第7話 生徒会に入りなさい
どうらやヒデオはクイズキングダムのルールをちゃんと把握してないらしい、しょうがないから説明してやろう。
「可能だよ、そもそもクイズキングダムは学校対抗のクイズ大会じゃないから大会で優勝できるだけの奴が四人に満たない学校は姉妹校や近隣の学校の生徒と組んでいる。今までは一つの学校に出場できる奴が八人いなかったってだけでやろうと思えばできんだよ」
「でもナデシコちゃん、そんな事してどうするつもりなの?」
イヨリの至極当たり前の問いにナデシコは懐から扇子を取りだすと勢いよく広げて語りだした。
「何を今更、そんなのヤマトを生徒会に入れる為に決まっているじゃない」
「生徒会?」
「そうだ、お嬢様の目的はただ一つ、それは千石大和、貴様を我が生徒会最後のポストである庶務にがばぁっ!」
肘鉄を喰らい再び木刀を床に落として崩れ落ちるマモリ。
「す、すいませんお嬢様、今の台詞はお嬢様が言いたかったのですね、って何故踏まれるのですかお嬢様!?」
「こんな状況も受け入れるなんて校長の器はでかいぜ!」
いつのまにか復活したヒデオが無駄に感心しているが校長のことだからどうせただ遊んでいるだけだろう。
ところで話は戻るが実は俺は入学当初から生徒会に誘われている。
当然、ただでさえ昔から俺を目の敵にしているナデシコと一緒の生徒会なんて俺が入るはずもなく、今ではこうして歴史研究会を作って落ち着いたんだが、どうやらまだ諦めて無いらしい。
「ヤマト、貴方は生徒会庶務として私の為に働くべきなのよ、いいえ、卒業後も死ぬまで一生私の下で働くの」
落ち着いた声でなに奴隷になりなさい宣言してんだよこの女は、庶務ってようするに雑用係じゃないか、そんなものになったら使い潰されて三日でお寺行きだ。
などと俺がシリアスな事を考えていると不意にヒデオが口から爆弾を吐きだした。
「つまり副会長はヤマトと結婚したいってことだよな?」
投下された爆弾はあまりに巨大で、その場にいた全員の顔がぶっ飛んだ。
アリスと校長は新しい玩具を見つけた子供のような顔だしナデシコとイヨリは煙が出そうなほど顔を赤くしてるし、飛び起きたマモリは眉間にシワを寄せて悪鬼のような顔で俺を睨みつける。
ヒデオ、恐ろしい子。
「ば、馬鹿を言うんじゃないわよ! 誰がこんな日本史馬鹿となんか!! 私はただこんな馬鹿は一生私の奴隷として仕えるのがお似合いっていう意味で」
すげ、あまりに慌て過ぎてナデシコの口調が変わってるぞ。
「はいはい、お前が俺の事嫌いなのは分かったから」
俺がそう言うとナデシコは黙るが何か負に落ちない様子だ、どうしてだろう?
「とにかく、これは生徒会から歴史研究会への宣戦布告よ、ヤマト、もし私達が優勝したら貴方は即刻歴史研究会を退会、生徒会の庶務をしてもらうわ」
「なんで俺らがそんな勝負受けなきゃならないんだよ?」
「そうよ! このバカが辞めたら影の支配者であるアタシが会長やらなきゃいけないじゃない!」
そうだったのか!?
「じゃあ貴方達が優勝した場合の条件も決めていいわ」
「なんでいつもそう上から目線なんだよお前は!? だから最初からそんな勝負――」
「じゃあアタシ達が優勝したらアンタのとこの会計係の眼鏡をコンタクトにしなさい!」
アリスがいきなりわけわからん注文してんぞおい、アリスさん、チミは一体何を考えているのかな?
「うちの会計って、マモリの事?」
「そうよ! この際だからハッキリ言わせてもらうけど、この学校に眼鏡美少女はアタシ一人で十分よ! だからアタシ達が優勝したらそこのポニテ木刀のなんちゃって侍は即刻コンタクトに――」
「イヨリ」
俺の合図でイヨリがアリスの口を押さえて羽交い締めにする。
「とにかく俺は勝負なんてしない、もしどうしてもって言うならそうだな、俺らが優勝したらお前の家の若い女中を一人メイド姿で毎週五時間レンタルっていう条件で――」
「ヤマト君のばか!」
イヨリの声と同時に背中に襲い掛かる衝撃、床から離れるつま先にスローモーションになる視界、幼い頃から慣れ親しんだ浮遊感に支えられながらナデシコのすぐ横をかすめて俺は声も出せずに校長室の壁にめり込み理解した。
あ、俺イヨリに殴られたのか。
なんて俺が思う間にも背後からはイヨリの力強い声が聞こえる。
「ナデシコちゃん、もしわたし達が優勝したら二度とヤマト君を生徒会に誘わないで!」
イヨリには珍しい、強い意志の込もった声、それに対してナデシコはあくまで冷静な、だが憎しみの込もった声で返す。
「いいわ、そのかわり私達が優勝したらヤマトは私の物、古跡遺代(こせきいより)、ヤマトがいつまでも貴方の側にいると思わないことね」
女と女の激しい殺気の衝突はしばらく続き「失礼します」というナデシコの声とドアノブの音で二人が部屋から出て行った事が分かる。
そして俺は思ったんだ、誰か助けて。
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