第44話 ファイナルファイナルステージ!


『では本当にこれで最後! ファイナルステージファイナルバトルを開始します!』


 タクミが問題を読み上げる前に俺とナデシコの視線が一瞬交差する。


『第一問! 豊臣秀吉に戦国時代最強と言われた武将が東西にいましたがその名前は?』


 同時だった。


 俺とナデシコの手はほぼ同時にボタンを叩いたはず、だったのに俺のボタンではなくナデシコのボタンのライトが点いている。


 くっ、先手は取られたか。


「東が本多忠勝、西は立花宗茂です」

『正解! 第二問、第一次世界大戦で食糧が配給制になったドイツは肉の消費が何パーセント下がりましたか?』


 これは……


「八八パーセント」

『正解! 第三問、世界恐慌の時代、一九三三年アメリカの失業者数は何人になりましたか?』

「一三〇〇万人」

『正解! ナデシコ選手三問連続正解です』


 動くこともできなかった俺の隣でナデシコが余裕の表情で視線を投げかける。


「これで分かったかしら? 千石大和、貴方が得意なのはあくまで日本史、日本以外の範囲が出題されれば貴方に勝ち目はないのよ」


 ……悔しいがその通りだ。


 確かに俺は世界中の歴史に精通しているけどあくまで日本史が中心、古代史の専門はイヨリだしヨーロッパ史の専門はアリスで中国史の専門はヒデオ、それに日本史の問題でもおそらくナデシコと互角、ナデシコよりも多くの問題を正解しなければならないこの戦いで俺は圧倒的に不利だ。


「たった三問で戦意喪失とは、口だけの男でしたね」


 生徒会チームからマモリのそんな呟きが聞こえてきた。


 でも俺には何も言えない、散々下剋上がどうとか言っていたがナデシコの言うとおり、俺は心のどこかでナデシコが日本史勝負をしてくるものと勝手に思い込んでいたのかもしれない。


 これなら全国五位の成績を誇るアリスが出たほうがまだ勝率はあっただろう。


「勝手にブルーこいてんじゃないわよバカヤマト!」


 俺が視線をテーブルに落とした瞬間、アリスの叱責に肩が跳ね上がる。

 カメラあるの忘れてませんかアリスさん?


「ヤマト! アンタみんなで京都に行くって言ったでしょ! 男が一度言った事諦めてんじゃないわよ!」

「そうだよ! ヤマト君下剋上するんでしょ!」

「これぐらい気合いと根性とガッツとファイトでどうにでもなるんだぜ!」


 いや、さすがに気合いや根性じゃなぁ……


「大丈夫だよ! ヤマト君が歴史問題で負けるわけないよ、だって」


 一呼吸置いて、イヨリはひと際大きな声で叫んだ。


「ヤマト君は歴史研究会の会長だもん!!」


 あっ………………


「激励は終わったかしら? どうも、うちの生徒が失礼いたしました。どうぞ問題を続けてください」

『それでは素晴らしい仲間達の激励の中、ファイナルバトル続行です』


 あぁ、そうだったなイヨリ、俺は…………


『第四問! 中国三国時代。呉の国相手に戦っていたベトナムの武将チュウ・アウは戦場では、馬ではなく何に乗っていた?』


 バシン!


「戦象」

『ヤマト選手正解です!』


 ベトナム史の人物の名前を当てた俺に驚くナデシコの目が俺から離れない。

 さっきの今じゃ無理も無い。


「貴方……どうして?」

「アリスに東南アジアの勉強をするように言われた、ただそれだけだ」

「っっ、次の問題をお願い致します」

『第五問、ダビデが王宮に仕えるきっかけになった予言者サムエルの両親の名前は?』

「父親はエルカナ、母親はハンナ」

『ヤマト選手正解! 第六問! スコットランドの英雄ウィリアム・ウォレスが使っていた剣は?』

「クレイモア」

『ヤマト選手正解! 第七問、漢の皇帝劉邦(りゅうほう)の側室で如意(にょい)という名前の息子を生んだ女性の名前は?』

「戚姫(せきひ)」

『ヤマト選手また正解です!』

「なんで、なんで分かるの? 貴方の専門はあくまで日本史のはずじゃ……」


 三点のリードをすぐにひっくり返されてナデシコは明らかに狼狽していた。

 その声に今までの自信は無く、動揺のせいで気品に溢れる表情も崩れている。


「お前が自分で言っただろ、歴史研究会の会長って」

「?」

「サムエルについては前にイヨリから聞いたしウィリアムはアリスから、戚姫はヒデオから部活で聞いた。

俺らの部活動は自分の得意分野を教え合うこと、俺の頭には三人の歴史バカと一緒にいたせいで世界中の歴史の知識が詰まってるんだよ」


 俺が自分の額を指先で叩くとナデシコは悔しそうに歯を噛みしめる。


 ナデシコやイヨリの言う通りだ。


 俺は日本史研究会じゃなくて歴史研究会の会長。


 古代史が好き過ぎて部屋中オーパーツだらけの古代史バカのイヨリやヨーロッパ史が好き過ぎてレイピア持ち歩いているヨーロッパ史バカのアリスに中国史が好き過ぎて魏呉蜀なんてプリントされたハチマキ締めている中国史バカのヒデオ、俺の仲間達が今まで俺に沢山の知識を教えてくれた。


 みんなと一緒に俺は歴史の勉強をしてきた。


 何故なら歴史の勉強をすることが俺ら歴史研究会の日常だからだ。


『第八問! スペインの船を襲いイギリスの国家予算以上の財宝をイギリス女王に献上した海賊、フランシス・ドレークをスペインの人達はなんと呼んだかを意味も含めてお答えください』


 よし、これも前にアリスが言ってたな、答えは、

 バシン!


「エル・ドラコ、意味は悪魔の権化」

『ナデシコ選手正解、これで四対四の同点です』

「何を驚いているのかしら? 世界中の歴史の知識を持っているのは貴方だけじゃないのよ」

「そりゃそうだ」


 互いに笑みを交わし合ってから問題は続く。


『第九問! 古代エジプトでミイラを作成する時に腐敗を防ぐ為、脳味噌を取りだしますが、どこから取り出していましたか?』

「鼻」

『ヤマト選手正解! 第一〇問、イラクの王で、十字軍を打ち破った英雄サラディンは身につける服の素材を限定していましたが、その素材三つは?』

「亜麻、木綿、羊毛」

『ナデシコ選手正解!』


 ナデシコは必死だが俺も必死だ。負けるわけにはいかない。

 俺はみんなの為にも負けられない。


『第一一問! 宴会で女装して家臣を楽しませた戦国武将は?』


 子供の頃から歴史が好きでいつもクラスで俺は浮いていた。

 イヨリがいてくれたけど平日のあいつはいつも放課後は家の道場で稽古をしていて休日の日しか一緒には遊べなかった。


「織田信長!!」


 でも高校は違った。


 イヨリが実家の手伝いをやめて平日も一緒にいられるようにしてくれて、アリスとヒデオも側にいてくれて、みんなで歴史研究会を立ちあげて、もう二人ぼっちでも一人ぼっちでも無い。


 現代っ子らしからぬ歴史ネタでおおいに盛り上がれる仲間達ができて、平日は一人、休日でも二人ぼっちだったのがいつでも四人一緒にバカをやってられるようになった。


 だから俺はあいつらが大事なんだ、京都に行ければいいんじゃない、俺ら四人で京都に行くのが大事なんだ!


『ヤマト選手正解! では第一二問! 坂本龍馬は室内で長い刀は使いにくいと短い刀を持ち歩くようになりましたがさらにその後、別の武器を持ち歩くようになりましたがそれは何?』


 バシン!

 しまった!


「拳銃」

『ナデシコ選手正解! さあ同点のままラスト問題! この問題に答えたほうの勝ち、そしてチームの勝利です!』


 頼む! 俺が分かる問題よ来てくれ!!


 俺が願う中、タクミがラスト問題を告げる。


『一九九〇年から現在までの、日本の歴代総理大臣を古い順に全員言ってください!』

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