第4話 部費をください


「そんなのはメーなのですよ」


 相談した結果がこれだよ、ちなみに俺らがいる校長室の無駄に豪華なふかふかチェアーに座っている見た目年齢一〇歳の女児こそ俺達が通うこの歩御(あゆみ)高校の校長先生、厳密には校長代理である。


 今日もこどもっぽいフリル付きスカートがとても似合っている。


 本物の校長の妹だがそれでも確実に三〇歳は過ぎているだろうし、年齢不詳の幼女校長として生徒の間では整形説や特殊メイク説に年齢詐称説などが飛び交っている。


「いいですかヤマトちゃん? 我が歴市歩御高等学校では部費と部室がもらえるのは部活だけ、そして同好会が部活として認められるには五人以上の部員と一人以上の顧問が必要ですが、ヤマトちゃん達は顧問は担任の愛子(あいこ)ちゃん先生がいますが部員は四人、これでは部活に昇格する要件を満たしているとは言えないのですよ」


 相変わらず舌っ足らずだけど一生懸命大人っぽさを出そうとする『なのですよ口調』が実に可愛い、俺が在学中はずっとこの人が校長やってくれればいいのに。


「はい、ですから毎年ではなく夏休みの学習旅行にかかる費用だけを一部だけでいいので負担していただけないかと」


 予想通りだがここで引き下がるわけにはいかない、こっちは大事な高校生活初めての夏休みがかかっているんだ。ここはなんとしてでも……


「メーなものはメーなのです」


 小さい体で見上げながら睨んできても迫力はゼロだがこれでは目的が達成できない、あと関係ないけど校長先生の睨みは可愛過ぎて年齢さえ忘れれば俺の妹になって欲しいくらいだ。


「そんな事言わないでください校長先生、わたし達本気なんです!」

「そうです、アタシ達も他の部みたいにこの夏休みに何かしたいんです!」

「でないと夏休みの間中、野球部の掛け声をBGMに図書室にこもる事になるんだぜ!」

「そんなこと言われましてもー」


 最後のヒデオの説得はどうかと思うが美少女二人の懇願に少しも揺らがないとは、さすがに幼女(偽)の説得は難しい。


 だがいくら幼女とはいえ偽(にせ)は偽(にせ)、突破口は必ずある。


 俺だって何も無策でここにいるわけじゃない。


 みんなの説得が失敗した時こそ俺の説得術の見せどころだ。


「アメあげますから」

「校長のギロチン刑中止にしますから」

「オレの上腕二頭筋見せてあげますから」


「最初以外は恐喝と自己満足じゃないですか」と言いながらイヨリからアメをもらう校長、やはり俺の出番らしい。


「まったくみんな分かってないな、こういう時はお米券くらい渡さないと」

「なんで!?」

「アンタの自信ってそれ!?」

「そんなので落ちるわけがないんだぜ!」

「……ま、まあ条件によっては交付金を認めなくも」

「「「何故落ちた!!?」」」

「お米券の威力を知らないとは、みんなは子供だなあ」


 顔が驚愕の形に固まったままの三人を無視して、校長先生は机の引き出しから一枚のチラシを取りだすと俺達に見えるよう差し出す。


「これは……」


 そこにはクイズキングダム出場者募集のお知らせと募集要項が載っていた。


「ヤマトちゃん達はクイズキングダムを知っていますね?」


 知っているも何もクイズキングダムとは平均視聴率一六%を記録する人気生放送クイズ番組で、内容は毎週違うジャンルの問題に決まった年代の回答者達が四人チームで挑戦するというものだ。


 クラスでも見ている生徒はかなり多いし俺の家でも毎週家族で観ている番組だがこれが一体どうしたというのだろうか。


 俺達が頷くと校長先生は相変わらず舌っ足らずな話し方で説明を続ける。


「つまりですねえ、この番組の歴史部門でヤマトちゃん達が優勝すれば我が校の知名度もぐーんとアップ、少子化の時代に入学希望者ザックザクで先生がおねーちゃんにお尻を叩かれる事もなくなりバンバンザイなのですよ」


 校長代理ってお姉さんにお尻叩かれてるんですね、とは機嫌を損ねないよう口が裂けても言えない。


 空気の読めないヒデオなら言いかねないが……よっしゃ、見越したアリスが校長から見えないようにヒデオの頸動脈に一撃見舞って気絶させた。

 これで隣に立つイヨリがヒデオを支えている間は普通に見えるぞ。


「分かりました。じゃあ俺達が優勝すれば」

「もちろん、京都への旅費四人分は私が全額負担してあげますしヤマトくんの言う歴史の学習レポートの完成度によっては同好会から部に昇格させてあげます。

もっともそんな簡単に優勝できるほどクイズキングダムは簡単じゃありませんよ、三週間後に放送される歴史部門アンダー二〇では日本中の偏差値七〇以上の超名門校の生徒だけではなく名門大学の一年生だって出場可能ですからねぇ、それらの猛者を全てたおし見事優勝する自信がヤマトちゃん達にはありますか!」


 急に机の上に飛び乗り俺らを見降ろしながらビシッと指差す校長、そんな校長に俺は思わず言ってしまった。


「先生、机の上には乗らないほうがいいと思います」

「そ、それを言うのは反則ですよぉ~」

 

 そこには泣きそうな顔になりながら生徒の頭をポカポカ叩いてくる校長の姿があった。

 うん、やっぱ校長先生もアリだな、俺の妹になってください。


「話はまとまったわね、じゃあみんな、今日から猛勉強よ!」

「中国史はオレにまかせるんだぜ!」

「みんながんばろうね」

「ああ、みんなで優勝目指して」

「お待ちなさい」


 その場の空気を裂いて静寂を作り出す涼やかで凛とした声は、廊下から聞こえてきたかと思えばすぐにドアが開き、二人の知った顔が入室してくる。


「先程から聞いていれば貴方達があのクイズキングダムに出場? まして優勝ですって? 

 少しは身の程を弁えて発言したらどうかしら?」

「まったくですねお嬢様、このような者達が出場など我が校の恥を晒すだけかと」

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