第37話 サプライズ?

 そんな感慨に浸っている暇など、一瞬たりとも与えてはくれない崎嬢さんは、本日もマイペース。


「ああ、ちょっと待って」と言ってから、ベッド脇においてある紙袋の中のぞいて、中身の確認をしているのだろうか? 


 何やらガサガサやっている。


「あのね……」


 崎がひと呼吸おいてから喋りだす時は、決まってドッキリ発言なのは経験則で僕にも分かっってきた。


 今度はどんなドッキリ発言が飛び出すのやら、ハラハラしながら待ち構えていると、

「今から着替えるから万代は後ろ向いていて」


 ああ、やっぱり呼び捨てなのね……。


「いや、それなら部屋を一旦出るよ」

「ううん、出ないかなくていの。同じ部屋で、すぐ振り向けばそこで女の子が生着替えをしてるシチュエーションの中、男の子がさぞ生々しくエロ~い妄想を膨らませたり、悶々としてるだろうな~っていう臨場感をこの全身で感じたいの」


 くはーっ!! 破壊的女王様の面目躍如ってとこか。


「じゃあ、君が着替え終わるまでしばらく後ろを向いてるよ」

 僕は崎に背を向け、彼女が着替え終えるのを待った。


 後ろでかさかさと衣擦れの音がする間、すこしそわそわした、なんとも居心地の悪い時間が過ぎていく。僕は立ったままの姿勢で崎の合図を待っていた。


 まさか振り向いた瞬間に全裸の崎とご対面……なんてことは頭の片隅にもなかったかと問われれば、それは嘘になる。


 しかし常に僕の想像の数歩先を行く彼女のことだ、次にどんな意表を突く仕掛けを僕に用意しているか知れたものではない。


「さあ、もういいわ。こっちを振り向いて」


 言われなくても振り向きますとも、ええ。


「はいはい、今度はどんないたずらを仕掛けてくるのかな……?」

 などと悠長な事言ってる場合ではなかった。


 僕がそこで目にしたものは、水着ビキニという最終兵器を身にまとった崎の姿であった。


 ――こっ、これは……!!


 言葉を失うとは正にこの事を言うのだろうか。しかし無理やり言葉を紡ぎだすとする。


 悩殺殺人肉欲官能光線炸裂!

 幻惑淫靡桃色生唾光線爆裂!

 意味不明である……。


 贔屓目にみても、グライア界隈で人気のアイドル並みか、それを軽く凌駕するレベルだ。


 これって『カワハラ』……。いや、正確を期すなら『エロハラ』だろうか。


 とにかく、目のやり場に困るとはこのことを指すに違いない。


 しかしながら、当の崎はというと至って冷静に見受けられる。


 僕個人の見解であって、あくまで本人の心の内は熱いベールに包まれて覗くことは叶わない。


 完全には、僕のことを異性として捉えてはいないにしても、二人の関係性に変化が生じたことをいやが上にも実感させられる瞬間だった。


「少し遅れたけど……。万代のおかげで、やっと出雲君と話をする機会にも恵まれたことへの関しての感謝の気持っていうか、三人でとはいえお昼ご飯を一緒に食べることも叶ったわ。少しは二人の距離も縮まったのかなーと……。あなたには一応お礼を言っておくのが礼儀だと思って、これは……」


 崎は、身にまとったビキニの水着を示しながら、ガラにもなくはにかんで見せた。


「そう……。ちょっとしたサプライズ・プレゼントとでも思って、受け取ってちょうだい」


 自分でサプライズって……普通言うかね?


「そうね……。ギブアンドテイク……? い、一方的にあなたから出雲くんの情報を提供されるのも癪だし。どんな返礼が良いかしらと悩んだ結果がこれだから」


 崎は、下を向いたきり固まってしるからはっきりと表情はうかがえない。しかし、その前髪に隠れた横顔は疑いようもない『デレ顔』だ。


 またしても、崎のレアなデレ顔を拝見できて僕は有頂天になってしまったようだ。


 ところが例によって、こんな状況下でも一言多い僕の悪癖が口をついて出る。


「まあ、ありがたく頂戴しておくよ。あっ、そんな屈んだりしちゃよく見えないよ。せっかくのスタイルが台無しじゃないか?! 目に焼き付けさせてくれよ、君の絶品美ボディーをさぁ」


 当然、崎の逆鱗に触れて、彼女からの罵声を浴びせられるとばかり身構えている僕だったが、意に反して崎は沈黙したまま固まってしまった。


 うわっ……! 案の定怒らせてしまったか?!


 悪い予感しかしない。


 崎という子に対する僕の偏狭的な考えを改めるべきなのは承知しているのだが……。


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