第36話 クイズ番組ファーストステージ


 ジャジャン!


 周の王に貢物をだし、従軍の義務を負うかわりに、封土と呼ばれる領地を与えられ、家臣を従えてその地方を支配することが認められた古代中国の支配体制を周の何と言うか。


 ピンポン


「封建制度」


 惜しい、問題がモニターに表示された瞬間にヒデオがボタンを押したがタケルさんはさらに速い。


 ちなみにイヨリはヒデオの持つ三〇個のボタン全てを犠牲にすることで手加減を習得しかつイヨリの手を一番下にすることで他のチーム同様全員の手を重ねる事に成功している。


『歩御高校生徒会チーム正解です。いやあ同じ歩御高校歴史研究会チームは惜しかったですねえ、こちらの機械によると両チームの差は一〇〇分の三秒、実に惜しい、では生徒会の皆様はこちらへどうぞ』


 司会者アサミに案内されるがままにナデシコ達は席を立つと俺らの前を通り過ぎる。

 その時、ほんの一瞬だけ俺とナデシコの目が合ったような気がした。


 そしてボタン押しの素振りを一日二〇〇回やっていたガリチームは四つの眼鏡全てがずり落ち、ガリCはまだお腹を押さえながらイテキ先輩の背中に最後まで熱い視線を送っていた。


『では次の問題です』

 ジャジャン!


 エジプトでは死後の世界の王として崇められ死者の魂を審判する神様の名前は?


 ピンポン


「オシリス」


 ナデシコ達がいなくなれば後は雑魚ばかりでイヨリがすばやく押して答える。


『生徒会チームに続いて歴史同好会チームも正解! 圧倒的な速さですねぇ、ではこちらへどうぞ』


 アサミに案内されるがままに悠々とその場から立ち去る俺達。


 そしてガリチームは全員が眼鏡を落としガリCはお腹を押さえながらイヨリの背中に熱い視線を送っていた。


 ガリCに幸あれ……





 俺達は次の出番まで舞台袖で待つ事になるが、そこには当然ナデシコ達がいて、ナデシコは俺のほうを真っ直ぐ見つめて歩み寄ってきた。


「ファーストステージは私達の勝ち」


 二日前から始めて聞いたナデシコの声は思ったよりも落ち着いていて、だけどどこか頼り無さを感じさせるものだった。


「そうだな、でもセカンドステージは俺達が先に勝ち上がらせてもらうぞ」

「それはさせないわ、だけど……」

「やあ歩御高校のみんな、ボタンの押す速さだけはなかなかのものじゃないか」

「でも君ら程度の知識で勝てるのはせいぜいファーストステージ」

「ここから先は本当の知識を持った者だけが進める聖域」

「白い髪の子とアホ毛の子に小刻みなジャンプをして欲しいです」


 ガリCがガリ三人からひざ蹴りを喰らった。


 倒れるなガリC! 頼むから今の注文をもうひと押し!


 今日俺はこんな状況を想定して高画質デジタルビデオカメラを持って来ているんだぞ!


 つかイヨリもイテキ先輩も意味がわからず首を傾げている。


 小刻みなジャンプをする意味が分からないその天然の純朴さが可愛い!


 誰かこの二人を生んだ両親にノーベル賞を!


 今のイヨリとイテキ先輩を見ながらならメシ三杯は食べられる、アリスなら一杯ヒメコはゼロ杯ヒデオはマイナス三杯で嘔吐確実だ。


「じゃあ僕らはこれで」

「じゃあね過去の勝ち組」

「これからは僕達の時代だから」

「Fが……Gが遠ざかっていく……(ガク)」


 ガリCよ、今のはイヨリとイテキ先輩を過小評価し過ぎた天罰と思うがいい。


 仲間に引きずられ未熟者は去っていく。


 変人達の横やりでぶつ切りになってしまった話だが再開することなくセカンドステージの時間が迫り、CMの間に俺達はまた呼ばれた。


 だけどスタジオに行く前にナデシコが一言。


「ヤマト、負けは認めないわ」

「……おう」



『セカンドステージのルールは簡単、まずはあちらをご覧ください』


 場所を大きく移動してテレビ局のグラウンド、青空の下でタクミが指す方向には横一列に並んだ一六基ものすべり台、着地点には巨大マットが用意されている。


『まず勝ち残った全一六チームが四チームずつ四組に分かれます。

そして各組一六人が各すべり台にスタンバーイ、出題された問題を早い者勝ちで答えて正解した人のチーム以外の全チームのすべり台がなんと一五度傾いちゃいまーす』


 アサミの軽快な解説にタクミが続く。


『ただし不正解の場合はその人のすべり台だけが四〇度傾きます』


 傾き過ぎだろ!!

 二問でアウトだろ!


『そして四人全員が落ちたチームは敗退、二チームが脱落した時点で残った二チームが次のサードステージ進出となります』


 ちっ、ルール上俺達のほうが先に勝ち上がるとかは無しか、まあでもこのルールなら肉体派の多い俺らが有利だな。


『逆に四人中一人でも残っていればそのチームはサードステージに行けちゃいますから頑張ってくださいねー、主に美少女のみんな! 男は落ちろグハッ!』


 タクミのチョップがアサミの後頭部を叩く。

 アサミさん、あなたとは是非お友達になりたいです。


『ほぼ同時に回答した人がいた場合は胸のピンマイクの情報から判断します。ただし問題はあちらの巨大モニターに表示されますので問題を読む速さも重要となります、では一組目の方々はどうぞ』


 スタッフの案内で俺達歴研チームと生徒会チーム、そして名もなき二チームが巨大すべり台に座る。


 既に三〇度ほど傾いたすべり台の長さはおよそ三〇メートル、マットがあると分かっていても角度がつけば怖くなるだろう。


「って、なんでタケルさん手え離してるんですか!?」


 見れば全員がすべり台の端を持って滑り落ちないようにしているにも関わらずタケルさんだけは両手を外に放り出している。


「いやぁ、なんかおにいさんの腰幅とすべり台がミラクルジャストフィットしちゃっててね、たぶんこれ落ちれない、というか抜けない」

『さすが今大会一の巨漢タケル選手、これはやや有利です』


 何がややだよ! タクミさんあんたもボケだよ十分な!


『カメラさん! あの髪の白い女の子をアップで撮ッ――』


 タクミの会心の一撃、アサミは倒れた。


『ではクイズスタート!!』


 始まりやがった。


 ジャジャン!


 話し合いそっちのけで踊ってばかりだった事から、とある名前でバカにされたウィーン会議がありますが、何と言われた?


「会議は踊る!」

『歩御高校歴史研究会チーム正解です』

「きゃああああああああ!」


 速い、アリスの活躍で俺達を除く一二人のすべり台が一五度傾きイテキ先輩が転がり落ちていく……ってあれ?


「イテキちゃーん!」


 タケルさんの叫びも空しく転がっていくイテキ先輩。


 一段階目で落ちるってあなたはどんだけ体力ないんですか?


 ていうか何故に滑らずに転がりながら落ちるんですか?


『ぐあああああ! あの子のパンツ見れなかったー! だから女子のスパッツ着用義務反対したのにプロデューサーのばかぁー!』


 そうだプロデューサーの馬鹿! アサミさんもなんでもっと頑張れなかったんですか!


『第二問』

 ジャジャン!

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