第13話 オナニー? or エアセックス?
「どうやら万代は女の子に関心がない様なので、もしかしてBL小説とかあるのかと思ったけどその類のブツは無さそうね?」
「当たり前だ。なんでそんなことを聞く?」
「じゃあ、恋愛の対象としての相手は……」
「普通に女の子が好きだし」
「ああ、伊勢くんの大胆告白。伊勢くんは女好き! ヤリマ〇が大好きなのでちゅか~~??」
「ヤリマ〇って……、どちらかというとお淑やか系で癒し系が好みなのだが……と思うんだが……」
そう言いかけた僕だったが、『お淑やかで従順』、『男の後ろを一歩下がって歩くような女性』が好みだと勝手に思い込んでいたが、あらためて自分の好みの女の子の性格を探ってみるそうでもないことに気づいた。
自分に関わりのある女性――Y染色体を持たない「サル目ヒト科ヒト属の『女』」なる――生物を見渡すと、それとは真逆の存在が多いことに気付いた。
自分のおふくろさんもどちらかというと皮肉屋で、癒し系とは正反対。
幼馴染の蕾も、勝気でサッパリとした体育会系でお淑やかさとは無縁の性格なのは間違いない。
そして、目の前の崎もその典型だ。
その崎女史はしばらく、本棚の前に陣取って男らしく……えっと女らしくなく……が正解? 胡坐をかいて本棚のマンガやラノベなどを適当に手に取っては取っ替え引っ替え、神業的な速さで読んでいった。
そして崎が、僕の出身中学の卒アルを眺めている時に、
「あっ、もしかしてこの子出雲君?」
崎の指さした先には出雲の姿があった。
中学の時修学旅行で言った長崎の旅館のたこ部屋(失礼)で撮った、ふざけあっている生徒数人の写真の中から一瞬にして出雲を発見するとはさすがと言わざるをえない。
てか、怖いわ!
崎は、しばらくニヤニヤしたり、手を頬に当て首を軽く傾けて凝視したりしていたが、ようやく中学の頃の愛しい人を心に刻み込むことができたのか、開いていたアルバムを閉じて元あった書棚に戻した。
「さて、本日の本題に入りましょうか?」
と、崎が口火を切った。
(おっと、来なさったな)
「本題というと、劇の台本の読み合わせ……ではないよな、もちろん」
崎は、無言で頷く。
「話を元に戻しましょう。万代――あなたにも責任の一端はあるって分かっているよね!?」
そういえば、いつの間にか彼女、苗字を通り越して僕のことを名前で呼び始めていたよ。しかも呼び捨てって……一気に距離を縮めてきたよ、この子。
そんなに親しくなった自覚ないけどな……いつの間に?
「責任の一端って何の? いつの話?」
僕がすっとぼけ様とするとすかさず畳みかけてきた。
「万代が、真摯にあの時、あの教室での問題と向き合っていることは私も理解したつもり。だけど今の状況のままでは私の立場が圧倒的に不利なのも事実。だから少しでも対等の関係に持ち込みたいの」
「対等の関係って言ったって、僕は君との秘密を決して漏らしたりしないって何度も確約しただろう! あらためて言わせてもらうが、君と交わした約束を破ることは断じて! ない! 天地天命に誓ってない!」
僕はもう一度自分自信の潔白を主張するかのようにやや語気を強めて言った。
「それじゃダメなの。私のか弱い乙女のプライドが許さないの。だから万代には脱いでもらう! 私が感じた辱めがどんなに大きかったかってことを身をもって知ってもらう!」
「えっ、誰の事? いま乙女って言った?」
「言った!」
「それに、僕の聞き違いかもしれないけど、君と相対してきた短い時間の中で、僕はそのような認識を持ったことなど一瞬もないのだが……。いったいどこにそんな乙女的要素あった?」
崎の態度は一貫していて、僕の意見を受け入れる気配がなかった。
「んんっ? ちょっと待って。乙女のプライド云々の後、もしかして『脱いで』って言った?」
「言った!」
「えっ、なんで? 脱ぐって何を? ここで? あり得ないでしょう? どうして僕が?」
「いいじゃない、別に減るもんじゃないでしょ」
「それは君の勝手な理屈だろう。僕が君の前に裸をさらす理由が無いよ」
「だからあなたと今後のため、対等な関係を構築するために決まっているでしょう」
「何だよ、対等の関係って? 全くもっていっている意味不明だし」
僕の反証にも動じることなく、崎は部屋に置かれたベッドに深々と腰を下ろしこう言い放った。
「どうせこのベッドで夜な夜なエアセックスにでも興じているでしょ?」
「エアセッ、って……、(本当の意味を知っての発言なのか?)まさかオナ……ニ……のことを言っているのか?」
正しくは、オナニーとエアセックスは違うカテゴリーに属する行為なのだが……ま、そんなことはこの際どうでもいい。
さすがに大っぴらにその言葉を言い出すのは照れるので、”ニ”はやや小声になってしまった。意外にチキンなハートを持ち合わせている自分に幻滅だ。
「そうよ、オナニーよ、オナニー! それとのマスターベーションのほうが良かった? マスか……。せんず……。何度も言わせないでよ、そんな卑猥な言葉!」
対する崎の方はすこぶる威勢がよろしい様で……。
「今晩は、おっぱい電波女あたりをオカズにシコってたりして? それとも、むっつり文学メガネっ娘あたりがお好みかしら? あるいは、二次元アイドルの方がお気に入りだったりして? ふふ……いやらしい」
「あのなあ……勝手に他人の性プライバシーに踏み込んでくるなよ。まあ、そりゃ健康的で精力も旺盛、健全なる男子高校生なんだから、たまにはするさ。一週間に一回とか……三日に一回とか……一日に二回とか……」
「あのう、だんだん増えてきているんですけど、あからさまに自分のタフネスぶりを宣言することには敬意を表するわ、ウサギさん並みの精力を有する絶倫の万代さん」
皮肉たっぷりに僕をなじる崎は腕組みをしながら胸を張る。
「まあ要するに、人並み程度には嗜んでいるってこった」
「意外にも素直に認めるのね。いくらでもしらばくれることもできたでしょうに、こういうとこねたぶん……」
たぶん……? と言って口ごもった崎の最後の言葉尻が心に引っかかったがあえて深追いはしなかった。
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