第11話 四次元ポケット


「ったくヒデオの野郎、いきなり薙刀よこせとか言われて出せるわけねえだろ」

「はは、ほんとだよね」


 コンクリートで覆われた住宅街の中を暑い夏の日差しに汗をかきつつ、本日の勉強場所であるイヨリの家に向かう途中、思わずヒデオへの愚痴が漏れてイヨリが笑顔で返してくれた。


「そうそう、急にあんな事言われても竹刀くらいしか持ち合わせないっての」

「アタシもレイピアくらいしか持ってないわね」

「なんのために持ってるの!?」

「俺中学までずっと剣道やってたじゃん、剣士の嗜みだな」

「アタシはずっとフェンシングやってたから、剣士の嗜みね」

「ズルイ、アリスちゃんだけヤマト君とペアルックなんて」

「いや、竹刀とレイピアじゃ全然違うと思うけど」

「それに竹刀とレイピアなんてどこに隠してたの!? マモリちゃんは木刀いつも腰に挿してたけど二人とも袋とか何も持ってないじゃない」

「それはアリスがギロチンセットをどこに隠しているかってのと同じで企業秘密だな」

「アタシの場合は四次元ポケットよ」


 マジか!? こいつ二十二世紀から来てたのか!?


「じゃあオレ様の薙刀もその中に入れさせてほしいんだぜ」


 思ったより戻るの早かったなこいつ。


「ヒデオ、よく生きて帰ってこれたな」

「背骨が出るかと思ったけどなんとかなったぜ! これも普段から筋トレしているおかげだぜ!」

「背骨って、お前どんな技喰らってたんだよ……」

「しっかしいよいよ生徒会との対立も本格化してきたって感じだぜ」

「まあ実際には歴研と生徒会ってよりもナデシコとヤマト個人の争いだけどね、そういえばヤマト、まだアンタとナデシコの馴れ初めを聞いて無かったわね」

「馴れ初めなんて初々しいもんじゃねえよ、だけど、う~んそうだな、実は俺達って幼馴染だからよ、小学校も同じだったんだよ」

「幼馴染? あんた公立の小学校じゃないの?」

「ああ、だけどナデシコの親の教育方針でな、人の上に立つ者は庶民の気持ちを知らねばならんとかであいつ義務教育の小学校と中学校は俺やイヨリと同じ公立の学校通ってたんだよ、って言ってもあいつは家庭教師つけていつも三学年上の勉強してたけどな」


 当時は気にしなかったけどまるでマンガやゲームの設定だな。


「っで、俺らの小学校は学力向上のための方法としてテストの結果が良かった人はランキングに載せて廊下に張り出されるんだけど、ナデシコは当然一〇〇点しか取った事ないからランキングも常に一番上に名前が載ってたんだよ、本人もそのシステム知らされたら急に席立ってさ『全科目のランキングで私の名前は常に一番上を飾ることでしょう』なんて言っちゃってよ」


 そう、名家の生まれで本来ならば場違いな環境のせいか、小学生の時のナデシコは今以上に自尊心が強く、自分が一番だと常に自負していた。だけど……


「ほら、俺の名字がセンゴクであいつの名字がヤマトだろ? 歴史のテストは俺も毎回満点だったから出席番号順で……」

「ヤマト君の名前が一番上に載っちゃったんだよね」

「しかも俺のフルネームが千石(せんごく)大和(やまと)であいつは大和(やまと)撫子(なでしこ)だろ? 他人からヤマトって呼ばれるとどっちの事か分かりにくいしあいつも『なんで貴方のような馬鹿が私と同じ名前なの!』とか怒っちまって」

「ヤマトも大変だな~」

「ふ~ん、それで?」

「いや、それだけだ」

「?」


 んっ、なんでアリスが首傾げてんだ? 説明が足りなかったのか?


「だから、それがナデシコが俺の事を嫌っている理由なんだよ」


 途端に三人とも俺に背を向けて話しだす。


「ねえ、アイツもしかして気付いてない?」

「う~ん、ヤマト君鈍いから……」

「オレでも気付いたぜ、副会長と結婚したらヤマトの名前が大和大和になっちまうぜ」

「そういえばあの馬鹿アンタの気持ちも知らないんだっけ?」

「ヤマト君の中でわたしは幼馴染以上妹未満らしいから」

「あいつの妹への執着は関羽を欲しがる曹操にも負けないんだぜ」


 小声で何を言っているのか聞こえないけど仲間外れにしないで欲しいな。


 一体俺の今の話のどこに内緒話をするポイントがあったって言うんだ?


「ねえヤマト、ナデシコはアンタの事が嫌いで全然好きじゃない、でOK?」

「OKOK、あいつが俺の事好きなわけないだろ? その証拠に俺を苦しめるためにずっと手元に置いてコキ使うつもりなんだからな」

「うん、よく分かったわ、アンタのバカっぷりがね……それよりイヨリの家ってまだ着かないの?」


 住宅街を歩くこと一五分、箱入り娘で育ったアリスにとっては結構長い距離だったかな、でも実際にはもう着いてるんだよな。

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