第9話 ストーキング生徒会

 あれから次の土曜日の昼過ぎ。


 俺らはクイズキングダムに参加するための選抜試験を明日に控えているが俺らに限って試験落ちは無い。


 本戦に出られるのを前提に新たな知識を仕入れようと歴市最大の建造物、歴市タワーの二〇階、日之元(ひのもと)書店(しょてん)に来ている。


 ワンフロアがまるごと本屋でその蔵書量はアイコ先生曰く一生かかっても読み切れないとのことで、当然歴史本も大量に取り扱っている。


 さらに外と違ってクーラーが効いて非情に快適だ。


 だが、待ち合わせの書店入口に来て俺はまず一言アリスに言ってやりたいことがある。


「アリス、今日はイヨリにコーディネートしてやらなかったのか?」


 野郎の服装に興味は無いのでヒデオは省(はぶ)くが私服姿のアリスは革靴に黒のニーソックスとミニスカートで眩しい絶対領域を作り、上は対照的に白いキャミソールを着て手には黒いハンドウォーマー、ツインテールを縛るリボンも黒、アクセサリーとして首からは銀の十字架の首飾りをしている。


 格闘ゲームに出てきても違和感ないとか思いながらその私服姿には大満足なのだが、隣に立つイヨリはなんと白いTシャツにオーバーオールという色気も可愛げもない格好で、しかも靴は学校指定の体育用運動靴である。


「しょうがないでしょ、アタシがイヨリの家に電話したらもう出かけたって言うんだから」


 アリスがコーディネートした日の私服はそれこそイヨリの魅力を生かした見事な服装で制服姿の時より可愛さ四割増しなのに、今日はイヨリの私服姿を拝むのも目的の一つだったんだぞ。


「仕方ないから今日はアリスの写真だけでガマンするか、ハイこっち見て」

「ちょっと、いつも会うたびに写真とか困るでしょ!」


 と言いながら俺が携帯電話を取りだすとアリスは女優のようにカメラ目線でポーズを決め、斜め四五度の角度で写るよう首を回す。


 そろそろアリス専用アルバムが必要だな、へ? イヨリのアルバムならもう一〇冊目ですが何か?

「もお、なんでアリスちゃんだけ撮るの! わたしもヤマトくんに撮って欲しいのに!」


 頬を膨らませて怒るイヨリ頂き!


 〇,〇五秒の早技で携帯をイヨリに向けてシャッターを切るが時すでに遅し、〇,〇一秒で俺の左腕を掴むとそれだけで俺の左腕が悲鳴を上げた。


 なんという握力、どこぞのA級喧嘩師もびっくりだ、イヨリ、君なら束ねたトランプを千切れるだろう、ていうか小学生の時千切ってましたねハイ!


「イヨリは俺が改造した巫女(みこ)服着てくれたらいっぱい撮るよ」

「じゃあ着るから撮ってね」

「やめなさいイヨリ! そんなバカが改造した服なんてどうせロクなもんじゃないわ!」

「じゃあヒデオが俺も撮れとか言う前に歴史コーナーいくぞー」

「あっ、待ってよヤマト君」

「ヤマト! その巫女服どんなのかアタシにも見せなさい!」

「撮るなら俺の筋肉も撮るんだぜヤマト!」




「よし、月刊三国志八月号ゲットだぜ!」

「新約 世界四大文明白書ゲットだよ」


 流石は日之元書店、かなりマニアックな本まで置いているな、みんなお目当ての本が見つかって、


「ちょっとそこの店員、ここの新刊コーナーの本全部もらうから家に届けなさい」


 ブルジョワキター!! アリスさん、新刊を買い占めるその姿は堺の町の鉄砲を買い占める信長そっくりですよ、見た事ないけど。


 そして恍惚(こうこつ)の表情で言いなりになる店員(男)あんた奴隷の才能あるよ。


「いーいアンタ達、クイズキングダムじゃ全世界の歴史が対象なんだからいつもみたいに自分の好きな範囲だけ勉強したってダメなんだからね。

アタシはヨーロッパ史の他にアメリカの歴史勉強するからヤマトは日本史の他に東南アジア、ヒデオは中国史の他に中東、イヨリは古代史だけじゃなくてインド史全体を勉強して」


「「「アイアイサー」」」


 なんだか最近アリスが真の部長になってきてる気がするけど気のせいだよな。

 じゃあみんなも散ったし俺は自称影の支配者の言う通り東南アジアの本でも漁るかな。


「でもこんなのんびりした休みって久しぶりだな、今日は怖いナデシコもいないし買い物が終わったら帰りにみんなでどこかに、っと、確かあの角を曲った場所に東南アジアの本が」


 ナデシコがいた→Uターン


「落ちつけヤマト、あれは幻覚だ怖い事は何も無い」ガシッ!

「何で私の顔を見るなり逃げるのかしら?」


 いやぁあああ、肩をつかまないで怖過ぎるぅううううう!!


 瞳の奥にブラックホールを潜ませたような視線が俺を睨みながらナデシコの白く細い指がメリメリと俺の肩に食い込み額から血の気が引いて行く。


 きっと幸村に追い詰められた時の家康もこんな気分だったに違いない。


「な、なんでナデシコがここに?」

「ふっ、そんなのマモリに貴方を監視させていればいいだけの話よ」

「その通り!」


 曲がり角からにゅっと顔を出して現れるボディガードの近衛守理、やはりその手には木刀が握られ左手で眼鏡を抑えながら胸を張った。


「貴様の行動は本日の午前三時からずっと見ていたぞ。


 千石(せんごく)大和(やまと)、午前六時起床、それまでの寝言時間合計四三秒で九割が卑猥な内容『巨乳』と五回『日本史』と三回『特盛りわっしょい』と四回発言、朝のトイレに入り出てくるまでの時間三〇秒、男性は早くていいですね、ですが歯磨きに一二分もかけるのはいささか神経質かと、朝食は納豆ご飯に味噌汁目玉焼きと飲み物は日本茶で全て自炊と家事能力は良好、さすが成績表で家庭科を五しか取った事の無い男、下僕能力は高いですね」


「この変人変態変質者め!! 忍者でもそこまで調べないぞ!」

「仕方ないでしょう、お嬢様が貴様の寝言を全部録音して持ってくるよぶがはぁっ!!」


 俺の肩を掴んでいたナデシコの手が裏拳でマモリの顔を眼鏡ごと叩き割る。

 この二人の主従関係もいよいよ女王と犬になってきたな。


「マモリ、次余計な事言ったら予備の眼鏡も全部割るわよ」

「ヒッ! わ、わかりました!! だから眼鏡だけはお許しを!!」


 床にキスした顔を上げるとマモリは懐(ふところ)から新しい眼鏡を取り出した。

しかし私服が赤い着物と剣道着って二人とも似合いすぎだな、へ? 二人のアルバムなんてあるわけないだろ。


「ところで、け、携帯ださないの?」


 ナデシコが赤い顔で何か期待するような声で聞いてくる。


「携帯? 何か俺がこの場で携帯を使わなきゃいけないような事でもあるのか? まあ、あえて言うなら危険人物がいますって警察に通報するぐらいだけど」

「っっ~~、もういいわよ」

 何がそんなに不満なんだろう、マモリもまた俺の事を睨んでくるし本当にこの二人は昔から理解に苦しむ。


「それよりもヤマト、今日は交渉に来てあげたわ」

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