第29話 エロ本
「ヤマト、アゴが赤いんだぜ」
「凶悪なアッパーを喰らっちまってな」
俺とイヨリが部屋に行くと、目を覚ましたヒデオがアリスと一緒に部屋の本棚を漁っていた。
「前に来た時にも思ったけどアンタらの兄妹仲ってよっぽど悪いのね」
アリスがちらりと見た先には俺が書いた俺の取り扱い説明書がある。
「前よりも項目が増えてるんだぜ」
「えーっと、冷蔵庫など極端に重い物を運ばせてはいけません。
入浴中にお風呂の温度を四五度に設定してはいけません。
寝ている時に口の中にモチを入れてはいけません。
タバスコをトマトジュースと偽ってはいけません。
自転車のサドルに五寸釘を接着剤でくっつけてはいけませんて、アンタ普段妹にこんなことされてるの?」
「ああ、政宗の弟も顔負けだろ? そして今日新たにお兄ちゃんの目をハシで狙ってはいけませんと」
「いつやられたのよ?」
「さっき」
「…………」
取扱説明書に新たな項目を書き込む俺を無言で見つめるアリス、頼むから何か言ってください。
「畜生! 戦国の魔王信長にだって一三人の可愛い妹がいるのに何で俺にはあんな凶悪な妹一人なんだよ!?」
「でも魔王ぶりが酷くて裏切られて死んだでしょ?」
「カワイイ妹が一三人ついてくるなら仲間に裏切られて死んでもいい!!」
「アンタのその妹へ対するあくなき執着はなんなのよ!」
「十中八九ヒメコのせいだ!」
そうだ、あいつが可愛くてお兄ちゃん思いだったならば……今よりは多分マシかもしれん。
「それで何か読みたい本あったか?」
「なんで?」
「なんでって本棚漁ってただろ?」
「いや、アタシとヒデオはアンタのエロ本探してただけよ」
何!? エロ本を探している。ということはまさか……
「アリスちゃん、君がどんな趣味を持っていても僕らの友情は永遠だよ」
「口調を変えるな! ただアンタの弱味の一つも握ってやろうと思っただけよ」
「オレは見つけたエロ本をもらえる条件で手伝ったんだぜ」
「なんだアリスが読むんじゃないのか、せっかくイヨリとの百合展開を期待したのに……」
「何残念そうにしてんのよ!」
「それよりアリス、お前大会に出るのが決まってから怒鳴ってばかりじゃないか、俺の記憶の中のお前は半分以上怒鳴っているぞ、お米券あげるからちょっと落ちつけ」
「お米券でみんな言う事聞くと思ったら大間違いよ!」
「そんな馬鹿な!? お米券は万能なんだぞ!」
「馬鹿はアンタよ!」
「隊長、クローゼットの中に凄い物があったんだぜ」
お前はまだ探してたのか。
ヒデオが開いたクローゼットの中に女物の服が入っているがソレの何が凄いんだ?
「ヤマト君、君に女装趣味があってもアタシ達の友情は永遠よ」
「優しくなるなよ! それはイヨリの服だよ! 俺が着るんじゃねえよ!」
「なんでアンタがイヨリの服持ってんのよ!?」
「写真撮るのに俺が買ったんだよ! イヨリが俺の家に来た時に着てもらってんだよ」
「なんでイヨリのサイズ知ってんのよ!?」
「だってわたしヤマト君に保体手帳見せてるから」
途端にアリスはイヨリの両肩をつかみ大きく揺さぶりながら声を張り上げる。
「保体手帳っていったら身体測定や健康診断の全結果が載ってる乙女の秘密の宝庫でしょうになんでアンタって子はそれ見せちゃうの!?」
「だって子供の時から検査終わった後は手帳交換してどっちが身長伸びたか確認してたし」
「そんなの小学校低学年でやめなさい!」
「それにスリーサイズアピールできるから……」
「!? イヨリ、恐ろしい子……」
ん? 今イヨリが小声でなんか言った途端アリスが後ずさりしたぞ、イヨリは一体何を言ったんだ?
「アリス、イヨリの何が恐ろしいんだ?」
「ヤマトは知らなくていいわ、でもアタシが心配しなくてもアンタはちゃんと攻略されそうで安心したわ」
おいおい俺が誰に攻略されるんだ? 俺は攻略する側の人間だぞ。
「ベランダに七夕セットがあったんだぜ!」
どうもおとなしいと思ったらヒデオの奴まだ漁ってたのか……
「あら笹じゃない、アンタまだ飾ってたの?」
「いや、一年中飾っておいたほうが願い叶うかなってよ」
「そこまでして何を叶えたいのよアンタは」
ヒデオがベランダから運んできた笹に歩み寄りアリスは短冊に目を通してヒデオも別の短冊を読み始めた。
「えーっと、イヨリが妹になりますように、本能寺の変の黒幕が分かりますように、アリスがデレ期に入りますように」
「こっちには可愛い義理の妹が欲しい、同好会が部に昇格しますように、ヒメコが俺の事をお兄ちゃんて呼びますようにって書いてあるんだぜ」
「どんだけ欲望に忠実なのよ!?」
「人間は欲望に忠実に生きるべきだろ!! 信長の好きな幸(こう)若(わか)舞(まい)でも言ってるだろ、人間自分のしたい事をやろうと思ったら手段を選んじゃいけないんだぞ」
「アンタはもっと節操を持ちなさい!」
「はっはっはっ、節操なんか持ってたら四月に会ったばかりのお前のアルバムなんか作れないっての」
俺が棚から青いアルバムを取りだして広げると、今まで撮り続けたアリスの写真が晒される。
もっともこれは厳選したもので、パソコンの中にはこの一〇倍の量の写真がデータで収められているけどな。
「アラ良く撮れてるじゃない、ねえねえヤマト、アタシはこの先月のなんかいいと思うんだけど」
「そうだな、この服はガチで似合ってたな」
「アリスちゃんきれーい」
「おーい、この笹はどうすればいいんだぜ?」
「ベランダに戻しといてくれ、俺的にはこっちもお勧めだぞ」
「アンタ分かってんじゃないの……ところでそっちのオレンジ色のアルバムは何なのよ?
一、二、三……一〇冊もあるじゃない」
「それは全部イヨリのだ。幼稚園の頃からずっと撮ってたからな」
「あの頃は雌豹のポーズとか言われても分からなかったからちょっと大変だったよ」
「それどんな園児よ……」
「嵐を呼ぶ園児ってところかな」ニヤリ
「げげっ、お前はここであったが一〇〇年目! オレの奥義を喰らうんだぜ! ってまた薙刀を忘れぐぎゃぶ!!」
「マモリ、雑魚は始末しておきなさい」
「はい、お嬢様」
バス! ビシ! ブス! ベシ! ボス!
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