第14話 バカと宇宙の広さに限界はない!


「アリスちゃん、ツタンカーメンの死因は?」

「暗殺でしょ」

「ヤマト君、古代インドの階級制度を下から順番に言える?」


「確か非人(バリア)、奴隷(スードラ)、平民(ヴァイシャ)、武士(クシャトリヤ)、僧侶(バラモン)だったよな」


「じゃあヒデオ君、空中都市マチュピチュの発見者は?」

「ハイラム・ビンガムだぜ!」

「ヒデオ君やっと覚えられたね、じゃあそのハイラムさんの職業も分かるよね?」

「当然盗掘王だぜ!」

「歴史家よ!!」


 アリスの手に握られた乗馬用のムチがぴしゃりとヒデオの頬を叩く、そんなものまで用意するとはさすがアリス、日に日に拷問のバリエーションが増えていくな。


「まったく、あんた中国史以外覚える気あるの!」

「でもヒデオ君て世界史のテスト満点だったよ」

「そうなの?」


 そう、実はヒデオを含めて俺達は日本史や世界史のテストは満点しか取った事がない。ヒデオは中国史以外が苦手な印象があるけど何故かテストの点が良いのだ。


「じゃあ試してみましょう、ヒデオ、市民革命ってどんな革命?」

「市民階級が絶対王政を倒した革命だぜ」

「産業革命っていつどこで起こったの?」

「十八世紀のイギリスだぜ」

「じゃあ前にも聞いたけどアメリカの初代大統領は?」

「ジョージ・ワシントンだぜ」

「こいつは偽物よ! きっと生徒会の誰かが変装しているんだわ!」


 俺とアリスは竹刀とレイピアを構えイヨリはゾウをも殺すと言われる奥義、天地崩落の構えを取る。


 剣道とフェンシングの有段者二人と仁王様より強いイヨリ、この布陣で負ける要素は無い、おとなしく正体を現すんだな偽物め!


「だから何でオレが正解すると偽物になるんだぜ! 俺だって勉強すれば歴史は覚えられるんだぜ!」

「黙れ! ヒデオがそんなに頭がいいはずが無い! ヒデオはもっと壊滅的で救いようがなくて学問の神様菅原道真(すがわらのみじざね)でも筆を投げ出すほど馬鹿なはずだ!」

「俺は本物だぜ! この筋肉美が何よりの証拠だぜ!」


 むっ、確かにその恥ずかしげも無く女子にサイドチェストという腕の筋肉を強調したビルダーポーズをするのはヒデオぐらいのものだろうが、じゃあ一体。


「まさかアリスちゃん本当にヒデオ君を山の泉に沈めて……」

「えっ?」

「アリス、お前本当に馬鹿なヒデオと普通のヒデオを殺したのか、いくら俺達でもこれ以上はかばいきれないぞ、早く自首するんだ!」

「ちょっ」

「アリスちゃん、わたし毎日面会に行くからね」

「お前が前科持ちになっても俺らは友達だぞ」

「アタシは何もしてないわよ!!」

「オレは誰にも殺されてないんだぜ!!」

「黙れ! ヒデオが賢いわけないだろう、悔しかったら23+25を言ってみろ」

「二ケタなんて卑怯だぜ!!」

「大丈夫、こいつ本物のヒデオだ保障する」


 掛け算はおろか二桁の足し算すらできないこの馬鹿さこそがキングオブ馬鹿ヒデオの証だ。

 でもそれだと一つだけ矛盾するな。


「ヒデオ、お前何でアメリカの初代大統領知ってるんだよ」

「そんなの前にオレの家で勉強会してた時アリスに聞いたからに決まってるんだぜ」

「は?」

「だからオレらの同好会って歴史の勉強するけどアリスはヨーロッパ史しか喋らないしヤマトは日本史しか喋らないしイヨリも古代史しか喋らないからこの前の勉強会でアリスに教えてもらうまではアメリカの大統領なんて知るわけないんだぜ」


 こ、こいつまさか……

 俺の予想が正しければヒデオは、


「ヒデオ、寛政の改革って誰が始めたかわかるか?」

「水野忠邦(みずのただくに)だぜ」

「古代エジプトで使われていた紙は?」

「パピルスだぜ」

「三枚のペチコート作戦に参加した三人の名前は?」

「ポンパドゥール夫人、マリア・テレジア、エリザヴェータ女帝だぜ」

「……じゃあルーズベルト大統領が世界恐慌を克服するために行った経済政策をなんて言うか知ってるか?」

「刀狩りだぜ」

「ニューディール政策だからな、じゃあもう一度聞くけどルーズベルト大統領が行った経済政策は?」

「ニューディール政策だぜ」

「10+25は?」

「1025だぜ」

「35だ、もう一度聞くけど10+25は?」

「1025だぜ」


 イヨリとアリスも俺と同じ考えだったらしい、二人もア然としたまま言葉が出ないようだ。


 そう、つまりヒデオは究極的に馬鹿ゆえに常識がまるで無くて、だけど大好きな歴史に関しては一瞬で覚えられるがそれ以外は覚えられない。


 常識的な歴史問題に答えられなかったのは単純にその範囲を勉強してないから、足し算がわからないのは本当に馬鹿だから、ただそれだけだったのだ。


「なんていうか、どこまでも残念な男だな」

「同感ね」

「うん……」

「なんで三人とも悲しそうな目でオレを見てるんだぜ! オレは残念な男なんかじゃないんだぜ!」

「ヤマト、ちょっと休憩しましょうか」

「そうだな」

「じゃあわたし飲み物持ってくるね」

「オレを無視するんじゃないんだぜ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る