第28話 城塞都市ダルク5

 しばらく待つと、モニカさんが部屋から出て来た。

 だけど深刻そうな顔をしている。

 いや、モニカさんだけじゃない。部屋から出て来た人全員真顔だ。

 トラブルでもあったんだろうか?

 ここで、視線が合った。モニカさんが、駆け寄って来てくれた。


「ユーリさん。来てくれたのですね」


「植物の生育状況の確認をしに来たのですが……、何かありましたか?」


 モニカさんが、周囲をキョロキョロと見渡して、小声で答えてくれた。


「次期領主が決まったんです……」


 話だけでも聞いた方が良いかな?





 別室に案内されて、お茶を入れて貰う。

 今は、モニカさんと二人きりだ。


「次期領主は、どんな人なんですか?」


「王女様になります。王位継承権五位の方だったのですけど、政争に敗れてダルクに来ることになったみたいなんです」


 ふむ? 王族か……。まあ、元の世界にもいたけど、この世界の王族は中世を想像すれば良いかな?


『夢がないですね~。異世界のお姫様と恋愛したいとは思わないのですか?

 テンプレですよ。転移者とお姫様の禁断の恋』


 サクラさんから意味不明な突っ込みが来た。でも今は無視する。


「問題のある人なんですか?」


「……人柄は問題ありません。少し天然が入っているくらいです。

 それと、シノンさんと親友の関係にあります。補佐として、シノンさんだけは戻って来るそうです」


 前言撤回。王族に対して『天然が入っている』とか言える時点で、僕の知識にはない世界観なのだと思う。

 それと、シノンさんは戻って来るのか。……元領主を開放した時の娘かな?

 荒事が起きなければ良いのだけど……。


「どうして、皆深刻そうな顔をしていたのですか?」


 モニカさんが、視線を逸らす。 言い辛いことみたいだ。


「……ここだけの話。王族に政治は期待出来ません。国を運営しているのは、大臣以下の臣民なのです。

 言ってしまえば、『お飾り』の人なんです。

 でも、神樹の世話は、王族しか出来ないので追放も出来ません」


「神樹の世話? もう少し詳しく」


「以前は定期的にダルクに訪れていて、神樹の声を聞いていました。『神託』とも呼ばれています。これは、限られた人にしか出来ません」


 僕が、サクラさんと意思疎通しているようなものかな?

 それと、話から推測するに、血筋が関係していそうだな。


「今聞いた話だと、問題なさそうですけど?」


「……行政官として、誰が来るかで大きく生活が変わってしまうのです。

 前も言いましたが、今のダルクは最盛期の半分の人口しかいません。

 ユーリさんのおかげで作物が育ち始めましたけど、収穫はまだ先です。生活はギリギリなんです。

 どんな政策を出してくるかで、皆戦々恐々としている状況です……」


 そうか、現状でもかなりギリギリの生活であり、収穫はまだ先。

 天然入った王族が来て、行政官は誰になるかも分からない。

 唯一の救いは、元領主の娘のシノンさんくらいか。


「考えていてもしょうがないのではないですか?

 実際に来てからでないと判断出来ないと思うのですが……」


「それでは、遅すぎるんです。

 前回は、『鉱脈を探せ』で三年間駆り出されました。そして、見つからなかったのです。

 事前に、自分達の行いたい産業を明示しないと、どんな命令を下されるか……」


 専制政治というやつかな? そして、モニカさん達は土地に合った産業を行いたいのか。

 僕は、この世界を良く知らない。政治も詳しくない。


「それで、モニカさん達の希望は決まったのですか?」


「やはり、食糧生産を第一にしたいとの意見で纏まりました。

 だけど、他の街と比べると、見劣りしてしまい……」


 見劣りね……。何か新しい産業を求められそうと言うことか。

 う~ん。僕に手伝えることはないかな。

 ここで、、またサクラさんから突っ込みが来た。


『まったく! 何時もあなたは他人ごとに深く関わり合おうとしない!

 せっかく力を得たと言うのに! なぜ、モニカさんを助けようと思えないのですか!

 こんなに可愛い子が、助けを求めていると言うのに!!』


 ここで気が付く。僕は、モニカさんと普通に話していた。

 対人恐怖症と診断を受けて、出来るだけ人目を避けていた、僕がだ。

 ステータスによる変化なんだろうか? もしくは、レベル?

 前々から、自分の変化には気が付いていた。だけど、今の状況はかなりおかしい。

 原因は良く分からない。魔導具かもしれないし。

 ただし、僕は変わり続けていることだけは気が付いている……。

 呑まれないように気を付けないとな。


『ストアから何か買えば良いですか? それとも、元の世界から何か持ってきますか?』


『何でも良いですけど、不自然にならないようにしてください。

 オーバーテクノロジーなど論外ですからね』


 オーバーテクノロジーね。

 万農薬は良かったのかな? 元の世界でも使いたいんだけど。

 そうなると、家畜でも連れて来ようかな?

 いや、生き物はサクラさんが通してくれないかもしれない。


「産業……、産業か」

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