第12話 アンタの幼馴染趣味悪いわね


「イヨリの家ならさっきから見えているぞ」

「アラ、もう着いたの? それでどれがイヨリの家?」


 右手で日よけを作りながら見回すけどアリス、お前が気付く事は無理だろう、なぜなら、


「だからさっきから右手に見えているのが全部イヨリの家だ」

「ハイ?」


 両脇に家々が立ち並ぶ住宅街を歩くこと一五分ではあるが、少し前から右手の壁は途切れる事が無く、長い外壁が延々と続き、しかもよく見ればそれは武家屋敷の古風な作りで見上げれば瓦屋根が見える。


「ってイヨリまさかアンタすっごいお嬢様なんじゃないでしょうね!? アタシ以上のお嬢様キャラなんてナデシコだけでもいっぱいいっぱいなのにこれ以上アタシの存在感を薄くするような事があったらタダじゃおかないわよ!!」


 急に鬼気迫る勢いでイヨリにつかみかかるとアリスはそのままイヨリと額をこすり合わせて今にも噛みつきそうだ。

 アリスにとって自分以上のお金持ちはよほど気に入らないらしいな。


「安心しろって、確かにイヨリの実家は金持ちだけどお嬢様じゃないから」

「お嬢様じゃないとかなんとか言ってる間に門の前に着いてんでしょ! 何このデカイ門は!? まさかバカみたいに重くてこれを開けられない者は入る資格無しとかじゃないでしょうね!?」

「よく知ってるね、ヤマト君から聞いたの?」

「マジなの!?」


 そんなやりとりを無視してさっさとインターホンを押す俺、最近アリスの暴走が激しくなってきた気がする。


 インターホンの向こうから聞こえてきた野太い男の声に門を開けるように頼むと突如門が重々しく開き、そして俺らは迎え入れられた。



「「「「「「「お嬢!!! お勤め!!! 御苦労さまです!!!」」」」」」」



 出迎えてくれたのは白い道着に身を包んだ巨漢の筋肉ダルマ達で数十人分の声が波のように襲いかかり、その重圧で心臓の弱い人なら軽く死ねるだろう。


 初めてのアリスとヒデオは眼鏡とハチマキがずり落ちたまま直そうともしない、やっぱり素人さんには無理だったかな。


 みんなに挨拶をしながらイヨリと二人でアリスとヒデオの手を引いてなんとか玄関に辿りつく。


 するとようやく二人は正気に戻ったのかなんとか自分で靴を脱いで総ヒノキ造りの屋敷内へと入る。


 さすがにここまで本格的な日本家屋が現代では珍しいのか、この規模に驚いているのか、アリスとヒデオは広く長い廊下を珍しそうに眺める。


「イヨリ……アンタの家ってまさか……」


 震える声で恐る恐る尋ねるアリスにイヨリは笑顔で、


「うん、わたしの家は柔術道場だよ」

「へ? 柔術?」


「ああ、イヨリの実家は戦国時代から続いてて全国に一万人以上の弟子を持つ超実戦派の殺戮決戦拳法古跡流柔術総本家でイヨリは現当主の娘、ここはその総本山古跡邸だ。柔術は一般的じゃないし古跡流は打撃技が多いから空手って事にして動いているけどな、だからお嬢だけどお嬢様じゃないぞ」


「ハハ、アラそうなの、ふーん、てっきりヤク……ううん、なんでもないわ」

「オレ様はてっきりヤクザかと思っちまぼふぉっ!!」

「バカ! そんな事言って殺されたらどうするのよ、表の奴ら見たでしょ! あんなスパルタのレオニダス軍とガチで戦えそうな連中明らかにカタギじゃないわよ!!」


 ボディブロウで倒れこむヒデオをさらに殴り続けるアリス、いや、イヨリの家はそこまで怖くねーぞ。


「あはは、そんなに心配しなくても大丈夫だよ、わたしの家の人はヤクザとは全然違うんだから」

「あっ、いや、でも……」

「だってうちの門下生がヤクザなんかに負けるわけないじゃない」


 アリスが固まり、いつも以上に顔が白くなった。

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