第29話 城塞都市ダルク6
「新領主は、何時頃来ますか?」
「一週間後です。でも、少し遅くなるかもしれません」
「では、その時にまた来ます。
でも僕は、部外者だし会わない方が良いかな? 余計な波風立てても意味ないし」
「え……、あ。その。来て頂けると助かります」
真っ赤になって、モニカさんが答えてくれた。僕の袖を掴んてもいる。
まあ、新領主の件は任せよう。悪政を敷く人と思われたら介入すれば良いか。
それよりも目的を果たしてしまおう。
「今は時間ありますか? 農作物の生育状況を確認したいのですが……」
「は、はい! 行きましょう!」
モニカさんが、立ち上がり、僕の袖を引っ張った。
モニカさんが抱えていた書類は、他の人が受け取り何処かへ持って行ってしまった。仕事中だと思うのだけどよかったのかな? まあ、大丈夫だと思おう。
こうして、二人で建物から出て行き、畑に向かった。
◇
「……この植物は生育が早いですね。こんな短期間にしっかりと葉が生えているなんて」
「うふふ。一ヵ月程度で収穫出来るんですよ。発酵させたり、乾燥させて、保存食にするんです。一応、この地方の特産品になり、国中で食べられています」
日本食の漬物に当たるのかな? もしくはキムチ? ミネラルの補給になるんだろうな。
ここで思う。この植物の種を元の世界に持って行ったら、育つのかな?
いや、庭は荒れ放題だし、畑も作れない。
何より、見たこともない植物が育ったら怪しまれるか。
持ち帰る物があるのであれば、加工品だけにしよう。
それも、少しだけ。西園寺さんに見つかったら怖いし……。
その後、主食を栽培している畑に連れて行って貰う。
一応、お米に近しい品種だと思う。モニカさんの料理からの推測だけど。
異世界のお米は若干色が付いているのと、甘みが薄いくらいだ。
日本のお米は品種改良されているので、味が違うんだろうな。もしかすると原種に近いのかもしれない。
『……元の世界の籾種なら、もっと生育がいいよな。でも許可もなく持ち込むのは、問題だと思う。例え異世界でもだ。
やっぱりストアで何か買って、育てて貰うのが一番いいと思う。
時間のある時に、〈種〉で検索してみるか』
そういえば、ストアで買ったお米はどうしようか……。今のところ消費出来ていない。
西園寺さんに見つかる前に、ログハウスに持って来ておいた方が良いかな。
それと、冷蔵庫を買ったは良いけど、空っぽだ。活用したいな。
朝食はパンだし、夕食は麗華さんが作ってくれる。それに、ストアで調理済みの食品を買える。……あれ? 使い道がない?
「どうかされました?」
おっと、考え込んでしまった。
「いえ、順調そうで良かったです。それでは帰りますね。また、来週にでも来ます」
「ま、待ってください!」
モニカさんは、袖を離してくれなかった。なかなか帰してくれない……。
その後、喫茶店みたいなところで少し話を聞くことにした。
ダルクの街は、現在は無政府状態だけど、一致団結しており、治安は良いとのこと。
食糧も皆で分け合い、復興も協力し合っているのだそうだ。
理想的な街かもしれないな。
移住先としては良いかもしれない。
何か欲しい物がないか聞いたところ、医薬品が欲しいと言われた。
ポーションを百個ストアで買い、テーブルに置いた。薬草も良いかな? 一応、百個購入した。
それと、家畜について聞いてみたけど、増やしている最中なのだそうだ。
牛、豚、鳥、羊、山羊……みたいなのが、いっぱいいた。それと、馬が目に付いた。
元の世界から、家畜を連れて来る意味はなさそうだな。
残りのゴールドが、心もとなくなって来たな。少し遠出になるかもしれないけど、魔物を狩りに行くか。
あと、忘れないうちに聞いておこう。
マジックバッグから魔石を取り出した。
「これ、何か分かりますか?」
「……魔石ですよね? しかも随分と大きいし」
「どれくらいの価値があるか教えて貰えますか?」
「この大きさなら……、家一軒くらいかな? 王都のオークションに出せば、それくらいの値が付くと思います」
……。まじですか? マジックバッグの中に、数えきれないほど入っているのですが。
ダルクの街が本当に困ったら、魔石をあげるのも良いかもしれない。
でも、今あげると復興の邪魔をしてしまいそうだ。一個くらいならと思ったけど、モニカさんに危険が及ぶ未来が見えたので、渡さないことにした。売るのであれば、ダルク以外だな。まだ異世界の街は、ダルク以外に行ったことはないけど、そこで換金してダルクに物資を運んだ方が良いだろう。
今日はここまでとして、挨拶をして別れた。
ちなみにポーションと薬草は、モニカさんが手を上げると誰かが回収して行った。モニカさんは、高い役職に付いているみたいだな。
◇
ログハウスに戻って来た。
気になったので、一応の確認だ。
ストアに魔石を入れてみる。
査定結果は、三百万ゴールドと出た。単位が違うので、ギルとは比較出来ない。
多分、安く査定されているんだろうな。いや、この世界の魔石の価値が高いのかもしれない。
『いいえ』を押して、魔石は回収した。
非常時になったら売って貰おう。今の僕には不要な物だ。
さて、西園寺さんが来るまで少し時間があるし、剣と槍の素振りでもするか。
弓は……、怖いのでもう少ししてから練習を始めよう。
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