第39話 セミファイナル

『ではこれよりセミファイルナル、フォースステージのルールを説明します!』


 外からテレビ局内に戻り、会場には俺達と生徒会、ガリチームにあの四つ子姉妹のテールチームが席についている。


『フォースステージは御存じダッシュボタン! ご覧の通り四つのチームは東西南北それぞれのテーブルで待機しているよ!!』

『そして各テーブルのモニターに問題が表示されるのはファーストステージと同じですがボタンはこちら、スタジオ中央のテーブルにしかありません』


『つまり参加者のみんなは自分のテーブルのモニターの問題を素早く読み答えが分かったら中央のテーブルまでダッシュし最初にボタンを押したチームが解答権ゲッツ!!

 勝利条件は二点先取、先に二回正解した二チームのみがファイナルステージに進めちゃうよ!』


『ただし注意して欲しいのは解答権を得るのはあくまでチーム、そのため答える自信があれば問題開始と同時に仲間がダッシュして解答権を得てからテーブルの仲間が答えても一向に構いません、けれどこのフォースステージは一度でも答えを間違うとその瞬間失格なので気をつけてください』


『それじゃあ問題スタートだよー!』


 ジャジャン!

 

 トランプのキングのモデルになった人物四人をトランプのマークとセットでそれぞれ答えなさい。


「イヨリ!」


 アリスが叫ぶとイヨリが駆ける。


 どうやらアリスはこの答えが分かるらしい、だがガリチームのリーダーはクラウチングスタートをキメていて問題が表示されると同時にスタートを切っていた。


 間違えれば一発アウトなのに、よほど自信があるんだろう。


 だけど相手が悪かった。


 いくらスタートが早くてもうちからはイヨリ、そして向こうからはマモリが稲妻のような速さで中央テーブルとの距離を詰めていた。


 二人がテーブルで衝突すると速過ぎて見えなかったがガリリーダーが弾き飛ばされ無様に床で痙攣をしていた。


 テーブルのボタンはそれぞれ左右半分ずつイヨリとマモリの手が乗っていて、どちらが先に押したかは分からないがとりあえずヒビの入ったボタンが可哀そうでならない。


『ではこれから判定に入ります』


 スタジオの巨大モニターにスロー映像が流れる。

 それによるとわずかにイヨリのほうが先に叩いているようだ。


『では歴史研究会の皆様、正解をどうぞ』


 アリスにカメラが向くとアリスは超カメラ目線でいつもの一,四倍可愛い顔を作って、


「スペードがダビデ様、ハートがカール大帝、クラブがジュリアス・シーザー、ダイヤがアレクサンドロス大王です」

『正解、歴史研究会チーム、まずは一点だよ』

「やったぜヤマト!!」


 俺はヒデオとハイタッチをして続けてアリスと握手をして、見事ボタンを押したイヨリも俺らの東テーブルに走ってきてアリスと抱き合った。


 うん、やっぱりこの二人が一緒にいると映えるなぁ。


 西テーブルの生徒会チームはマモリがナデシコに頭を下げていてナデシコがマモリの頭を撫でている。


 今更だが北テーブルはさっき説明した四つ子のテールチームだが四人で抱き合い倒れ伏すガリリーダーの姿に怯えていた。


 生放送だから仕方ないが果たしてこのシーンは放送して良かったのだろうか?


『では次の問題!』


 ジャジャン!

 


 都市国家ウルクの王で在位期間が一二六年間もあり、世界最古の叙事詩の主人公になった人物は?



 二つの爆発音と同時にイヨリが消えて今まで彼女が立っていた床が軽くへこんでいる。


 もう一つの爆発音はナデシコ達西テーブルからだが、ってタケルさん!?


 二人の手が同時に伸びてボタンの上で衝突しその音に会場がどよめく、二人の体が互いに浮いて後方へ飛び、だがまた距離を詰めてすぐ側まで近付いていたガリAを弾き飛ばしタケルさんはその長大な手で素早くボタンを押した。


「ギルガメス王」

『正解、歩御高校生徒会チーム一点ゲットです』


 イヨリが弱かったわけではない、ただ体格によるリーチという埋められない差が勝敗を決した。


 そしてさらばガリA、武蔵と小次郎の戦いに農民Aが乱入した結果と思って諦めてくれ。


 ガリリーダーの横で痙攣しながらゲーム終了を待つがいい。


「あうぅ、ごめんねヤマト君」

「まあ、さすがにタケルさんに出てこられたら、いや、俺に良い考えがある、ヒデオ、お前もちょっと協力してくれ」

「なんだぜ?」


 俺はイヨリとヒデオに作戦を伝えるとすぐにスタンバって問題を待った。


『では次の問題』


 と司会者が言うと同時にイヨリとヒデオが俺の体を持ち上げた。

ジャジャン!


 戦場で溺れていたところを部下に発見されたが格好がみすぼらしかったので気付いてもらえなかった三国志の英雄は?


「いっけぇええええ!!」


 歴研が誇る怪力コンビに投げ飛ばされ俺は一気に中央テーブルへと飛んで行く。


 タケルさんも少しは驚いたようで明らかにスタートが遅れている。


 これなら間に合うかと思ったがヒデオのほうがイヨリに力で劣るせいか飛ぶ方向が少し左にズレている。


 俺は必死に空中で体勢を変えて腕を伸ばしボタンを押そうとするがさすがに空中では俺の努力もむなしく俺は左から迫るガリBにスーパーマンよろしくのポーズで突っ込みガリBはタケルさんの方へ転び巨人の突進をモロに喰らいテーブルにぶつかった。


 明らかなクラッシュ事故だが運良く倒れたテーブルからボタンが俺の前に転げ落ちてきて素早くボタンを叩く。


「答えは黄蓋公覆(こうがいこうふく)なんだぜ!」

『歴史研究会チーム正解! フォースステージ最初のクリアは歩御高校歴史研究会チームに決定です!』


 会場からの歓声に包まれながら俺達はスタジオから出て行く。

 どうだヒメコ、客席からお兄ちゃんの勇士を見てくれたかい?


「…………」


 あれ? 何で視線が絶対零度なんだ?


 ここは「お兄ちゃんかっこいい」とか言うシーンだろ。


 まったく、難しい年頃だなあ。


 それにしても北のテールチームは完全に試合放棄しちゃってるしガリチームはもうお腹の痛みに耐えるガリCしか残っていない。


 てか倒れたままとうとう動かなくなってしまったガリ三人を誰か気遣おうぜ。


 舞台袖から様子を覗くが、四問目は誰も走る人がいなくてナデシコが悠然と歩いてボタンを押して正解、晴れてファイナルステージへの進出を果たした。


 まあなんにせよこれで俺達はファイナルステージに進出したわけで当初の予定通りナデシコ達との一騎打ちとなった。


 ナデシコ達生徒会チームもスタジオから去ると司会者達はファイナル進出が両チームとも同じ学校の生徒であることを讃(たた)えている。


  まあ今の今まで同じ学校のチームが二チームも参加することなんて無かったし、ましてその二チームで決勝を争うなんて奇跡としか言いようが無いだろう。


「ヤマト」


 裏方で突然ナデシコに呼ばれて俺らは一斉に顔を向けた。


「当たり前だけど、ちゃんとファイナルまで登って来た事は褒めてあげるわ、貴方達けっこうやるじゃない、特にさっきの眼鏡共を倒したのは見事だったわ」


 眼中に無いとか言っておきながらやっぱりムカついてたんだ。

 目つきがゴキゲンですよ。


「下剋上って言っただろ、お前達と戦うまでは負けてやれねえよ」

「当然ね、村人が一揆を起こしたけど城に来る前に全員野垂れ死にましたなんてなったら肩すかしもいいところだわ」


 言って、ナデシコは二日前のように懐から扇子を取りだすと口元に添える。


「でも知ってる? 下剋上に失敗した農民のリーダーは首をはねられるのよ」


 寒気がするような声に一瞬背筋がゾクリとするが「知ってるさ」とだけ言って流す。


「私はこの戦いで勝つわ、そしてヤマト、貴方を死ぬまで使ってあげるから覚悟するのね」

「でも知っているかしらお譲様? 下剋上が成功したら逆に君主が首をはねられるのよ」


 いつのまにか携帯ギロチンセットを組み上げて杖でも使うように手を添えてアリスがナデシコと視線を交えた。


 ていうかそのギロチンセット体積的に隠せないと思うんだがどこにしまってるんだよ?


 えっ、俺の竹刀がどこに隠しているのかは企業秘密だぞ。


「自分の発言には責任を持たないとねぇ、お、じょ、う、さ、ま」


 アリスの挑発的な態度に、だがナデシコは興奮せず涼やかな表情も崩さない。


「朱に交われば赤くなる、どれほど家柄や成績が優れていてもこんな連中といれば貴方もすっかり庶民ねアリス」


「庶民は見てて飽きないわよ、庶民と遊ぶおもしろさをアンタに分けてやりたいくらいよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る