第40話 ファイナルステージ1
「朱に交われば赤くなる、どれほど家柄や成績が優れていてもこんな連中といれば貴方もすっかり庶民ねアリス」
「庶民は見てて飽きないわよ、庶民と遊ぶおもしろさをアンタに分けてやりたいくらいよ」
「そうだぜ、こいつら馬鹿と遊ぶ天才の気持ちを分けてやりたいくらいだぜ」
「黙れ駄犬!」
アリスに猛獣用のムチでシバかれヒデオがのたうちまわる。
「アリス、お前そんなの持ってたか?」
「えっ? うちのママがパパに使ってるのを借りたんだけど」
お前の母さんて英国淑女だったよな?
英国淑女は家庭内でSMプレイなんですか?
ヒデオはまだ背中を抑えながら苦しみうめき声を上げている。
おいおいファイナルステージまでには治しとけよ、まあこいつならガリCと違って絶対完治するけどな。
「歩御高校の方々はスタジオに入って下さーい」
スタッフの呼びかけに応じて俺達はCMの間にファイナルステージ用に模様替えされたスタジオに戻る。
スタジオには左右四つずつテーブルが置かれていて俺はリーダーのポップがある座席に着いた。
生徒会チームは生徒会長では無くあえて副会長のナデシコがリーダー席に座り俺の事をジッと見てくる。
『さあそれでは会場の皆様、今夜のクイズキングダムもこれで終わりです!』
『ここでファイナルに上がって来た両チームの紹介をするよー!
なんと今回は番組史上初! 両チームとも同じ学校の生徒なんだからもう驚き! しかも美少女率高過ぎるよー!』
そんなアサミの陽気な口調でまずは生徒会メンバー一人一人のことを説明、続いて俺達一人一人の事を説明していく。
生徒会チームはやはりというか、四人全員が全国模試の結果が一〇位以内というケタ外れの秀才さをアピール、加えてナデシコとタケルさんはその家柄、マモリはその家に代々仕える由緒ある家の女子で一人だけ平民のイテキ先輩についてはタケル先輩に実力を買われて生徒会に入った事を説明されていた。
ていうかイテキ先輩てタケルさんにスカウトされて入会したんだ……
俺らについては全国五位の成績を誇るアリスはいいとして俺を含む他三人については得意な歴史分野や、歴史研究会に所属しているから今回はやや有利かもしれないとかそんな事を言っていた。
『それではファイナルステージのルールはいつも通り、四対四マッチ、対戦方式はルーレットで決まりセカンドバトルからは前の戦いで負けたほうが出題範囲を決められます。ちなみにファーストバトルはフォースステージを一番でクリアしたのが歴史研究会チームなので生徒会チームに出題範囲を決める権利があります』
『戦いは四対四の個人戦ですが最後のチームリーダーによるファイナルバトルは勝つと二ポイント獲得できます。なのでファイナルバトル以外の三人が負けるとその時点でコールド負けだから気をつけてね』
『それでは両チームとも、ファーストバトルの参加者は前に!』
「一番槍は武将の誉れ! 先鋒はオレ様の出番なんだぜ!」
「お嬢様」
「わかってるわ、マモリ、あの筋肉バカに格の違いを教えなさい」
「お任せを」
意気揚々と勝手に飛び出したヒデオとは対照的に主人であるナデシコの指示に従いマモリはゆっくりと立ち上がるとステージの前に進み出る。
そして誰かマモリの腰の木刀にツッコもうぜ。
『ではでは、ファーストバトルの対戦方式を決めるためのルーレットを始めましょう』
『『ルーレットスタートー』』
司会者達の声に合わせてルーレットが回り一から一二の数字を通過する針が徐々に遅くなり四番で止まる。
『四番!』
『四番は二択マシンガンだよ!』
『ではルール説明をさせていただきます』
そうしている間にもヒデオとマモリの前にはモニターと赤、青のボタンが取り付けられた機械が運ばれてきて二人はイスに座る。
『それではこれから歴史に関する記述がモニターに表示されますからその記述が正しければ青、間違っていれば赤いボタンを押してください。
答えの正否を問わずボタンを押せば次の問題に移りますが一問正解するごとに一点入るかわりに一問間違えると一点引かれてしまいます。
なので正解する確率は二分の一ですがてきとうに押し続けても〇点のままです』
『三分の間により多くの点数を獲得したほうが勝ちだから美少女のマモリちゃんだけ頑張ってね』
タクミの拳がアサミの腹にえぐり込む。
『それではマモリ選手、出題範囲はどうしますか?』
タクミの質問にマモリは少しも迷うことなく、
「観国英雄、確かお前は中国史が得意だったな?」
と質問をしてヒデオが頷くと同時に、
「中国史でお願いします」
と答えやがった。
あえて得意な科目で勝利することで俺らに精神的な負担をかける気だな。
『それではファーストバトル』
『スタート!!』
客席から良く見える巨大モニターにヒデオとマモリに出題されている問題が表示されるが異変はすぐに起こった。
巨大モニターに表示される二つの問題のうち、ヒデオのモニターを表示する右側の問題が次々に変わっている。
それと同じくしてヒデオの手も次々ボタンを押している。
マモリは問題が表示されてから二、三秒ほどでボタンを押すがヒデオは毎秒、問題によっては一秒もかからずにボタンを押している。
『これはミクニ選手、凄い速さです! これは本当に問題が読めているのか!』
「ふん、どうせてきとうに押しているのよ、マモリ、焦る必要はないわ、貴方のペースを保ちなさい」
「はい、お嬢様」
口ではそう言うがナデシコとマモリの声は明らかに焦っていた。
ヒデオはバカだが、愚かでは無い。
俺達が生徒会に勝って京都に行けるかどうかがかかったこの戦いを運任せのバクチで乗り切ろうなんて絶対にしない。
俺には分かる、ヒデオは全ての問題を分かってボタンを押している。
それは同じ歴研のイヨリとアリスも同じで二人がヒデオを見る目は実に穏やかなものである。
そう、ヒデオは確かに凄いバカでばかで馬鹿で莫迦だけど中国史に関しちゃその知識量で右に出る奴なんかいやしない。
所詮は総合コース、所詮はバカ、所詮は格下の相手だとヒデオを侮(あなど)りより悔(くや)しがらせるためにヒデオと同じ土俵に上がってしまった時点でマモリの負けは決まっていたのだ。
三分後、勝利を確信して笑うヒデオと青ざめた顔で小刻みに震えるマモリの姿がそこにはあった。
ボタンを押した回数とヒデオの表情を見れば押し間違いを考慮してもマモリが勝てる要素はどこにも無い。
生徒会チーム 近衛(このえ)守(まも)理(り) 四二点
歴史研究会チーム 観(み)国(くに)英雄(ひでお) 〇点
だからヒデオが勝つという当然の結果が覆るはずもなく、会場の全ての人が小首を傾げている。
…………あれ?
なんでヒデオが〇点?
タクミがスタッフに機械の故障かどうか聞いているがどうやら違うらしい。
「そんな! これは何かの間違いなんだぜ!!」
巨大モニターの結果にヒデオも困惑している。
それは俺ら三人も同じだ。
でも今の試合で一体何が起こって、
「オレはちゃんと記述の内容が正しかったら赤、間違ってたら青のボタンを押したんだぜ!!」
会場の気温が五度下がった。
俺の体温は一〇度下がった。
『ミクニ選手、逆です。正しかったら青、間違ってたら赤のボタンです』
「えっ…………? 俺を謀(たばか)るなんてお前中々の策士なんだぜ」
ヒデオがタクミの肩に手を置いてキメ顔でそう言った。
二人がそれぞれのチームに戻り、マモリがナデシコからお褒めの言葉をもらう間にヒデオはアリスにカメラの死角に押しこまれ顔面を握力で握りつぶされそうになっている。
「割れる! 頭が割れるんだぜ! これは孔明の罠なんだぜ! 騙されるのは仕方ないんだぜ!」
「孔明がこんな雑な罠張るわけないでしょうが」
さすがにカメラがあると姿が死角にあっても声が収録されないよう小声だが声質はサタンそのものである。
『ではセカンドバトルの参加者は前にどうぞ』
「ったくしょうがないわね、ヒデオの穴はアタシが埋めるわ、それに向こうはアタシが潰したい相手みたいだしね」
ナデシコはファイナルバトルで出てくるし生徒会長のタケルさんは副将戦とも言うべきサードバトルで出てくるだろう、となれば次に来るのは、
「じゃあよろしくね、イテキちゃん」
「はは、ハイ! ぎゃんばりまふ!」
「可愛い♪」
緊張してガチガチのイテキ先輩がタケルさんに頭を撫でられてからブリキロボットのような動きで前に出てくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます