第30話 合格点


「げげっ、お前はここであったが一〇〇年目! オレの奥義を喰らうんだぜ! ってまた薙刀を忘れぐぎゃぶ!!」

「マモリ、雑魚は始末しておきなさい」

「はい、お嬢様」


 バス! ビシ! ブス! ベシ! ボス!


「何やってんだマモリ?」


 俺らがベランダに出ると、右手に血のついた木刀を持った生徒会会計の近衛(このえ)守理(まもり)が左手でベランダの壁をつかみ、右足をかけて登ろうとしていた。


 ヒデオは笹を抱いたままベランダに倒れ伏している。


 窓から侵入したマモリを見つけて応戦しようとしたが薙刀が無くて戸惑っているところを一発、追撃に五発殴られて討ち死にってとこか。


「しっかし壁登って侵入なんてお嬢様のやることじゃねえぞナデシコ、名家の名が泣くってもんだ」

「安心しなさい、私はずっとマモリの背に乗っていたから壁を登るのも品が無いのもマモリだけよ」


 マモリの左肩からひょこっと顔を出すナデシコ。

 どうも姿が見えないと思ったらおぶさってたのかよ。


「マモリの手がプルプルしてきてるから早く入れよ、さすがにここから落ちられたら俺も夢見が悪い」

「お邪魔するわ」

「お邪魔します」

「ご用件は? 用が済んだら帰れよ、靴持って玄関からな」

「貴様お嬢様に向かって――」

「いいのよマモリ、今日は優しくも私が直々にこの前のテストの結果を持って来てあげたのだから」


 そう言ってナデシコは部屋に入ると着物の裾から一枚の白い封筒を取りだした。

 クイズキングダムの出場権をかけた試験の結果は各チームリーダーに渡されるはずだよな?


「なんでお前が持ってるんだよ?」

「まあ同じ学校だから間違ったか、でなければ私が八人の代表と思われたんじゃないかしら、まあ貴方のような馬鹿がリーダーに見えなかった歴テレスタッフの目は本物のようね」

「何を言っているんですかお嬢様? その封筒は先程この家の郵便ポストからこっそりと拝借しブハッ!!」


 綺麗なドロップキックがキマり、マモリはぶっ飛び壁際に座り込んで小刻みに震えだした。


「お、お嬢様……わたくしめがいったい何を……」

「まだ言うかこの痴(し)れ者が!」


 ナデシコは高く飛び上がると反対方向の壁を蹴って三角跳びのようにして頭からマモリへまっしぐら。


 違う、手をチョップのような構えで前に突き出しさらに体がきりもみ状に回転している。

 これはまさか中学の卒業式で俺に放ったあの、


「大和流葬殺術(やまとりゅうそうさつじゅつ)! ギガサイクロンブレイク!!」


 うん、お前ロボ超人認定、次からはコーホー以外喋っちゃだめだぞ。

 そして腹を抱えて動かなくなるマモリ、さらばなんちゃってサムライガール。


「戦国時代から伝わるこの技を喰らって無事で済んだ者はいないわ」


 じゃあ何で横文字なんだよ?

 技がキマってカッコつけてるとこ悪いけど今一方的に味方一人失っただけだよな?

 バトル編に突入したらお前四対一、いやヒデオが死んだから三対一でフルボッコなんだからあまり派手な事するなよ。


「ではヤマト、私の家に間違って届いて私が直接ここまで運んできたこの封筒を開けなさい」

「今年一番の嘘をありがとうナデシコ」


 俺が封筒を開けるとアリスとイヨリも俺の両サイドから覗き込んできてヒデオもベランダからズルズルと這ってくる。


 結果:合格

 順位:32/32

 合計点数:712点


 三二位!? 馬鹿な、合格はいいとしてなんで俺らが最下位なんだよ!?

アリスとイヨリも動揺している。

 会長としてなんとか会員を落ちつかせなければ、まずは原因の究明だ。

 俺は何が原因かを探るべく用紙のさらに下を見た。


 千石(せんごく)・大和(やまと)    234点

 古跡(こせき)・遺代(いより)     215点

 西野(にしの)・文香(ふみか)・アリス 221点

 観国(みくに)・英雄(ひでお)      42点


 気付けば俺とアリスはヒデオの頭を踏んでいた。


「なんだよお前この点数は!?」

「アンタ途中で寝てたんじゃ、ハッ、まさか!」


 何かに気付いたのかアリスは口に手を当て目を見開いた。


「ねえヒデオ、アンタ最後の問題解いてから回答欄いくつ余った?」

「五つなんだぜ」


 その答えで全てを悟った。

 つまりヒデオは、


「アンタそれ全部答えズレてんでしょうが!! なんで最後の答え書いて空欄が余るのよ!?」

「え? テストの回答欄て元から何個か余るもんなんだぜ」

「アンタそれ何書き込むための空欄だと思ってんのよ!?」

「デザインだぜ」


 俺とアリスの拳がクリーンヒットしヒデオはダウン、静かに痙攣を始めた。


「アリスちゃんだけズルイ、わたしもヤマト君と一緒に殴る」


 「えい」という可愛い掛け声と同時にヒデオを殴るとヒデオの体はベランダまでぶっ飛び壁に頭から突っ込んで痙攣すら止まった。


「随分と貧相な点数ね、私達の輝かしい成績をご覧なさい」


 自慢げに言ってくるのはムカつくがナデシコが広げた一枚の用紙を素直に見てみる。

 

 結果:合格

 順位:1/32

 合計点数:921点


 一位!? 圧倒的だ、ダテに全国模試の一桁ナンバーだけで構成されてるわけじゃないな、俺らの結果を見た時と同じくアリスとイヨリも動揺している。

その詳しい点数を見るべく用紙のさらに下を見た。


 大和(やまと)・猛(たける)    246点

 大和(やまと)・撫子(なでしこ)  234点

 近衛(このえ)・守(まも)理(り)  220点

 南蛮(なんば)・伊(い)笛(てき)  221点


 一瞬目眩がした。


 例えでは無く本当に目の前が暗くなり体がグラついて慌てて姿勢を立て直す。


 俺にとってこの点数はそれほどにショックだったのだ。


 俺は自他ともに認める生粋の歴史マニアで歴史研究会の会長で学校の勉強ばかりしているエリート達にだって歴史じゃ絶対負けないはずだった。


 なのにナデシコとは引き分けでタケルさんに至っては完全に俺の点数を超えている。


 ましてアリスは生徒会と同じ全国模試の一桁順位でかつ歴史マニアでもある。


 ただ勉強ができるだけで特別歴史マニアでないナデシコに負けマモリには勝ったと言っても一点差、あれだけ敵視してたイテキ先輩とは引き分けで俺以上にタケルさんに差をつけられている。


 アリスは無表情のまま固まったかと思うとすぐに歯を食いしばった。


 イヨリも眉が下がって見るからに残念がっているのが分かる。


 俺達と生徒会の合計点数差は二〇九点、仮にヒデオが満点を取っていたとしても俺らは負けていた。


 つまり俺らは前哨戦とも言えるこの選抜試験で生徒会に完全敗北をした事になる。


 それはナデシコも分かっているだろう。


 今ナデシコは憎たらしいほどに嫌な笑みを浮かべている。


 きっと腹の中で天下を統一した秀吉みたいに笑っているに違いない。


「さて、どうやら本戦で戦うまでもなく勝負がついてしまったようね、そこの中国史馬鹿の事故でも言い訳のしようもないこの点差、まして生徒会会長のお兄様相手に負けるなんて歴史研究会会長が聞いて呆れるわ」

 

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