第15話 カップルジュース
「そういえばヤマト、今更だけどナデシコって頭はいいとして歴史には詳しいの?」
イヨリが部屋を出ると不意にアリスがそんな事を聞いてくる。
ただ成績がいいだけじゃクイズキングダムは勝ち残れない、クイズキングダムにはそれほどマニアックな問題が出るからだ。
学校で習うような教科書通りの事しか知らなければ第一ステージクリアがせいぜいだろう。
「俺ほどじゃないけど日本史にはかなり詳しいな、何百年も続く名家のお嬢様で日本史だけじゃなくて和物全般完璧なんだよ、だから世界史に関してはそれほどじゃないけどこれから俺ら並みに詳しくなるだろうな、何せ頭のできが違いすぎる。
どの時代のどの国の歴史だって本を一度読ませればあいつはそのまま丸暗記しちまうだろうよ」
「全国四位はダテじゃないわね」
「でも歴史研究会の名にかけて歴史バトルで負けるわけにはいかないんだぜ」
「その通りだ、俺らは仮にも歩御高校(あゆみこうこう)歴史研究会、歴史に関しちゃ全国四位だろうが学年一位だろうが絶対に勝つ、そして夏休みはみんなで京都だ」
俺の意気込みに二人も力強く頷いてくれる。
すると丁度いいところでイヨリが飲み物を持って帰ってきた。
「お待たせ、はいじゃあこれ」
そう言ってイヨリが渡してくれるのはオレンジジュースの瓶、それも栓付きである。
「何これ、まさか歯で栓抜けっての?」
「ぎぎぎ、指が痛くて手じゃ開けられそうにないんだぜ」
意味が分からず眉根を寄せるアリスとヒデオの目の前でイヨリは瓶を左手に持つとビンの上部を右手の水平チョップで切り裂きグイッとジュース飲み始めた。
「あれ? 二人ともどうかしたの?」
首を傾げて一緒にアホ毛が揺れる。
「イヨリ、俺の瓶も開けてくれ」
「もう、ヤマト君たら高校生にもなってまだ瓶、開けられないなんてしょうがないなー」
嬉しそうに俺の瓶を受け取るとまた右手で上部に水平チョップ、瓶はそれだけで鋭利な刃物で切られたようになめらかな切断面を残した。
切り取られた瓶の上部は床に転がっていて、アリスとヒデオが目で追っていた。
「イヨリ、アンタびっくり人間ショーに出られるわよ……」
「優勝間違いなしなんだぜ……」
二人の言いたい事は分かるがこれも古跡家では日常の一コマである。
「二人も開けられないの? じゃあコップに移し替えてくるからちょっと待ってて」
言って、イヨリは持ってきた瓶を抱えてまた部屋を出て行く。
表情が半ば呆れ気味だったけどそろそろ俺達じゃなくて自分がおかしいって事を教えてやろうかな、でないと将来俺の体が持ちそうにないし。
「アンタ今までよくイヨリと一緒にいられたわね」
「まあ俺は昔からずっとこんなんだからもう慣れてんだよ、言っとくけど俺が驚くような事なんてこの家にはないぞ、全部想定内だ」
なんて俺がちょっと得意げに言うと再びイヨリ登場。
その両手にはそれぞれ巨大なワイングラスが握られ、さきほどのオレンジジュースがなみなみと注がれてストローが挿さっているのだが、そのストローは挿し口が一本でその先が二本に枝分かれしてハートマークを描くように湾曲している。
いわゆるカップル用のハート型ストローである。
「おかしいだろ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます