第49話 進撃
「体の急激な変化は、感覚が着いて行かないよ……」
今は精霊達と大乱闘中だ。
少し愚痴をこぼしながら、僕は火尖鎗を振るった。
目の前の精霊達が、吹き飛んで行く。
僕は、ステータス補正の体の調整が終わった後に、精霊の領域に踏み込んだんだ。
襲撃しようとした相手が、いきなり本拠地に現れたんだ。精霊達は、大混乱に陥っている。
そして、大挙して僕に襲いかかって来た。
だけど、僕には彼らの攻撃は届かない。
新しい魔道具を持って来たからだ。
・四象八卦衣……八卦衣の最上級品。全ての攻撃から身を守る。
サクラさんの説明だけでも、チートだと分かる。そして使ってみてチートだと感じた。精霊からの魔法のような攻撃でさえも、何事もなく弾いてくれる。
だけど、祖母はそれでも、ステータスを上げるリスクを負ったんだ。霊王が出て来てからが本番だと思う。
とにかく、次々に精霊を落として行く。
今持っている魔導具……、乾坤圏・金磚・陰陽剣・九竜神火罩は、
近づいて来た精霊は、火尖鎗を振るって迎撃する。
僕の通った後には、大量の精霊が横たわっていた。何も考えずに進む。
今のところ、乾坤弓と震天箭は不要だ。弓矢は、
湖が視認出来る距離まで来た。すると、変化が起き始めた。
精霊が遠巻きに陣を組んで、僕に近寄って来なくなったんだ。
「レベル差が、理解出来たのかな?」
ここまでのことをしておいてなんだけど、無駄な殺戮はしたくない。
生理的に受け付けない相手であってもだ。
ゴキブリを潰すのとはわけが違う。今の僕は、侵入者であり破壊者だ。
僕は、彼らの住処を荒す悪者なんだ。
だけど、止まることは出来ない。
そのまま進み、湖の畔に着いた。
ここで更に新しい魔道具を取り出す。これはサクラさんに聞いた、祖母が取った方法だ。
・混天綾……水を操る力を持った赤い布。
液体であれば、振動・切断・衝撃・貫通などの力を与えられる。
心を静める。
僕は、湖の水を掻き回した。
◇
大量の水生生物の死骸が浮き上がって来た。いや、あれも精霊なんだろうな。
湖の中……、霊王の居城は崩壊していると思う。
前回は、怒って出て来たそうだけど、今回は出て来ないな。
しばらく待っても出て来なかったので、自分から行くことにした。
湖に飛び込み、そのまま進んで行く。
精霊達は、僕に近寄って来ようとはしない。
精霊達に忠誠心はないんだな。霊王には、レオンさんみたいに統率するスキルはないのかな?
でも、〈霊王〉と王様を名乗っているんだよな?
多少の疑問を抱きながら、湖の底の霊王の居城に着いた。
『息が続かない。急いで終わらせないとな……』
瓦礫の隙間を縫って、泳いで進んで行く。
すると、更に地下へ続く階段を見つけた。
『多分これだよな……』
霊王の居城の情報は、事前にサクラさんから貰っている。
水属性の〈根源なる物〉の位置もだ。
祖母もここまで来たらしい。
ただし、ここから先のことは、僕が決めなければならない。
心を静めながら、更に進んだ。
◇
空気のある部屋に辿り着いた。ここに、〈根源なる物〉がある。
そして、目の前には、それこそ山のような巨大な龍がいた。空飛ぶ蛇型の龍……、霊王だ。
ただし、霊王だけだ。側近などはいない。
事前に逃がしたのかな? タイマンを望んでいる?
それと、部屋の中央には、柱があった。霊王は、この柱を守っていると思う。
「あなたが、霊王ですか?」
「……いかにも。我が精霊の王だ」
マジックバッグより、〈龍の筋〉を取り出す。ログハウスを襲って来た精霊のドロップアイテムだ。
僕が誰なのかを明確にするため、そして、挑発の意味も込めている。
それを見た、霊王が咆哮を上げた。
互いに、もう後戻りは出来ない。
僕は、火尖鎗を強く握り締めた。
だけど、ここで意外なことを霊王が言い出した。
「ま、待て! 待ってくれ!」
「ん?」
何だろう?
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