第19話 アイアンメイデンにブチこむわよ!


 なんて俺が考えている間にも先輩はアリスに責め立てられて震えっぱなしだ。


「そんなに脂肪細胞を無駄使いして世界一〇億人の飢えた人達への冒涜だわ! アンタの存在そのものが罪、アンタの罪はキリストがダースで死刑になってもきっと消えないわ!! 女性はアタシのように無駄な脂肪の無い体であるべきなのよ、悔しかったらアンタも何か言ってみなさいこのウドの大木! そうやって震えながら可愛さ演出してれば誰かが助けてくれるわけじゃないのよ!!」


 アリス、お前には必要な部分にすら脂肪が無いじゃないか、それにその理論だとイヨリとアイコ先生はキリスト何人分の罪なんだ?


 まあそれはさておき小さくなって怯える先輩は白い髪と赤い目のせいか白ウサギみたいな可愛さがあるがさすがにこれ以上アリスにいじめられるのは可哀そうだ。


 すると先輩は目を泳がせてからなんとか声を絞り出す。


「に、西野さんのバ」

「西野って言うな!! アタシの名前はアリス!! あの不思議の国のアリスの主人公と同じアリス!! だから日本名の文香(ふみか)も呼ぶの禁止!!」


 俺達も初対面の時同じ事言われたけどホントこだわり多いよな。


「えと、じゃあアリスさんの性悪おん」

「内容によっては鉄の処女(アイアン・メイデン)の中にブチ込むわよ」


 先輩の顔が一気に青くなった。


「頑張れ先輩、悪口の奥義は相手に分からず自分だけが理解できる言葉ですよ」

「じゃ、じゃあポルカミゼーリア」


 ポルカミゼーリア? さすが全国八位の秀才、なんのことが全然分からないけどきっと凄い意味に違いない。


「Fuck you!!!」


 まずい、突然アリスが噴火した、なんかわからないけど今のアリスには近寄る勇気が無い。


「人に向かっていきなり『惨めなメス豚野郎』とはよくも言ってくれたわね!!」


 想像以上に凄い意味だったな、じゃあアリスのファックユーってどんな意味なんだ、確か前に俺も言われた事あるけど英語の悪口だったよな、いくらハーフだからって時々英語を混ぜるのはやめて欲しいもんだ。


 ちょうどヒデオがアリスを抑えてくれたので俺はイヨリと一緒にパソコンで調べてみる。


 えーっと、つづりはたしかF U C K Y O U、これで翻訳機能を使って……


「「!?」」


 翻訳結果に俺とイヨリは絶句した。

 アリスがこんな破廉恥な言葉を叫んでいたのかと思うとこっちまで恥かしくなってくる。


「おいアリス! お前なんて言葉口にしてんだ」

「女の子がそんな事言っちゃだめだよ!」

「はあ? アンタら何言って」

「やっぱりお前百合だったんだな、レズレズだったんだな、次あんな事言ったら学校の掲示板に書き込んでチェーンメール電話帳全件に一斉送信するからな!」

「だから一体何の事よ!?」

「多分お二人ともFuck youを直訳したんじゃないですか?」

「え?」


 先輩の発言を聞くとアリスの顔が首もとから一気に赤くなり口を固く噛みしめた。


「そういう意味じゃないわよ!! ああもうこれも全部アンタのせいよ!!

 決めたわ、アンタはアタシが潰す!

 本当はあの眼鏡サムライを殺すつもりだったけどもういいわ!

 クイズキングダムで徹底的に潰してやるわ、ヨーロッパ史じゃ無敵なんだからね!!」


「ヨーロッパ史?」


 その瞬間、今まで怯えながら泣いていた先輩の震えが止まるとスカートを握り、アリスと視線を交えた。


「分かりました、その挑戦受けます。全国模試はアリスさんのほうが上ですけどヨーロッパ史だけは負けません」


 どうやら先輩もヨーロッパ史マニアのようだ。


 俺とナデシコ、ヒデオとマモリ、そしてアリスとナンバ先輩、俺ら歴史研究会と生徒会の間にだんだん敵対関係が構築されていってますますマンガみたいな展開になってきた。


 こりゃ生徒会戦が終わったら風紀委員戦かな?


「ではその大会について副会長から手紙を預かっているので読み上げます。今日はそのために来たので」


 言いながら先輩がポケットに手を入れるとイヨリが首を傾げる。


「あれ、ちょっと待って下さい、そのために来たってナンバ先輩どうやってみんながわたしの家にいるって分かったんですか?」


 そういえばアリスの暴走で気付かなかったけどナデシコの話じゃ俺達が本屋にいるって分かったのはマモリが監視していたからで今もマモリがいるならマモリが来るはずだよな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る