第17話 異世界の再会2

「何があったのですか?」


 僕からの、モニカさんへの端的な質問だ。とりあえず、現状と言うか、起こっている問題を聞かないと始まらない。


「……遺体から、襲撃を企てていたと推測されて。私だけは捕まるわけにはいかなかったので逃げて来ました。……他の皆は、オークの襲撃で亡くなっていました」


 モニカさんは俯いている。

 ただ一人の生き残りだったんだな。僕のレベルがもう少し上がってれば、他の人達も助けられたかもしれない。オークが二手に分かれるとは、思わなかったし、魔導具の使い方もまだまだだ。

 多少は責任を感じる。


「馬車を襲うつもりだったのですよね? 何で襲撃など企てたのですか?」


 なぜ僕が知っているのかと言う話は、置いておく。


「……税が高すぎて、もう皆疲弊しきっているのです。

 訴えようとすると、握りつぶされてしまい……。領主を亡き者にして交代を画策しました」


 かなり暗い話だな。こんな若い娘に犯罪を犯させようとか。

 だけど、モニカさんは怒りに震えている。

 頭をガリガリと掻く。


「助けたい人はいますか?」


「……襲撃は行えませんでした。大森林で採集を行おうとして全滅したことになっています。あの襲撃に関わった家族には、容疑は掛けられていません。でも、私だけは……」


 唯一の生き残りだからか。言質を取られるかもしれないので、逃げて来たんだろうな。拷問がないとも言い切れない。ここは、異世界なんだし。

 賢明と言えば、賢明か。逃げる先を大森林に選ばなければだけど。

 どうしようかな……。一時的にログハウスで匿うのは良いと思う。だけど、居座られるのは困る。


『サクラさん。モニカさんの街の状況は分かりますか?』


『私は、大森林の中だけしか分かりませんね。優莉さんが、街まで入ってくれれば、神樹と意思疎通出来るようになるかもしれませんが……。今は分かりません』


 ここで考えても時間の無駄か。

 モニカさんを連れて帰ろう。その前に食事だな。

 お弁当〈竹〉と水筒を渡すと、勢い良く食べてくれた。

 その後、また抱えて移動することにした。でもモニカさんは、嫌がらなかった。

 多少の信頼は、して貰えている様だ。





 ログハウスに着いた。モニカさんの入場許可は簡単だった。僕が触れていれば、ログハウスに入れたのだ。モニカさんを降ろして、まず始めに、食糧庫を確認しに行く。


「こんなに食材があったのか……」


 大型冷蔵庫のような部屋には、大量の食材が入っていた。野菜ですらある。

 十年以上腐らなかったんだ。多分だけど、時間停止機能があると思う。

 これならば大丈夫だな。

 それと、先日の戦利品をここに持って来る。蛇の肉や毒などだ。冷蔵しておこう。


「モニカさん。食料と水はあるので、しばらくはこの家で生活してください。この後のことは、少し考えるので時間をください」


「……はい。ありがとうございます。それで、ここは何処ですか?

 大森林の中なのは分かるのですが。建物も見たことがない作りをしていますし……」


「祖母の先生の家だそうです。僕も最近来れるようになったので、まだ詳細は分からないんです」


「……英雄ユーミの先生ですか? 聞いたことがありませんね」


 祖母は、隠したんだろうな。

 祖母の先生は、陰なから魔物を討伐していたのかもしれない。

 もしくは、異世界転移の技術の秘匿のために、このログハウスを作ったとも考えられる。


「僕は、長期間この家にはいられません。定期的に戻って来ますので、欲しい物があればその時に教えてください。

 それと、柵の外には絶対に出ないでくださいね。約束ですよ」


「定期的……、ですか。分かりました。大人しくしています。

 それと柵の外には出ません。魔物と遭遇すれば、命がありませんものね……」


 この大森林のことは、理解しているか。当たり前と言えば、当たり前か。

 約束だけ取り付けて、僕は元の世界に戻った。





「ふぅ~。疲れたし、驚いた……」


『良く間に合いましたね。結構ギリギリでしたのに』


「サクラさんは、あのタイミングを狙った訳じゃないですよね?」


『そこまで意地悪じゃないですよ。モニカさんが、大森林に入った時点で優莉さんに連絡したと言うのに!』


 それもそうか。距離的にもそんな感じだった。

 モニカさんは、ダルクの兵士が見つけるのが先か、僕が見つけるか、ギリギリのタイミングだった。

 だけど、戦闘して良いのであれば、僕が制圧していたと思う。まあ、結果はあまり変わらなかったかな?


『それで今後、モニカさんをどうするのですか? ログハウスに住まわせるのですか?』


「考えさせてください。魔物の討伐の他に、街の領主交代もさせなければならなさそうですし」


『それと、資金調達と就職先もですね。良いですね、やることが一杯あって~』


 そうだ……。元の世界での僕の立場は、とても危うい。

 異世界のことを考えるよりもまず、自分の腰を落ち着かせないと。

 ため息が出た。


「ふぅ~……。楽しんでます?」


『とってもアドバイスのしがいのある人で嬉しいです』


 ため息しか出ないよ。

 ログハウスとの契約破棄も出来なくなってしまった。モニカさんを追い出せないからだ。

 独りで静かに暮らしたいと思っていたけど、次々に面倒ごとに巻き込まれている気がする。


「今日は、風呂入って寝よう……」


『とっちの家で寝るのですか~?』


「からかわないでください!!」

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