第17話 異世界の再会2
「何があったのですか?」
僕からの、モニカさんへの端的な質問だ。とりあえず、現状と言うか、起こっている問題を聞かないと始まらない。
「……遺体から、襲撃を企てていたと推測されて。私だけは捕まるわけにはいかなかったので逃げて来ました。……他の皆は、オークの襲撃で亡くなっていました」
モニカさんは俯いている。
ただ一人の生き残りだったんだな。僕のレベルがもう少し上がってれば、他の人達も助けられたかもしれない。オークが二手に分かれるとは、思わなかったし、魔導具の使い方もまだまだだ。
多少は責任を感じる。
「馬車を襲うつもりだったのですよね? 何で襲撃など企てたのですか?」
なぜ僕が知っているのかと言う話は、置いておく。
「……税が高すぎて、もう皆疲弊しきっているのです。
訴えようとすると、握りつぶされてしまい……。領主を亡き者にして交代を画策しました」
かなり暗い話だな。こんな若い娘に犯罪を犯させようとか。
だけど、モニカさんは怒りに震えている。
頭をガリガリと掻く。
「助けたい人はいますか?」
「……襲撃は行えませんでした。大森林で採集を行おうとして全滅したことになっています。あの襲撃に関わった家族には、容疑は掛けられていません。でも、私だけは……」
唯一の生き残りだからか。言質を取られるかもしれないので、逃げて来たんだろうな。拷問がないとも言い切れない。ここは、異世界なんだし。
賢明と言えば、賢明か。逃げる先を大森林に選ばなければだけど。
どうしようかな……。一時的にログハウスで匿うのは良いと思う。だけど、居座られるのは困る。
『サクラさん。モニカさんの街の状況は分かりますか?』
『私は、大森林の中だけしか分かりませんね。優莉さんが、街まで入ってくれれば、神樹と意思疎通出来るようになるかもしれませんが……。今は分かりません』
ここで考えても時間の無駄か。
モニカさんを連れて帰ろう。その前に食事だな。
お弁当〈竹〉と水筒を渡すと、勢い良く食べてくれた。
その後、また抱えて移動することにした。でもモニカさんは、嫌がらなかった。
多少の信頼は、して貰えている様だ。
◇
ログハウスに着いた。モニカさんの入場許可は簡単だった。僕が触れていれば、ログハウスに入れたのだ。モニカさんを降ろして、まず始めに、食糧庫を確認しに行く。
「こんなに食材があったのか……」
大型冷蔵庫のような部屋には、大量の食材が入っていた。野菜ですらある。
十年以上腐らなかったんだ。多分だけど、時間停止機能があると思う。
これならば大丈夫だな。
それと、先日の戦利品をここに持って来る。蛇の肉や毒などだ。冷蔵しておこう。
「モニカさん。食料と水はあるので、しばらくはこの家で生活してください。この後のことは、少し考えるので時間をください」
「……はい。ありがとうございます。それで、ここは何処ですか?
大森林の中なのは分かるのですが。建物も見たことがない作りをしていますし……」
「祖母の先生の家だそうです。僕も最近来れるようになったので、まだ詳細は分からないんです」
「……英雄ユーミの先生ですか? 聞いたことがありませんね」
祖母は、隠したんだろうな。
祖母の先生は、陰なから魔物を討伐していたのかもしれない。
もしくは、異世界転移の技術の秘匿のために、このログハウスを作ったとも考えられる。
「僕は、長期間この家にはいられません。定期的に戻って来ますので、欲しい物があればその時に教えてください。
それと、柵の外には絶対に出ないでくださいね。約束ですよ」
「定期的……、ですか。分かりました。大人しくしています。
それと柵の外には出ません。魔物と遭遇すれば、命がありませんものね……」
この大森林のことは、理解しているか。当たり前と言えば、当たり前か。
約束だけ取り付けて、僕は元の世界に戻った。
◇
「ふぅ~。疲れたし、驚いた……」
『良く間に合いましたね。結構ギリギリでしたのに』
「サクラさんは、あのタイミングを狙った訳じゃないですよね?」
『そこまで意地悪じゃないですよ。モニカさんが、大森林に入った時点で優莉さんに連絡したと言うのに!』
それもそうか。距離的にもそんな感じだった。
モニカさんは、ダルクの兵士が見つけるのが先か、僕が見つけるか、ギリギリのタイミングだった。
だけど、戦闘して良いのであれば、僕が制圧していたと思う。まあ、結果はあまり変わらなかったかな?
『それで今後、モニカさんをどうするのですか? ログハウスに住まわせるのですか?』
「考えさせてください。魔物の討伐の他に、街の領主交代もさせなければならなさそうですし」
『それと、資金調達と就職先もですね。良いですね、やることが一杯あって~』
そうだ……。元の世界での僕の立場は、とても危うい。
異世界のことを考えるよりもまず、自分の腰を落ち着かせないと。
ため息が出た。
「ふぅ~……。楽しんでます?」
『とってもアドバイスのしがいのある人で嬉しいです』
ため息しか出ないよ。
ログハウスとの契約破棄も出来なくなってしまった。モニカさんを追い出せないからだ。
独りで静かに暮らしたいと思っていたけど、次々に面倒ごとに巻き込まれている気がする。
「今日は、風呂入って寝よう……」
『とっちの家で寝るのですか~?』
「からかわないでください!!」
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