第30話 仕事4

 今日から、またバイトだ。

 寝ぐせを直すために、髪を洗って、ドライヤーで乾かした。

 ここで思う。


「ステータスで癖毛は直せるのかな?」


『出来ますよ? 作りますか?』


 出来るのか……。

 でも良いや。


「今は、止めておきます」


 魅力を上げ過ぎていて、今困った状態にある。

 それに魔物討伐のための、ステータスのはずだ。

 今は残しておきたい。


 そんなことを考えながら、サイオン製作へ向かう。

 本日は雨だった。レインコートを着て出勤だ。

 途中の川は、通行止めになっていなかった。まあ、台風が来なければ大丈夫だろう。

 道路の側道を進んで行く。


 「今日は渋滞が発生しているのか。こうなると自転車は楽だな」


 少し進むと、事故が起きていた。側面衝突したみたいだ。警察が、交通整理をしており、救急車が止まっていた。

 野次馬をする気はない。

 救急隊も来ているのだし大丈夫だろう。

 ここで思う。


『瀬死の重傷者がいたら、ポーションを使っても良いんだろうか?』


 ポーションは、オーバーテクノロジーと言える。モニカさんの傷を瞬時に癒した。

 こちらの世界でもストアを使えるのは確認済み。


『目の前に、瀕死の重傷者がいた場合に、使うかどうかだけでも決めておいた方が良いか……』


 善意で使い、騒ぎを起こすのは避けたい。

 全てを救うことは出来ない。それでも、助けたいと思った時、僕はどうすべきか。

 保身に走るのか、異世界に逃げるか。

 そんなことを考えながら、サイオン製作に着いた。





 今週は、不良原因調査だ。

 ずっと、製品が流れるのを観察するだけ。集中力を上げたとはいえ、退屈だな……。

 気になったことをメモして行く。

 材料の問題点、組み込み方、熱のかけ方……。試作品用の材料も貰っているので、実験も出来る。


「実験は、水曜日かな? 木曜日に纏めて金曜日に結果報告を行いたいな。明日は……、何の実験をするか決めよう」


 独り言を呟いた時だった。


「原因究明は、出来そうかな?」


 背後から不意に声を掛けられた。

 集中しすぎていて、気配察知が疎かになっていたな。

 でも、誰だろう? 車椅子の二十代の男性であった。


「……まだ、分かりません。条件を振ってみて、その結果からですね。今は、条件の項目を洗い出しています」


「……入社して一週間とは思えない言葉だね。ベテランみたいだよ」


「僕は、バイトですよ?」


「それで、父が困っていたのか。分かった気がするよ」


 ん? 父?


「自己紹介が遅れたね。西園寺佑真です。麗華の兄になります。麗華を大怪我から救ってくれてありがとう。僕がこんなだし、麗華にも何かあれば、父はふさぎ込んでしまっていたかもしれない。君には感謝しかないよ。

 それと、麗華に乱暴を働いたあの二人は、君にも暴力を振るったそうだね。もう街にはいないので、安心して暮らして良いよ」


「え? 西園寺さんのお兄さん?」


 それと、さらっと怖いこと言っていない?

 麗華さんと近い感じがするのは気のせいだろうか?


「あはは。 〈西園寺さん〉ね……」


「失礼しました。先週からお世話になっている、二階堂優莉です」


 頭を下げる。


「君のことは、父と麗華から聞いている。それと、お願いなのだけど、〈西園寺さん〉を止めて貰えないだろうか? 麗華が少し凹んでいてね」


 う……。嫌な汗が出て来る。


「分かりました。今後は〈麗華さん〉と呼ばせて頂きます」


「うん、ありがとう。それと正社員の件も考えて欲しい」


「……今は、友人の手伝いもあるので、それが終わらないとフルタイムでは働けないんです」


「そうか……。何をしているのかは聞かないけど、期待されていることも分かって欲しい」


「はい。善処します」


 佑真さんは、笑い出した。

 そして、仕事の邪魔だからと部屋から出て行った。

 しかし、何だったんだろう?


『っぷ、クスクス。未来の弟に挨拶に来たのでは?』


 サクラさん……。下世話だな。


『佑真さんは、足を悪くしているのですか?』


『怪我ではないですね。病気です。少しずつ症状が悪化していますね』


『ストアの薬品で治せますか?』


『治せますよ。大騒ぎになりますけどね~』


 助けたいし、助けられるけど、保身を考えてしまう。

 その日は、その後集中出来ずに、十二時を向かえた。





 祖母の家に帰って来ても、なんか集中できない。

 本当であれば、この時間は異世界に行き魔物狩りか剣と槍の訓練だった。

 でも、僕はストアを眺めていた。

 そして、麗華さんが来た。


「こんばんは。……麗華さん」


 僕がそう言うと、麗華さんは満面の笑みを浮かべてくれた。

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