第27話 まあこんなもんだろう

 作戦の前段階の若干の変更は余儀なくされたが、なんとかひとつ前進といったところだろうか。


 おふくろさんが専門学校での講義で家を開ける間の、四時から六時位までが調理に取り掛かれるギリギリの時間だ。それ以上だと崎の帰宅の手段が無くなってしまうからだ。


 後片付けは当然僕の受け持ちとなる。


 早速だが、初回でつまずいた崎が主に調理し、それを僕が脇でアドバイスや厳しいチェックを入れて完成された弁当に、早速成果はあらわれてきた。


 まずは色彩感覚の欠如にメスを入れる。


 弁当は見た目が第一。


 青物野菜と緑黄色野菜を主菜と副菜の隙間に埋めただけなのに、一気にワンランク上の弁当に見違えるようになった。


 栄養のバランスも当然考慮に入れながら、スポーツマンで食用旺盛な出雲の胃袋を満足させることが最優先。

 

 当然、栄養価の高く高タンパクな鶏肉中心のメニューがメインだが、ハンバーグや肉団子の甘酢アンかけなども、ボリューム感、味、見た目も申し分ない出来栄えだ。


 卵料理は崎の得意料理らしく、毎回いろんなバリエーションの卵焼き料理が弁当に華やかさを添えていた。


 だが、崎がひとり自宅での弁当作りをする段になると、やはりというか予想通りというか、暴走してしまう傾向にあるようだった。


 僕が脇で目を光らせていないとダメらしい。


 ある日の弁当はこんな具合だ。


 オクラや大和芋、納豆巻、メカブ等のネバネバ素材を多用した時は、崎のあからさまな意図が見え隠れしてさすがに自重を促した。


 また他の日はこんな具合だ。


 どうやら気合が入りすぎて、どこの有名イタリアンレストランかフレンチかってオカズの日もあって「奇をてらった料理より、作りなれた料理のほうが良くないか? そのほうが君という人間を出雲に知ってもらう意味でも正解だと思うんだが」とアドバイスをしたこともあった。


 また、ある日の弁当のオカズは、ニンニクのたっぷり入った餃子のみの日もあって、気持ちは分からんでもないが、色んな意味でアウトなので、と注意した。


 さすがに崎も分かってくれたようで、彼女にしては珍しく「ごめん」と、しおらしくひと言われると逆にこちらが恐縮してしてしまう。


 取り敢えず、その他の日は概ね合格点をあげられるレベルに到達したのではなかろうか。


 そして、数日後に満を持しての僕と崎、それに出雲神内を加えてのお昼休みの昼食会が決行される日を、待つのみとなった。

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