ』だけはこちらからお断りさっさせていただくとして……、いっそ『みやざきさん』では?」


「ふざけないで! それは私がお断り!」


「分かった、分かった、冗談だし。それじゃ一応『宮』と呼び捨てさせてもらうよ」


 そういえば「年上」で思い出したが、一つ確認しておきたかったことがあったんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る