第46話 襲撃1
月曜日の朝起きると、外は雨だった。嵐と言ってもいい。
スマホニュースを見ると、熱帯低気圧が上陸していると書かれていた。
また、スマホで地域情報を調べると、川が増水しており、橋は通行止め。
サイオン製作へ電話を入れて、本日は休みを頂いた。
まだ出勤日数が少ないので、有給休暇は付与されていない旨の説明を受けたけど、僕はバイトなんだ。
不満はなかった。
麗華さんにも、今日は無理に来ないで欲しいと連絡を入れた。
数分の後に返信が来た。
『分かりました』
短い文章だったな……。
さて、今日は、家で大人しくしていなければならない。
朝食用にストアでお弁当を買い、食べている時だった。
『優莉さん。異世界で、ちょっと困った問題が起きています!』
サクラさんからの突然の依頼だった。なんだろう?
「内容を教えてください」
『大地の精霊が暴れ始めました。人族の領土に被害が出始めています!』
精霊……。レオンさんに聞いたな。西の湖に霊王がいるとか。
祖母の武器であれば、僕でも対処出来るとも聞いた。
「助けに行った方が良いですか?」
『……決めるのは、優莉さんですが、このまま放置すると神樹にも影響が出そうです。
助けたい人はいないのかもしれませんが、お願いしたいです!』
行かない理由はないな。
食事を手早く終わらせて、雨の中外に出る。桜の樹を触ってログハウスへ移動した。
◇
何時もの武器防具を装備した時だった。
『乾坤弓と震天箭、それと壁に掛けられている槍を持って行ってください! 今日は今までとはレベルが違います!』
弓と矢は久々だ。余りの威力に敬遠していたのだけど、今日は必要なのか。
それと、あの目立っていた槍か……。余りにも怖い造形だったので手に取らなかった。
恐る恐る手に取ってみる。重さはそれほどでもないな。
一応、他の槍で素振りはしていたので、使えそうではあるけど。
乾坤圏と金縛を九竜神火軍と同じく、腰紐に固定して弓と矢を両手に持った。
槍は背負っている。それと、陰陽剣も腰に佩いた。
正直、武器が多すぎる気がする。手は二本しかない。
マジックバッグに入れると、咄嗟には使えないので装備していなければならないのだけど、全身武器だらけだ。
全身刃物だらけだ……。
『急いでください!』
結構、緊急事態なんだな。
僕は飛び上がり、急いでサクラさんの指示する方向へ飛んで向かうことにした。
◇
ダルクの街を越えて、人族の領土の奥地へ。ここまで来たのは始めてだ。
上空より遠くを見ているのだけど、土煙が見えた。まだまだ距離があると言うのにだ。
そして、それを視認した。
「サクラさん。あれが大地の精霊ですか?」
『はい! 大地が枯れたので養分を求めて神樹に向かっています!』
巨大怪獣くらいの大きさがあるのだけど……。あんな精霊が、この世界に住んでいるのか。
他の街は素通りして、そのまま土煙の場所まで直進した。
近づくにつれて、その大きさに驚かされる。
ダルクの街の城壁など、簡単に乗り越えられそうなくらいの巨体だった。
そして、精霊の向かう先には、城塞都市があった。その中心には、神樹がある。神樹は、ダルクの街よりもかなり大きい。
多分、王都になると思う。
人族を見ると、我先にと逃げ出していた。
まあ、あの精霊の巨体からすれば、防衛は不可能だろうな。
人と蟻くらいの体格差があるんだ。妥当な判断か。
「頭を吹き飛ばせば良いですか?」
『あの精霊は、大地に触れている時点でほぼ無敵です。回復し続けられると考えてください。
まずは、動きを止めるために、矢を放ってください。その後に、投槍して、地面に突き刺せば止められます!』
今まで戦って来た魔物とは、レベルが違うな。
とりあえず、指示に従う。 乾坤弓に震天箭をつがえて撃つ。精霊の頭に矢が当たると、大爆発を起こして止まった。
ただし、即座に修復が始まる。
僕が見た限りだけど、精霊の体と言うのは、液体で構成されているみたいだ。臓器などは見当たらない。
もしかすると、魔素の塊なのかもしれないな。
『急いで!』
サクラさんに促されて、槍を抜く。
力を込めると、槍から炎が上がった。そして、魔物の直上から投槍した。魔物の体が、再度爆散する。
槍は地面に刺さると、周囲を炎で包んだ。
炎の範囲は、魔物を飲み込むほど広範囲だ。
「槍は、震天箭以上の威力ですね……」
『その槍は、〈火尖鎗〉と言います。炎の槍ですね。貫いた物を焼くのですが、投槍すると広範囲を焼くことが出来ます』
祖母は、ここまでの威力が必要だったのか……。
精霊、いや霊王との対立は避けたいと思えた。
その後、大地の精霊の状態を観察する。
炎に阻まれて、大地から魔素を吸収出来ないみたいだ。回復出来ずに、その体を崩して行った。
そして、消滅してしまった……。
僕は、震天箭と火尖鎗を手元に戻す。火尖鎗をテレポート機能で手元に戻すと、大地の炎も消える。
性能として破格すぎるな……。
王都と思われる城塞都市は、何か騒いでいるけど、アンネリーゼさんのこともある。僕は、王族にあまり良い印象を持っていない。
少し考えたけど、僕は誰とも会わずにその場を後にした。
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