第51話 出発

 気が付くと、ログハウスにいた。帰還石は便利だな。

 ただし、貴重品なので今回みたいな使い方をするべきではないのだけど。


 その日は、ログハウスで休み、次の日に、アンネリーゼさんの元に向かった。メルク連邦の街だ。

 レオンさんと、アンネリーゼさんは、精霊族との争いに気付いていたいみたいだ。

 結構深刻な顔をして待っていてくれた。

 三人でテーブルを囲む。


「とりあえず、アンネリーゼさんを連れて旅に出なければならないみたいです。

 金属性の巫女は、別途探して貰いたいのですが……」


 レオンさんが答えた。


「昔……、もう二千年以上前になるが、この世界には今より多くの種族がいたんだ。

 だけど、何種族かが絶滅してしまった。そんな時に、根源が現れた。

 時に優しく、時に厳しく我々と共にあってくれたのだが、進化を促してくれていたのか。

 俺も知らなかった内容だし、全ての種族が気付くのは、まだまだ先になりそうだな」


「僕や祖母、その先生は、そのために呼ばれたみたいです。まあ、やれるだけやってみますよ。

 ……それと推測になりますが、モニカさんかシノンさんが巫女に選ばれる可能性も考慮してみてください」


「モニカとシノンには、巫女の資質はなさそうだったよ。でも、今は別な仕事に着いて貰っている」


 ここで、アンネリーゼさんが笑った。


「私にも役目があったのですね。それもとても大きな。

 私は、全属性の根源と対話をして、繋がりを持たせるのが役目みたいです。

 その道案内を、ユーリさんが担ってくれる……。楽しみです」


「長い旅になりそうですけど、大丈夫ですか?

 知られていない根源があるのであれば、探さないといけないみたいですし。

 場合によっては、未踏の地を進まなければなりません」


「大丈夫ですよ。屋敷に閉じ込められていた時に比べれば、嬉しい限りです」


 最終的な目的が、明確でない以上、どんな旅になるかも分からない。

 『混乱を収めて、進化を促す』……難しいけど、やってみようと思う。

 祖母は、ここで悩んでしまったのだと思う。そして、体を壊していたので、出来なかったんだろう。

 あの手紙には、引き受けない選択肢も取らせるために、あえて全てを書かなかったんだろうな。

 でも、想いは受け取った。

 そして、僕はアンネリーゼさんを見つけた。

 僕は、出来る限りのことだけはしようと思っている。





 旅の支度を整えるために、一度ログハウスに帰って来た。アンネリーゼさんと一緒に。

 アンネリーゼさんに宝物庫を見せる。

 やっぱり、驚くよね……。祖母の宝物庫は、本当に宝の山だ。

 アンネリーゼさんに必要な魔道具を選んで行く。これは、サクラさんも手伝ってくれた。


 アンネリーゼさんには、〈称号:道士〉が付与されていた。これは根源の恩恵なのだそうだ。

 ただし、ステータスは付与されていないので、詳細は分からない。

 そもそも、生れつき〈称号:異世界人〉を持っていたんだ。別に驚くことでもないかな。

 アンネリーゼさんが、楽しそうにアクセサリー類を見ている。女性には楽しい作業になるんだろうな。

 ここで、サクラさんが口を開いた。


『優莉さん。向こうの世界でポストに手紙が入っています。

 それだけは、受け取って読んでください。

 判断は、優莉さんに任せます。ですが、絶対に読んでくださいね』


 ……大切な手紙になるんだろうな。

 アンネリーゼさんを置いて、一度祖母の家に移動する。

 ポストには、手紙とチケットが入っていた。


「……麗華さん」





 アンネリーゼさんの装備が決まった。

 元お姫様だけあって、アクセサリーが良く似合う。いや、着こなしているか。


「それでは行きましょうか。まず、神樹の機嫌を取らないとですね」


「いえ、その前に、霊王に会いに行きましょう。

 神樹の領域に雨を降らせて貰う演出から始めた方が、効果的ですね。メルク連邦で精霊にも会いました。"元金属性の巫女"と名乗れば、話が通じやすいと思います」


 ここで思う。アンネリーゼさんは、結構頭が切れる。

 初めて会った頃は、世間知らずな大食漢のお姫様と思ったけど、話してみると結構知恵が回ることが分かった。


「今、失礼なことを考えませんでしたか?」


 アンネリーゼさんが、口をムっと尖らせた。

 視線を逸らす。勘も鋭いな……。


「……いえ、なにも。それと、その羽衣は、飛行能力があるみたいですけど、練習しなくても大丈夫ですか?」


「話題を逸らしましたね。まあ良いです。

 何時までも、抱えられての移動では、不便ですからね。私も飛んで移動する方法を覚えたいと思います。

 それとも、ユーリさんは、私を抱えて飛びたかったですか?」


「それでは、練習も兼ねて西に行きましょうか」


「……真顔で、スルーされると結構心が痛むのですが。

 まあ、良いです。それでは行きましょう!」


 こうして、僕達は先の見えない旅に出ることになった。

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