第43話 ファイナルステージ4


「マリー・アントワネットも真っ青ね…………」


 タクミ以上にアリスが青ざめてそんなことを呟いた。


 そういえばマリー・アントワネットってイテキ先輩以上の爆乳だったらしいな。


 イヨリが姿勢を正してから、まだ驚いた顔のままのタクミが興奮し暴れるアサミを踏みつけながらボタンが壊れていないか確認する。


 二回も連続で壊していれば疑われても仕方ないがなんて失礼な司会者だ。

並の女ならいざしらずこちとら三種の神器やお市も霞むアジアの至宝古跡遺代(こせきいより)だぞ!


 あんたはぷるんぷるんのゼリーで岩が砕けるとでも思っているのか!

 そしてイヨリは胸をそんなふうに使っちゃいけません!


 こうなったら保護目的の名の下に俺がしっかり管理しなくては、さあ今すぐ所有権を俺に譲渡するんだ!


「いやぁ、すばらしい押し方だねイヨリちゃん、この驚きと興奮はイテキちゃんを始めて見た時に相当するよ」

「どういたしまして」

「でもねイヨリちゃん、今の押し方」


 静かに語るタケルさんの目が突然見開く。


「うちのイテキちゃんはもっと早く押せる!!」


 タケルさんがグッと親指で指し示す先でイテキ先輩が真っ赤になってテーブルの下に隠れようと身を低くする。


 ああ、本当にイテキ先輩可愛いよイテキ先輩、世界三大美女を選ぶならば間違いなくイヨリとイテキ先輩が入ると俺は確信するね。


 三人目のイスはしばらく空くが誰もいなければアリスでも入れておこう。


 えっ? ナデシコが入るわけないだろ?


 そして今のシーンはどうオンエアされたか、家に帰ったらすぐ確認しないとな。


「お兄様、リーチがかかってますわ」

「大丈夫大丈夫、おにいさんは君のお兄ちゃんだよ、常に妹の望みを叶えるのが兄の役目だからね、おにいさんはナデシコちゃんの望みを叶えるよ」


 ナデシコの望みって、タケルさんは四連続で正解する自信でもあるのだろうか。


『では第四問! カエサルことジュリアス・シーザーは海賊に身代金目当てで誘拐された時に海賊にとある文句を言いましたが、どのような文句を言って具体的にどうしましたか?』


 イヨリとタケルさんがボタンを押そうとして両手を突き出しまたボタンの上で組み合うが今度はさっきと違う展開になった。


 タケルさんが力任せにイヨリを引っ張り上げたのだ。


 格闘技者は重心を移動させることで自分の体感体重を実際の体重の二倍から三倍にすることができるらしいがタケルさんの筋力では小柄なイヨリの体重が四倍になっても持ち上げるのに問題は無いだろう。


 ふわりと宙に浮かぶイヨリにタケルさんが不敵な笑みを見せる。


「これでどうだい?」

「うん、おかげで押せるようになったよ」


 イヨリのカカトがボタンを踏み抜く。


 どんな状況にも瞬時に対応するのが戦場格闘技柔術だが、まさか持ち上げられたら足でボタンを押すとはさすがに俺も驚いた。


「要求した身代金が安いって言って身代金額を二,五倍に引き上げさせた」

『正解! ではこれで歴史研究会チームも一ポイント獲得、勝負はファイナルバトルに突入です!』


 さすがは俺の幼馴染、どこかのバカとドジっ娘とは一味違う。

 さあ俺の胸に飛び込んでこい! 下心全開で抱きしめてやる!


「勝ったよヤマト君」

「よっしゃ最高だイヨリ!」

「アンタのおかげで首の皮一枚繋がったわ」


 アリスがイヨリに飛びつき抱きしめた。


 バカな、俺の完璧な計画『幼馴染の美少女とのさりげないハグ、幼馴染はもう一人の女になっていた作戦』が一秒でオシャカだ。


「これでヤマトが勝てばみんなで京都なんだぜ!」

「……そうだな」

「どうしたんだぜヤマト、なんだかテンションが低いんだぜ」

「べつに…………」


 やれやれ、それじゃあ最後のバトルに行くか、ん? 初めて負けた向こうはなにかモメてるのか、なんか喋ってるな。


「お兄様、何か秘策があったのではなかったのですか!?」

「いーや、全てはおにいさんの予定通り、マモリちゃんかイテキちゃんが負けたら勝つつもりだったんだけどね」

「そ、それはどういう……」

「ほら、これでコールド勝ちが消えたからヤマト君と戦ってきなよ、ナデシコちゃんの手でヤマト君とね」

「……お兄様……感謝いたします」

「うん、それでこそおにいさんの妹だ」


 席を立ったナデシコの纏う空気が変わる。


『ではファイナルステージファイナルバトル、両チームのリーダーは前へどうぞ』

「はい」


 タクミへの返事は落ち着いた親しみのある声で、腰まで伸びた綺麗な黒髪を揺らし、切れ長の瞳で会場の人達の心を吸い込み一歩進むその動作ごとに名家たる高い品格を放つ。


「ではヤマト、全力を尽くしましょう」

「ああ」


 全力だ。

 日本有数の名家、大和家の御息女にして日本で四番目に頭の良い高校一年生ナデシコ、対するのは中流家庭に生まれてテストじゃ赤点当たり前の庶民である俺。


 だからなんだ。

 だからこれは下剋上なんだ。


 社交辞令の笑みを見せて頭を下げるナデシコに俺も軽く頭を下げた。


『それではルーレットスタート!』


 回るルーレットが指したのは一番。


『一番! 早押しバトル!』


 イヨリのおっぱい騒動で使い物にならなくなったアサミの代わりにタクミ一人で解説を進める。


『ルールは単純、これから我々が一三の問題を出題するので二人はファーストステージのようにボタンを先に押したほうが解答権を得て、一三問全ての問題が終了した時点でより多くの問題を正解したほうが勝ち、なんのひねりも無い普通のクイズバトルです』


 俺とナデシコの前に一つずと押しボタンの置かれた解答席が運ばれる。


 イヨリの時みたいな小細工や駆け引きは無い。


 ただ単純な知識とボタンを押す速さが求められるもっともスタンダードなクイズバトル。


 これでいい、これこそナデシコと決着をつけるのに相応しいラストバトルだ。


「出題範囲は全歴史でお願いいたします」


 なっ!?


「私は全力で貴方を倒すわ、それとも、貴方の得意な日本史をわざわざ選んでくれるとでも思っていたのかしら?」

「……いや」

「それでこそ歴史研究会会長」

『では本当にこれで最後! ファイナルステージファイナルバトルを開始します!』


 タクミが問題を読み上げる前に俺とナデシコの視線が一瞬交差する。

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