第45話 混乱4

「レオンさん。聞いておきたいことがあるのですが、良いでしょうか?」


「なんだ? 改まって?」


「人族に近い場所に、また魔物が増え始めました。なにか起こっていますか?」


「……ああ。そうか。そいつらは、俺の支配下ではないんだ。

 でも連れて来て貰えれば、保護も出来るんだがな。

 それと、精霊王が動き出したかもしれないけど、まあ、気にしなくて良い」


 精霊王? 後で、サクラさんに聞くか。


「僕が討伐することは、どう思いますか?」


「なにも感じんよ。こればかりは仕方がない。顔を合わせれば、互いに攻撃し合うのだしな。

 それと、魔物が人族や精霊を倒してもレベルアップする。ここはそういう世界なのだが、ユーミが文化を見せてくれてな。

 俺は、レベルがカンストしたから、国を作ることにしたんだ。正直、築く方が面白いよ」


「レオンさんは、この街の魔物達になにをしたのですか?」


「ああ。進化させて、擬人化を覚えさせた。妖孽ようげつは分かるか?

 魔物は、鍛冶や建築を行うだけでもレベルアップすることが分かった。それからは街作りだ。

 始めは少数だったが、次々に他種族を取り込んで行って、今や大所帯だ。

 たまに、街を破壊されたりしたけど、最終的には傘下に収めている。

 もう、戦争レベルでないと、攻め込んで来る奴はいないだろうな」


 ふむ。進化と妖孽ようげつか……。

 レオンさんも考えたんだな。いや、レベルの上げ方を良く見つけたと言った方が良いかもしれない。

 僕は、ステータスがあるので分かりやすいけど、土木工事でもレベルが上がるのか確認しないとな。

 もしかすると、バイトの作業でもレベルが上がっている可能性もある。

 それと、色々な種族を傘下に収めて行ったのか……。食事も生活様式も異なる種族を一つの街で生活させるとか、どれだけの行政手腕を持っているのかな……。

 例えるなら、肉食獣と草食獣に共同生活を強いているようなものだ。進化の一言で片づけているけど、知性を与えただけでは説明が付かない。恐怖で縛っているようには見えないけど、尊敬されているようには見える。

 魔王……、その意味を調べておくか。


「それと、街の名前は決まっていますか?」


「始めは、メルドの街だったのだが、今はメルド連邦を名乗っている。最終的には、メルド帝国になりそうだ」


 帝国か……。そうなると。


「他国と国交がありますか?」


 驚く、レオンさん。


「あ……、ああ。土属性と火属性の〈根源〉を守っている国と交易している。

 この二国は、地理的に離れていてな。恩恵を奪い合うよりは、交易を持って共存することを選んだ。

 まあ……、少しはやり合ったがな。

 水属性である霊王とは、良い関係を築けていると思っている。国交があるのは、この三国だけだ。

 それと……、もっと小さい街や集落を築いている種族とも、交流はあるな。そいつらは、隠れ住んでいるので、教えられない」


 地図を見せて貰う。

 この世界は、大きな大陸があり、北と南に大河が流れていた。この大河が国境線の役割を果たしているみたいだ。

 まだ、未踏の地も多く、分かっている範囲だけ書かれているとのこと。

 これからも、メルド連邦が発展して行けば、この地図も大きくなって行くと思う。


 その後、少し雑談して僕だけ帰ることにした。


「アンネリーゼさん、モニカさん、シノンさん。たまには来るようにします。

 必要な物があったら持って来ますので、考えておいてください」


「はい、ありがとうございます。レイカサンにもよろしく言っておいてください」


「誰ですか? レイカサンって?」


 三人がヒソヒソと話し出した。そこにレオンさんも加わる。

 ……四人が、いやらしい笑顔で僕を見て来た。

 恥ずかしくなったので、僕は帰ることにした。邪推はしないで欲しい。





 帰路に着き、飛びながら考える。

 正直、魔物は討伐しなくても良いんじゃないかと思えて来た。

 レオンさんの影響力を大きくして、統率させた方が良いと思う。捕まえて、メルド連邦で保護して貰えれば、レオンさんも喜んでくれるだろうし。


『それを許すと、他種族が困りますね。独裁の世界は好まれません。

 現時点でも、メルド連邦は、他国に対してかなりの優位な立場と言えます。

 人族と比べれば、国力は数倍と言えますよ』


「敵対は、しなくても良いのですよね? あの街を滅ぼせと言われても、やりたくないです」


『それは、優莉さんが判断することです』


 そうなると、友好関係を築いて行きたい。

 これからは、ダルクの街よりもメルドの街に通うことにしたいな。


「あと、精霊王って何ですか?」


『大森林の西側に大きな湖があります。そこを統治している王ですね。

 精霊というのは、魔物と少し違います。簡単に言うと魔石がありません。

 優未さんの武器を使えば、倒すことは可能なのですが、時間経過で再生します。

 まあ再生したとしても、前の能力を引き継げるとは限らないし、再生にかなり長い時間をかける必要も出て来るので、無敵ではないですね』


「人族とは敵対関係にありますか?」


『……魔物と同じですね。優莉さんが、精霊を見たら生理的嫌悪感を抱くでしょう。

 戦闘するかどうかは、優莉さん次第ですけどね』


 ……出会わないことを祈りたいな。

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