第19話 城塞都市ダルク2

 今僕は、夜の森を疾走している。

 ここで〈風火輪〉を使用してみた。ブーツというか靴の魔導具だ。

 浮き上がり、空中での姿勢制御が可能となる。推進力も十分だな。

 木の幹を蹴り、大森林を移動して行く。


「……大分慣れたな。飛んでみるか」


 樹頭より高い高度をとった。そのまま直進する。

 飛べている。まだ、細かい方向転換などは出来ないけど、走る時とは比べようもない速度が出ている。

 もう少し慣れれば、空中戦も可能となると思う。

 いやその前に、空飛ぶ魔物はいるんだろうか?

 そんなことを考えていると、城塞都市ダルクが見えて来た。


「ふう~」


 結構緊張している。

 これからすることを考えると、心が痛む。

 だけど、モニカさんや街の人々を救いたい。圧政を敷いている領主が悪い……。

 僕に裁く権利があるかと問われると、ないと思う。部外者の僕が横槍を入れるのも問題だし。

 でも、現状で良いはずもない。

 まあ、なるようにしかならないか……。


 まず大森林で、大きな魔物を探す。

 ちょうど良く、大型のサイの様な魔物を見つけることが出来た。

 陰陽剣を使い、ある程度傷つける。サイの魔物は、激昂して僕に向かって来た。

 方向を誘導する。ダルクに向かうようにだ。

 ここで、〈金霞冠きんかかん〉を使用する。僕の周囲に霞が発生した。姿が見えなくなり、気配まで消える。

 誰も僕を感知出来ないと思う。

 サイの魔物は、僕を見失って混乱している。それでも真っ直ぐにダルクに向かって行った。


 僕は、乾坤圏と金縛を握り締めた。関係ない人達を巻き込むことになるけど、苦しむ人達を見て見ぬ振りも出来ない。

 次の瞬間に、ダルクの城壁が大轟音を上げて崩れ落ちた。

 僕の全力の投擲……。乾坤圏と金碑を最大出力で使用すると、ここまでの威力が出るのか……。

 その崩れた箇所から、サイの魔物がダルクに侵入した。

 街は、大混乱だ。

 僕としては、出来るだけ被害を抑えたい。ここまでのことをしておきながら、怪我人も死者も出したくないと言うのが本音だ。

 だけど、意外なことが起きた。

 騎士と思われる重装備の鎧を着た兵士達が、槍で迎撃を行い始めた。

 サイの魔物は、出来る限り弱らせている。そして、大森林からダルクまで全力疾走している。もう体力がなかった。

 多少暴れたけど、槍の餌食となり息絶えた。この程度の魔物であれば、彼等でも倒せるのか。

 祖母の時代の魔物は、どれだけ強かったのかな?


 被害を見ると、多少の怪我人は出ている。死者は一応見えない。瓦礫に埋もれてしまった人もいるだろうから明言出来ないけど。

 自分でしたこととはいえ、心が痛む。

 だけど、一度始めたことだ、最後まで行おう。

 僕は、飛んで神樹に向かった。





 神樹に警備兵はいなかった。いや、普通はいるのかもしれないけど、城壁の騒ぎで離れているのかもしれない。

 僕は、大きな枝に降り立った。神樹の幹を触る……。


『サクラさん。どう? この街の情報は得られる?』


『ОKです。この神樹が保護する範囲は、私のテリトリーになりました』


 今日はここまでで良いと思う。

 今は姿を隠しているとはいえ、僕は不法侵入者だ。このまま見つかることは避けたい。

 一度、ダルクを後にして、少し離れた場所でキャンプをすることにした。

 肉体的な疲労はないけど、精神的にかなり疲れている。そのまま眠った。


 朝日が昇ったので、起き出す。

 ストアからおにぎりを買い朝食とした。水筒の水で押し流す。


『ふぅ~……。サクラさん。城塞都市ダルクの状況を教えてください』


『反乱が起きていますね。元々かなり不満が溜まっていたので、一気に爆発した感じです。

 城壁の破壊は、良い口実を与えた感じになっていますよ』


『領主は、どうなっていますか?』


『屋敷に立て籠もっていますが、危ないですね。警備兵が寝返ったら捕まるでしょう』


 急いで行くか。 領主は悪い人かもしれないけど、責任を取って貰う必要がある。

 〈金霞冠〉をマジックバッグに仕舞って、仮面を取り出した。今は顔を覚えられたくない。

 僕は再び飛び立った。ダルクに向けて。





 サクラさんに教えて貰い、領主の屋に向かった。

 住民が屋敷を取り囲んでいる。かなり危ない状況だな。


「城壁の修理費を削るからこういうことになるんだ!」


 ……なるほど、住民は城壁を修理出来ないことに不満を持っていたのか。それが壊れたので、不満が爆発したと。さすが、サクラさんだな。アドバイスは的確だったと言える。

 まあいいや、罵詈雑言聞いていても時間の無駄だ。終わらせてしまおう。

 僕は、〈九竜神火罩〉を用いて、屋敷を丸ごと籠に収めた。

 籠は一度屋敷を飲み込むほど大きくなったけど、その後、ポケットに収まるくらいまで小さくなっている。

 住民は僕の行動を見て静まり返っている。その後、ザワザワし始めた。

 今僕は空を飛んでいる。そして、屋敷を消したんだ。それは驚くか。

 街の人達への説明は……、いいや。面倒だ。後にしよう。

 唖然としている住民を横目に、僕はダルクから離れた。


 王都に向かう道の途中で、〈九竜神火罩〉の中身を出す。本当はこんな使い方をする魔導具ではないのだろうけれど、今日くらいは許して貰いたい。

 誰に向かって言い訳しているのか分からないけど、自分を納得させる。

 屋敷から、数人出て来た。領主とその家族だと思う。


「ここは、ダルクより離れた場所です。このまま王都に向かってください」


「……そなたは、誰だ?」


「壱岐優未の係です」


「!? 英雄ユーミの孫が、私達を助けたのか? それは凄い! 国王様に報告せねば!!」


「……助けた覚えはないです。あの街を救いたかっただけですので。

 良いですか? ダルクに戻ろうとは考えないでください」


 領主とその家族は黙ってしまった。

 かなり、高圧的に出てしまったかもしれない。だけど、圧政を敷いた人なんだ。責任は取って貰おう。

 再び飛び立とうとした時だった。領主の娘と思われる人物が問いかけて来た。


「あの! モニカが、何処にいるかご存じですか?」


 この娘は、モニカさんと歳が近い。思案する……。

 僕が保護していると言うべきか、否か。

 僕は、結局黙ってその場を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る