第3話 みんなで旅行に行きたい
「あっ、でも旅行ってのいいわね、一人四万もあれば一泊二日で遠出(とおで)できるわよ」
俺を含めてアリスを除く三人の表情が固まる。
世の中の高校生の全員がお前みたいに小遣い月八万(服代別)も貰っているわけじゃないんだぞ。
「じゃあ日帰りで二万五千」
凄い、イヨリが迷い始めている。まさか出せるのか?
さすがは一人娘、父親におねだりすればきっと出してくれるだろう、もし俺が大人の男ならイヨリにおねだりされたら預金通帳ごと渡しかねない、経済力の無い高校生で本当に良かった。
「仕方ないわね、じゃあアンタ達の分もアタシが出しといてあげるから、後は場所なんだけど」
「待ってくれ」
会話を切られたアリスと俺の視線が交わった。
「お前に金は出させない」
裕福な家庭に育ったアリスからすれば万単位の出費もなんて事ないのだろう、でも俺はそういう事だけはしたくない。
俺がアリスと一緒にいるのは個人的にアリスと一緒に遊びたい(デレ期にしたい)からであって決して金のためではない。
ここでアリスに旅費を出させればそれこそ俺は漫画にありがちな三下悪友Aと同等の存在になってしまう。
アリスもそんな俺の心境を読み取ってくれたのか少し間黙っていたが、やがて諦めたように嘆息をついた。
「わかったわ、でもどうするの? みんなでバイトでもする?」
こんなに俺の気持ちを察してくれるならすぐデレ期になって欲しいもんだが、まあそれは置いといてバイトの必要はないだろう。
「いや、それよりも校長に頼むのはどうだ?」
「ヤマトの考えが読めたぜ! じゃあオレ様が電話するけど最初は『お前の子供は預かったぜ』でいいよな?」
「イヨリ、そこに飾ってる槍を取ってくれないかしら、いや、そっちの刃が波打ってるのじゃなくて、そう、そっちのじゃないと奥まで入りそうにないし、ヤマトはヒデオが逃げないよう抑えといてね」
ヤバイよ、目がマジだよ、そしてなんでイヨリもそんな協力的なんだよ、うちの女性陣怖すぎるぞ。
「悪かったぜアリス、そういえば校長って結婚してなかったよな、じゃあ『お前の子供』を『お宅の生徒』に変えればモーマンタイだぜ」
「ヤマト、アタシが携帯ギロチン組み立て終わるまでヒデオを抑えてて」
死刑確定!?
「オレはまだ死にたくないんだぜ!」
「まあそれは冗談として、ヤマトの意見を最後まで聞きましょう」
冗談なら何故ギロチン台が八割完成してんだよ、とは言わないでおこう。
「校長に旅費を出してもらうよう頼むんだよ、もちろん同好会の活動としてな」
「でもヤマト君、確か同好会は部費と部室をもらえないって校則で決まっているんじゃなかったっけ?」
「五人いれば部活に昇格できるけどアタシらはヒデオのせいで勧誘行為禁止だしね」
「え? 俺は何も知らないんだぜ?」
そう、歴研は今アリスから断続的にヒザ蹴りを喰らっているヒデオが放送部を乗っ取り部員勧誘しようとしたせいで勧誘行為を禁止されている。
でもそんなことは百も承知だ。俺も新入部員の事は考えていない。
「それを曲げるのが交渉だろ?」
「詳しく聞かせてもらおうかしら」
アリスとイヨリが興味ありげに身を乗り出してヒデオがコッソリとギロチン台をバラす。
「つまりこの旅行は歴史研究会の活動であくまで歴史の勉強、夏休みが終わったら各自レポートを提出するってのを条件にするんだ。
他の部みたいに毎年貰うんじゃない、あくまで受験科目である歴史の勉強のための一時的な交付金だ。
俺は大人との交渉には自信あるし勿論全額払ってもらえなくても足りない分くらいは自分達でなんとかすればいいだろ?」
「う~ん、まあそれなら」
「可能性が無くはないわね、っで、行き先は?」
「やっぱり京都がいいんだけどみんなは今行きたい名所ってどこだ?」
「ビッグベン」
「ギザ三大ピラミッド」
「万里の長城」ギロチンの刃をはずそうとしているヒデオ。
「うん、京都にしような」
「異議なしよ」
「わたしも京都行きたーい」
「ぎゃあああ! ギロチンの刃で手え切ったぁああああああ!」
「じゃあ明日の放課後、校長室に集合よ、忘れた人はギロチン刑だからね」ギロチン回収。
「あはは、アリスちゃんそれは厳しいよー」
「じゃあ今日はもう帰るか、じゃあなヒデオ、また明日」
「手がぁあああああ!!」
家康の浜松城を素通りした武田軍よろしくヒデオを無視して最後にヒデオの部屋を出た俺がドアを閉めても、中からはヒデオの転げまわる声が聞こえてくる。
だがあえて無視を決め込む、何故かって? そんなの美少女二人と並んで帰るというシチュエーションに乗り遅れない為に決まっている。
アリスとイヨリが無視して帰ろうとした時点で俺の行動は決まった。
悪いが俺の幸せの犠牲になってくれヒデオ、なーに今日のケガで明日お前が休んだら俺らだけで校長とは交渉を進めてやるさ、きっとバカなヒデオはいないほうが交渉は上手くいくだろうしな。
だが家を出るとアリスの母さんが車で迎えに来ていた。
さらば俺の美少女に挟まれての帰宅イベント、でもイヨリがいるから今から戻ってヒデオの手当てなんてしないのが俺の流儀さ、グッバイ友よ、まあそのうちお前の母さんが救急箱持って来てくれるさ。
こうして俺は夕日に照らされながら可愛い幼馴染と一緒に帰路についた。
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