部費が欲しいのに生徒会が全力で邪魔をしてくる 歴史クラブVS生徒会

鏡銀鉢

第1話 ちゃんと中にスパッツはいているんだからね!


「じゃあ問題だよ、日本で最初に仮装パーティーを開いた大名は?」

「豊臣秀吉だ!」

「ヤマト君正解、次はね、ライオンハートと呼ばれたイギリスの王様リチャード一世が在位中イギリスにいた期間は?」

「意外に短くて六ヶ月よ!」

「アリスちゃん正解、つづいて初代アメリカ大統領は?」

「サンフランシスコ・ザビエリストに決まっているんだぜぷぉっ!!」


 ヒデオが言い切る前に金髪美少女アリスの指が首に食い込み、ヒデオの顔がみるみるブサイクになって降参のタップもできず白目を向いてしまった。


 現在、俺達四人はヒデオの部屋で歴史の勉強会をして過ごしている。


 高校生の休日としてはなんとも有意義な使い方だが勉強場所の提供者は今まさに生涯を終えようとしている。


 まあ馬鹿は死ななきゃ治らないって言うしこれで少しは賢く、


「ヒデオ、飛鳥時代の次は何時代かしら?」

「大海賊時代」


 ならなかった。

 やっと緩めてもらえた指がさらに深く食い込み、いよいよヒデオの顔が白人とのハーフであるアリスよりも白くなってきた、てか青くなっている。


「なぁイヨリ、あれ止めなくて大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、人間を殺すには気道を潰さなくちゃいけないんだけど今アリスちゃんはヒデオ君の頸動脈しか塞いでないもん、ヒデオ君ならあと五分は持つね」


 じゃあ後四分ほおっておくか、などと俺が思っている間にヒデオの意識が落ちた。

 親御さんが見たらさぞ驚くだろうな。


「アリス、いつまでも絞殺して(あそんで)ないで早く勉強に戻るぞ」

「ダメよヤマト、この馬鹿は一度山の泉に沈める必要があるわ!」

「そんな事してどうなるんだよ?」

「まず、ヒデオ(このバカ)を山の泉に沈めるわ、すると泉の中から女神様が出てきてこう尋ねてくるの」

「嫌な予感しかしないが一応最後まで聞いておこう」


 俺の反応にアリスはジェスチャーをつけてその場で一人芝居を始める。


「『アナタが沈めたのはこの普通のヒデオですか? それともこちらの賢いヒデオですか?』後は『いいえ、ワタシが沈めたのはバカなヒデオです』って答えれば三人のヒデオがもらえるからバカと普通のヒデオを殺して賢いヒデオを連れてくれば万事解決!」

「自信満々の顔で何危険な想像ぶちまけてんだよ! って鎖で縛るなよヒデオは罪人じゃねえぞ、その鎖どこから出したんだよ!?」

「そうだよ、それに前ヤマト君が三本の矢の話をしてたじゃない、ヒデオ君でも三人集まればきっと凄くなるよ、だから二人殺す必要は……きっと無いよ!」


 今の間(ま)は何だイヨリ!? そしてヒデオを沈める事はいいのか俺の幼馴染よ!


「しょうがないわね、じゃあ間を取ってギロチンを首の真ん中で止めるって事で手を打ちましょう」

「それなら平等だね」

「笑顔で何恐ろしい計画立ててんだよ!? 首半分切ったらそれもう死ぬからな! 女子高生の会話じゃないぞそれ!!」


 などと恐ろしい事言ってもやっぱりイヨリは可愛いなコノヤロー!


「そうだぜ、どうせ落とすならオレ様じゃなくてヤマトの首にするんだぜ!」


 コノヤロー! せっかくかばってやってる友達を売るとは、お前なんか茶器抱えて爆死すればいいんだ。


「それより勉強もいいけどクイズ大会なんだからボタンの早押し練習をするんだぜ」


 いつのまにか復活したヒデオは自分を縛る鎖を引き千切ると三国志フィギュアでいっぱいの机の引き出しからテレビでよく見る早押しボタンを取りだした。


 しかし鎖を千切るとかさすが逆立ちで登校しているだけの事はあるな。


「あら、ヒデオあんたいいもの持ってるじゃない」

「これどうしたの?」

「訪問販売のバーコード親父が来たんで三万円で買ったんだぜ」

「三万!? お前それ騙されてるぞ!」

「アンタいくらバカだからってそれ一つが三万もすると思ってるの!?」

「それいつ買わされたの? まだクーリングオフ効くかもしれないよ!」

「何言ってんだよ、これ一つで三万もするなら買うわけないんだぜ」


 ああよかった。

 そうだよな、いくらこいつがバカでもそこまでメガトン級のバカじゃねえよな。


「っで、一体何とセットだったんだ?」

「なんと驚き、この押しボタン三〇個で三万円、一つ一五〇〇円のお手頃価格なんだぜ!」


 メガトン級のバカ認定。


「計算すら合ってないわよこのギガントバカ!!」

「ギガント……かっこいいんだぜ」

「やめるんだアリス、いくらこいつがバカでもコンバットナイフを使ったら死んじまう!」

「そうだよ、ヒデオ君を殺したらアリスちゃん刑務所に入っちゃうんだよ! いくらアリスちゃんの家がお金持ちでも保釈金て凄く高いんだよ!」

「問題はそっちじゃねえよ! それにアリス、こいつ元から掛け算もできねえほどバカなんだから3万÷30ができなくても仕方ないって」

「ハァ? いくらなんでもそんなわけ無いでしょ?」

「ヒデオ君、5×6は?」

「何を言ってるんだぜイヨリ」

 アリス認定のギガントバカは俺の期待を裏切らずにこう言った。

「掛け算なんて、卑怯だぜ」



 アリスがヒデオにバックブリーカー(相手の背骨を折るプロレス技)を仕掛けてから三分、気を取り直して俺達はようやくクイズ大会の練習に戻りテーブルの上にヒデオの早押しボタンを置いた。


「まず天才のオレ様から提案だけど手は全員重ねるんだぜ」


 珍しくまともな事を言うヒデオの提案は正しい。


 早押し対決において気付いた人が押すのでは手からボタンまで距離があるし複数の人間が分かった場合は互いの手が邪魔しあう可能性もある。


 それなら最初から全員の手を重ねてボタンの上に置けば誰が押し込んでも最速最短で回答権を得られる。


 だが、俺達のチームにおいてこの作戦には重大な欠点がある。


「じゃあいくぜ!」


 などと意気揚々と真っ先にボタンの上に手を置いたヒデオ、そしてイヨリ、俺、アリスの順に手を乗せてからアリスが空いた手で歴史本を読み上げる。


「えーっと、仏教の開祖ブッダの息子の名前の意味は?」

「わかった♪」グジャ!!


 我が幼馴染イヨリの可愛らしい声と同時に早押しボタンは粉砕、テーブルの上にはヒデオの手を中心に真っ赤な花が咲いた。


「おんぎゃあああああああああああああ!!!」


 血をまき散らしながら右手を押さえて転げまわるヒデオ、あんまりはしゃぐとお前の大事な三国志ポスターに血が付いちゃうぞ。


 まったく、よりにもよって石に手形を残せる弁慶よりパワフルなイヨリの手の下に自分の手を入れるなんて、お釈迦様でも救えない馬鹿だな。


 アリスはもがき苦しむヒデオをニヤニヤと笑いながら出来るだけ上から見下ろせるようベッドの上に立ち、イヨリはなんでボタンが壊れたのかと不思議そうに首を傾げる。


 ヒデオは転がりつつも不屈の闘志でアリスのスカート直下をポジショニングしてアリスにギロチンドロップを喰らっている。


 そんな高い場所に立つからいけないんだぞ。


「ちゃんと中にスパッツ履いてるんだからね!!」

 じゃあなんでそんなに顔が赤いんだ? とは聞かない聞けないそれが長生きの秘訣さ。

 さて、なんで俺らがこんな事になっているのかを説明しよう。

 あっ、ヒデオが死にかかっているのはヒデオがバカだからだぞ。

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