第22話 写真をよこせ


 イヨリの蹴りが俺の背中を直撃、軋む背骨、逆エビ反りでぶっ飛ぶ俺の体、それを天井に激突する前にバレーボール選手よろしく畳に叩き落とすタケルさん。

この二人繋がってたのか?


「まあ写真についてはヤマト君なら他の人には渡さないという条件でいくらでも譲ってあげるけど、その場合はナデシコの写真も同じ枚数分だけ渡すし捨てる事は許さないよ」

「なんすかそれ? 新手(あらて)の呪い?」


 顔以外何のプラス要素も無い恐怖の化身ナデシコの写真なんか持ってたら三日で胃潰瘍(いかいよう)になるっての。


「つれないなあ、同じ幼馴染のイヨリちゃんの写真はいっぱい持っているのにおにいさんの妹だけ差別かい? それともおにいさんの写真が欲しいとか?」

「全力でお断りします」


 誰が野郎の写真なんか欲しがるかっての!


「おや残念、じゃあそろそろおにいさん達は帰るけどその前に一つだけ言っておきたい事があるんだ」

「なんです? まさか勝敗後の条件に変更でも?」

「いいや、ただ単にみんなにはイテキちゃんの事をナンバって言って欲しく無いんだよ」

「アンタ何言ってんのよ、その女の名前は南蛮(なんば)伊笛(いてき)でしょ」


 あからさまに不機嫌なアリス、まあナンバ先輩の事嫌いみたいだし名前呼びなんて親しい呼び方したくないのかもな。


「会長またそれですか?」


 自分の頭にアゴを乗せる会長を見上げてイテキ先輩は尋ねる。


「まあいいじゃないのイテキちゃん、だってナンバって可愛くないんだもん、イテキちゃんはイテキって呼ぶのが一番可愛い、おにいさんは可愛いものが大好きだからね」

「はうぅ……」


 恥ずかしそうにうつむくイテキ先輩の可愛さに鼻血が出そうだ、確かにナンバじゃ男子みたいに聞こえるもんな。


「なんでアタシがそんな――」

「ちなみに呼んでくれなかったら、おにいさんはアリスちゃんの事を西野文香を略してニシフミって呼ぶよ」

「イテキ! クイズキングダムで真のヨーロッパ史マニアの実力を見せてあげるわ!!」


 変わり身はえーな。


「よろしい、じゃあおにいさん達はこれで退散させてもらうよ」

「あっ、待って下さい」


 タケルさんとイテキ先輩が部屋を出て行こうとすると、不意にイヨリが呼びとめて学習机の上からランチバスケットを持って来てタケルさんの前で開く。


「せっかくだからクッキー食べて行きませんか?」


 実のところイヨリは家事全般が得意で料理は特に得意中の得意だったりする。


 今までイヨリの作ったお菓子や料理は何度も食べているがそのたび感動を覚えたものだ。


 なのにタケルさんは顔は笑っているのに青ざめている。

体調でも悪いのかな?


「あ、ありがとうイヨリちゃん」


 言って、一口食べると突如タケルさんが白目を剥いて三秒後に黒目が戻りグッと親指を立てた。


「イヨリちゃん最高」

「どういたしまして、みんなもどうぞ」


 イテキ先輩がクッキーを取るとアリスとヒデオも喜んで一枚取る。

 じゃあ俺もまずは一枚。

 ザグ


「美味い、このザグザグ感と舌が痺れるような刺激と喉にいつまでも残る甘みが最高だな、ってどうしたんだよアリス、白目剥いたまま口から泡なんか吹いて、ヒデオも寝てると残りのクッキー全部俺が食べちゃうぞ」

「ははは、きっと夏バテだよ、じゃあおにいさんは帰るよ、じゃあねイヨリちゃん」

「はい、じゃあ選抜試験ではよろしくお願いしま、タケルさん、口と耳から血が出てますよ」

「いやあ、さすがに四天王と三人衆相手に無傷とはいかなかったようだねえ、今さら内臓の損傷が響いてきたみたい……だ……」

「会長!!?」


 タケルさんの巨体が背後に傾きそのまま倒れる。

 イテキ先輩は持っていたクッキーを放り出すとしゃがんで会長にすがりつくが会長が目を覚ます様子は無い。

 いくらイヨリの部屋にエアコンが無いからってこれからまだまだ暑くなるのにみんなだらしないなあ。


「イヨリ、クッキーもう一枚もらうぞ」

「どうぞ、ヤマト君」

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