第45話 決着
『一九九〇年から現在までの、日本の歴代総理大臣を古い順に全員言ってください!』
総理大臣? ん? これって確か今朝新聞で……
バシン!
俺の横でボタンを押したナデシコがニヤリと笑う。
やばい、先に答えられる。
総理大臣は人数が多いからナデシコが言い間違う可能性もゼロじゃないがこいつに限ってその期待は甘すぎる。
負けた。
その事実に俺は腹の底が冷えて一気に血の気が下がる。
イヨリ達の表情を見れば俺と同じようにナデシコが言い間違うことを祈っているんだろうがそれはあまりに望み薄だ。
ナデシコは勝利を確信したのかいつもと変わらない平静さを取り戻して海部俊之から順に宮沢喜一、細川護煕と続きついに最近の総理大臣までの名を間違えずにスラスラと言っていく。
「麻生太郎、鳩山由紀夫」
ああ、これで終わったんだ。俺達の夏が……
「以上です」
あれ?
『ナデシコ選手不正解です』
「な、なんですって!?」
さっきまでの余裕に満ちた顔が一瞬で崩れる。
なんでこいつ……まさか……
俺はゆっくりとボタンを押すとナデシコの答えをなぞるように歴代総理大臣の名前を答える。
その答えを聞くにつれてナデシコの顔色も良くなっていく。
きっと俺が自分と同じ間違いをすると思っているんだろう、でもそれは絶対に無い事だ。
「麻生太郎、鳩山由紀夫」
「なんだ私と同じ答えじゃない、これで問題は仕切り直しに――」
「そして、管(かん)直人(なおと)」
「かん……なおと……?」
ナデシコが頭に疑問符を浮かべた途端、スタジオにファンファーレが鳴り響き、俺に向かって大量の紙吹雪が吹き荒れた。
『だぁあああいせぇええええかぁあああああい!!!』
『クイズキングダム、ファイナルステージファイナルバトル勝者は、歩御高校歴史研究会チームの千石大和選手!!!』
『『そして優勝は歩御高校歴史研究会チームです!!!』』
持ち直したアサミがタクミと一緒に宣言する。
湧き上がる歓声。
俺に向かって走りよるイヨリ達。
俺ら四人の首にスタッフがメダルをかけてくれてナデシコはその場に力無く座り込んでしまった。
「な、なんで……? なんで私が負けたの? かんなおとって……ウソでしょ?」
俺の頭にある想像が浮かび、俺は思わずナデシコに教えてやった。
「ナデシコ、今の総理大臣はこの前、管直人って人に変わったんだよ」
そう、俺が今朝ヒメコに投げつけられた新聞で見つけたのは新総理大臣、管直人に関する記事だった。
ニュースや新聞を見ない世間知らずの俺は鳩山が総理を辞めるのは知っていたけどその後誰が総理大臣になったのかは知らなかった。
でも歴史バカの俺はともかく優等生のナデシコが新聞を読んでないっていうのはおかしいよな。
「マモリ! なんで貴方新総理が決まったの教えてくれなかったの!?」
「も、申し訳ありません! ですがお嬢様がクイズキングダムで優勝するために勉強以外の事は全て排除するように言われたので」
「でもその間の時事(じじ)についてまとめるよう言ったはずよね!?」
「はい! ですから新聞をまとめたスクラップ帳とニュースをまとめたデータのご用意をして今日の収録が終わってからお渡ししようと」
「……くっ…………そんな」
「お前歴史関係の記事とか読んでなかったのかよ」
「わ、私のパソコンには常に最新の歴史ニュースが届くようになっているから……」
あー、ナデシコも俺と同じだったか。
でもこれで、
「ヤマト君」
「ヤマト」
「ヤマト!」
「ああ」
俺達は顔を見合わせると紙吹雪の中で大きく、声高らかに言った。
「「「「 優勝だ!!!! 」」」」
「おーい、ヤマトくーん」
「みんなー!」
「馬鹿兄貴いー」
スタジオの裏から校長先生とアイコ先生、それに客席にいたはずのヒメコが走ってくる。
そういえば優勝したってことは、
「いやー、よくやりましたねヤマトくん、まさか本当に優勝してしまうとは」
「何言ってるんですか、あたしの教え子なんだから当たり前ですよ」
ナデシコとマモリもあんたのクラスだとアイコ先生に言ってやりたいが、ここは空気を読んでおこう。
「でもみんな本当に凄いじゃない、生徒会メンバーを抑えての優勝なんて胴上げものよ」
「いやぁ、頑張ればエリートさん達にも勝てる。校長として今日は良いモノが見れました」
代理とはいえ校長先生に褒められてみんな嬉しそうに笑う。
「やるじゃん馬鹿兄貴、特別に今日から兄ちゃんて読んであげるわ」
マジでか!?
『お兄ちゃん』とはいかないが素晴らしい進歩だ!
これはヒメコが俺を『お兄ちゃん』と呼ぶ日も近いだろう。
いや、それだけじゃないぞ、俺達は校長との契約通りクイズキングダムで優勝したんだ、これで俺達は京都に、
「「じゃあみんな、この調子で明日からのテストも頑張ってね」」
「「「「えっ?」」」」
以下の四人は赤点が多過ぎるので夏期講習に参加することを義務付けるのです。
校長先生より
一年一組 千石大和
一年一組 観国英雄
一年一組 古跡遺代
一年二組 西野文香アリス
こうして俺達の夏は消え、ヒメコは俺をゴミ虫と呼ぶようになった。
―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—
総理大臣ネタに違和感のあるかたが多いと思うので解説です。
あらすじにある通り、この作品は11年前に書いたものです。
当時はほぼ毎年総理大臣が変わるという状況だったので、このようなネタになりました。伝わらなかったらすいません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます