第18話 城塞都市ダルク1
朝になったので、顔を洗い、身支度を整えて桜の樹に触れた。ログハウスに移動したんだ。
もう、異世界転移が日常化し始めている。
モニカさんを探すと、朝食を作っていた。
「おはようございます。モニカさん」
「あ、おはようございます。ユーリさん。昨晩はどちらに行かれていたのですか?」
どうしようか。隠しても仕方がないか。
「異世界に家を持っているので、行き来しています。いや、こちらが異世界ですね。元の世界と言った方が良いでしょう」
「はい?」
その後、詳細をモニカさんに話した。驚いていたけど、スマホを見せたら信じてくれた。
発電機を持って来て、家電製品を見せるのも面白いかもしれないな。
その後、朝食を摂り、僕は元の世界に戻った。
朝食は、焼いた薄いパンに肉と野菜を挟んだサンドイッチを作ってくれた。
味的には問題ないな。調味料があるからなのかもしれないけど。味覚が、モニカさんと大きく違わなくて良かった。
◇
今日は、家電を買いたいので、家電量販店に行く。
オーガの鎖で得た資金だけど、まだ余裕はある。今のうちに必要な物を揃えておきたい。
でもバイトはどうしようかな……。
収入源の確保が、僕の一番の命題だけど、この数日何もしていない。いい加減にハローワークに行かないとな。
そんなことを考えて、家電量販店に着いた。
僕には、家電の良し悪しは分からない。
サクラさんに言われるがまま、炊飯器と電子レンジ、そして冷蔵庫、洗濯機を購入した。おまけで電気ケトルを付けてくれた。今までは、ヤカンでお湯を沸かしていたので楽になると思う。
時期的に独り暮らし用のセット物でも良かったのだけど、サクラさんは、『長く使うものなので良い物を買いましょう』と言って来た。僕には、特に不満もない。即金で支払いを済ませると、すぐに輸送してくれる話になった。
トラックに乗せて貰い、そのまま家路に着いた。
冷蔵庫は運んで貰い、設置までしてくれた。ただし、電源を入れるのは、三時間後にして欲しいと言われた。この辺は良く分らない。何かを安定させる必要があるらしい。まあ良いや。今は、食材もないし。夕方にでも冷蔵庫の電源を入れよう。
午前中でやることが終わってしまった。
昨日のパエリアの残りを食べる。食べながら考えた。
『サクラさん。異世界の通貨はどんな単位ですか?』
『単位は〈ギル〉ですね。紙幣はなく、硬貨を使用していますよ』
『ストアで買えますか?』
『現実的ではないですね。貴金属のインゴットに変えて売った方が良いでしょう。もしくは、魔石を売っても良いですね』
魔石……あれか、魔物を倒した時に出てくる石か。多少は持っている。
……モニカさんには、お金を渡して他の街に移って貰うか。その間に、あの街の問題を解決して、最後に戻って来て貰おう。
モニカさんは、家はどうしたのかな? 財産とか置いて来てしまったのかな……。
◇
ログハウスに移り、モニカさんに今後の方針を説明した。
モニカさんは暗い表情となり、俯いてしまった。だけど、彼女に選択肢はない。
最終的には頷いてくれた。
何処かに頼れる親戚とかいないかと聞いたら、かなり遠い街を指定して来た。海に面した小さな街であり、神樹もなく、平和な街らしい。それと、母方の実家があるらしい。
予定としては、出発は明日の夜明け前にして、まず城塞都市ダルクで換金して馬を買う。その後、二人で移動すれば良いと思う。
他の街に着いたら、乗合馬車で移動出来るとの事だ。
魔石の換金は、ギルドと呼ばれる場所が良いらしいけど、身分証がないので、安くなるけど露店の方が早いと言われた。
足元を見られかねないので、魔石ごとの大体の値段を教えて貰う。
ちなみに魔石は、魔法の燃料になるんだそうだ。魔法を覚えたい気もするけど、欲張り過ぎかな。
今は、祖母の魔導具の練習に時間を割いた方が良いと思う。
服装は、八卦衣であれば、問題ないみたいだ。和服にブーツでも怪しまれないのだろうか? モニカさんの靴を見ると、革製だった。この十年で変わったらしい。草履とかの方が、今は怪しいとのこと。
とりあえず、明日の準備をすると言うことで分かれた。
明日の夜明け前にまた来ると言って、ログハウスを後にする。
◇
祖母の家に戻って来た。
「ふぅ~」
『……甲斐性のない人ですね。見損ないました』
「な!?」
サクラさんから突然言われた。
「そうは言っても、ログハウスに住まわせることも出来ないし……」
『良いじゃないですか、住まわせても! モニカさんは、優莉さんを頼って大森林に逃げ込んだのですよ。お金を渡すので出て行ってくれは、ないと思います!』
そう見えるのかな……。
少し考える。
「サクラさん。領主を失脚させる方法は、何かありますか?」
『……領地に多大な損害を出せば、すぐに失脚するんじゃないですか? 例えば、城壁を壊されるとか。魔物に領土を蹂躙されるとか。領民は不満を抱えているみたいですし、僅かなきっかけで反乱が起きると推測します』
……ふむ。
「領主は、なぜ大森林に馬車で赴いたのか分かりますか?」
『あの道は、隣街と繋がっているのです。いえ、隣の神樹と言った方が良いでしょう。モニカさん達は、打ち合わせに行くところを襲撃しようとしたのでしょうね』
「魔物除けのお香は、どれくらい効果ありますか?」
『優未さんが作ったのですが、もう三十年くらい街への襲撃はありませんよ?』
余り考える時間は取れないな。
決断は早い方が良い。……行くか。
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